お前は一体何者だ.2
北の魔王『リサーチャー・ラブメント』は、研究者である。
人であった彼は、魔物を捕まえ、血を抜き取り、頭部を開き、腹を裂き、血管の繋がり方や、その特性。魔石の位置や、その効果等、食べる為では無く、ただ知りたいと言う欲望だけで動く、所謂変態であった。
研究に明け暮れる日々の中、偶然にも手に入れた、貴重なサンプル。
それを砕き、構造を調べようとしたが、何を持ってしても砕けず、何を思ったのか、ラブメントは、おもむろに其れを飲み込んだ。
直ぐに内部から侵食が始まり、先ずは、胃が破裂した感覚がラブメントを襲う。
叫ぶ事も許さない痛みの中、胃、腸、腎臓、肝臓、膵臓、肺と、次々に作り変えられて行く身体。
そして等々、心臓の鼓動が止まった。
しかし、ラブメントは死んでおらず、訳が分からないと言う表情のまま、自らの身体を見る。
見た目は何も変わっていない。
気付けば痛みは無く、身体の状態を確かめて行く。
分かった事は、傷が直ぐに塞がる事。
心臓の鼓動が、止まっている事。
ラブメントは研究者である。
気になったら止まらない。止められない。
だからこそ、自らの胸にナイフを突き立て、無理矢理開いた。
ラブメントは歓喜に震えた。
喜びのあまり、開いた胸が治らぬ様、手でしっかりと押さえながら、その場で小踊りした程だ。
その開いた胸に見えるのは──巨大な魔石。
人から魔物への変化。
ラブメントは、人では有り得ない寿命を、手に入れたのである。
そうして、長き時を生きる中で実験を繰り返し、ドルジアヌ帝国に住まう者達から、北の変態と恐れられる魔王が、誕生したのであった。
「ふーんふん、あらぁやだわ。あの子達の反応が消えてるじゃない。モシュちゃんは何をやってるのかしらぁ……ここからじゃ見えないわね」
せっかく私の固有スキル、『融合』で、貴重な魔物ちゃんを混ぜてあげたのにねぇ。
空に羽虫も飛んで居るしぃ、まさかまさかの皇女ちゃん、国境越えてジアストールまで逃げちゃった?
「それはそれで、良い実験になるわぁ。あらぁん一匹残ってるわねぇ……あれはぁ、第二皇太子だったわねぇ」
指揮を任せる為に、自我を残して使っていたけれど、最近動きが鈍いのよねぇ。
「エサが悪いのかしらぁ? 襲わせた町や村の、新鮮な『お肉』を与えていたけどもぉ、贅沢させ過ぎたかしらん。あらっ……こっち向いたのに逃げたわね」
自我を残してるから、躾はしっかりしていたのに、嫌だわぁ。
「やっぱり、自我は要らないわねぇ。捕まえて、ゴブリンの脳と融合させようかしらぁ」
んふっ、ゴブリンは中々面白い魔物よねぇ。
増えるのが早くて、生命力も強い。
人と融合させたらぁ、グールになったのは驚きだけどぉ、使い勝手は最高だわぁ。
「んふっ。お馬鹿な皇太子が、せっかく出してくれたのだもの、遊び尽くさなきゃねぇ」
えーっとぉ、あれが国境かしら?
誰か居るわねぇ。二人……三人かしらん。
「ジアストールの人だったら嬉しいわぁ。解体してぇ、帝国民との違いを比べたいものねぇ」
さっさと捕まえて、今日は帰ろうかしらん。
「んっ、二人しか居な『天使様のご指示です』いぷごぉおおお──っ!?」
何かしらこれ……あらぁ、地面が向かってくるわぁ、変な感じねぇ。
ドゴゴゴッ──「あばばっ!?」
あらやだわっ、お化粧が取れちゃった。
服も土だらけで、一体何なのよぉ。
「っ、いだいばねぇ(ペキキッ)お化粧大変なのよぉ、私のお顔。お髭が濃いんだからぁん」
「……若干の効果有り、続けます」
何かしらこのお嬢ちゃんはぁ。
物騒なおもちゃを、手に付けてるわぁ。
「お姉さんに何か御用かしらぁ、お嬢ちゃん」
「お姉さん? 青髭の叔父さんじゃないの?」
ふふっ、やだわぁ。これだから餓鬼は。
「誰が叔父さんだゴルァアアアッ!生皮剥いでゴブリンの餌にすんぞ糞餓鬼ぃいいいっ!っと、危ない危ない……言葉には気を付けなさぁい、お嬢ちゃん?」
「天使様のご指示です」
話が通じないお嬢ちゃんねぇ。
若いお肉だし、捕まえてゴブリンの餌ねぇ。
「魔王を相手に、ど『ご指示です』こ『ご指示です』みゃじゅ『ご指示です』のぎゅっ『ご指示です』らりゅの『天使様のご指示です』みぎゃぁあああああああああああっ!!」
何よこの餓鬼っ、動きが捕らえられない!?
何その瞳──まさか魔眼っ!?
「天使様のご指示です」
魔眼だとしても、その速さと力は異常よ!
未成熟な身体でそんな動き、普通なら筋肉が壊れて、動けない筈なのに!
「天使様のご指示です。貴方を退治します」
「っ、こんなお嬢ちゃんに……魔王である私が、本気をだすなんてねっ!」
身体のどこでも良い! 掴んだ瞬間に融合して、取り込んであげるわ!




