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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界

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お前は一体何者だ.1



 簡易小屋を出て直ぐ、空から航空部隊隊長の『オチル』が降りて来た。


「ヘラクレス様」


「どうした、敵に動きでもあったかね」


 オチル部隊長自ら報告とはな。

 副隊長の『ラッカ』はどうしたのだ。


「ははっ。空から監視しておりました所、少し離れた位置にもう一名、確認致しました。その者はゆっくりと歩いており、もう直ぐ先の者と合流するかと思われます」


「もう一人……」


 部隊を半分に分け、攻め込むべきか……無駄な犠牲は出したく無いがな。


「航空部隊は監視を継続。一度、私とアレス殿で対応して見るのである。万が一私かアレス殿が攻撃を受けた場合、火矢を使って相手を牽制して欲しい」


「了解しました」


 うむ。どうやら王国軍を待っていては、対処が遅れるやも知れぬな。そう思い、アレスに知らせようと天幕へ戻ると──アレスはマロンに膝枕をされながら、耳掃除をしていた。


「天使様、耳の中も綺麗です」

「もう少し右、そうそこだ…」


 此奴らは……余裕で有るな。

 天幕の中とは言え、いつ戦闘になってもおかしく無いと言うのに、まさかここで耳掃除。


「アレス殿、マロンよ。攻め込む準備である」


「ようやくか……そうそう、上手いぞマロン」

「むふふ、天使様に褒められた」


 むぅ、影殿達は自由であるな。

 流君と言い影殿達と言いシャルネ殿と言い黒姫殿と言い……大人で真面なのは、ドゥシャ殿だけかね。


「違うか…ドゥシャ殿も変わり者であるな」


「口に出てるぞヘラクレス。ドゥシャに会ったら伝えておこう。ヘラクレスがドゥシャを、変人扱いをしていたとな」


「後生である…それだけは勘弁してくれぬかっ」


 そんな事をされたら、ただでさえ少ない休日が無くなってしまう。ミウやメオとの約束で、遊んでやらねばならぬのだ。


「冗談の通じ無い筋肉だな。そんなわざわざ、修羅の居る場所に行く訳ないだろ」

「天使様…修羅とは何ですか?」

「それはだマロン。訓練と称して、実戦形式での殺し合いを、定期的に行う者を言う」

「殺し合い…修羅…」


 ドゥシャ殿は、影殿達に何をしておるのだ。

 これは、私が聞いてはならぬ事では、無いであろうか。


「準備完了だヘラクレス。さっさと行くぞ」


「お供します天使様」


「いつの間に準備したのだ……」


 先程迄耳掃除をされていたのに、いつの間にか完全武装で立っている。耳掃除をする為に、装備一式を外していた筈なのに。

 このアレス殿のスキルなのか、影殿達全員が出来るかは知らぬが……教えて欲しいものだ。




「ほぅ、あれが敵の指揮官か……何者だ?」


「それが、何者なのか分からぬのだ。帝国の者であれば、ケネラ皇女が知っておるだろうが、あの様な状態だと連れ出せぬでな」


「ここからだと、お顔が見えないです」


 国境を分ける壁の瓦礫に紛れ、棒立ちのままの敵の指揮官を観察する。


「全く動かぬな……グール、には見えぬぞ」


「あれは人族だな。私の目には、気絶しままま立って居る様に見えるが」


 気絶したまま?

 こんな戦場で気絶しているだと?


「意味が分からぬな……(ピュイッ)」


「それは何の合図だ?」


「見ていれば分かるのである」


「……成程な」


 空で待機している航空部隊への合図。

 合図を受けた羽人の一人が弓を構え、棒立ちの指揮官らしき者へ狙いを定め──放った。


 放たれた矢は弧を描き、棒立ちの指揮官らしき者の顔を掠めて地面に刺さる。


「うむ……動かぬか。行って確かめる他あるまい」


「待てヘラクレス、様子がおかしい」


 様子? あれは……震えておるのか?


「天使様…あの人お漏らししてる」


 動き出したな…周りを見て、頭を掻き毟って、何をしているのだ?

 後ろを見たな……走り出した!こっちへ来るのである!!


『いやだぁあああああああああ────!?』


「アレス殿! 確保するぞ!」


「確保するのか……殺さぬのだな」


「それはっ、事情を吐かせてから決めるのである!」


 直ぐ様瓦礫から飛び出し──泣きながら迫って来る者に向かって行く。


 あの者、後ろを振り返って直ぐに、走り出したであるな。確か他に一人、此方に歩いて来る者が居るとの事であったがっ、先ずはあの者の確保である。


「誰だ退けぇええええええっ!!」


 腰に下げた剣にも手をかけず、腕をぐるぐると回し、まるで駄々っ子であるな。


「アレス殿!」


「分かっている──『ごふぇっ!?』──これで良いのだろ」


 お見事である!

 向かって来る者に対して、恐るべき速さで迫り、勢いを殺さず腹に一撃。


「ふぅ、ふぅ、追い付きました。天使様はお速いです」


「マロンも中々の速さであるな。ミユン君と、良い勝負になるのであるぞ」


「ミユン君? どなたでしょうか」


「ファンガーデンに住まう、精霊である」


「精霊様…会ってみたいです」


「二人共気を抜くな。少し先から誰か来るぞ」


 報告にあった者であるな。


「ぐがっっっ、嫌だぁぁぁっ、あいつがぐるぅぅぅぅぅぅっ」


「此奴っ、まだ動けるのか!?」


「凄く頑丈な奴だな……殴った時の感触も不自然だったし、何だこいつは」


 地面を這いずりながら逃げようとする男。

 ここまで必死になると言う事は、この先に居る者が、相当恐ろしいのであろう。

 隊を集め、数で潰すか……このまま、私とアレス殿だけで対処するか。


「ヘラクレス。兵は呼ぶな、邪魔になる」


「アレス殿……それ程の相手であるか?」


「違う。マロン、準備しろ」


「はい天使様…んしょっ(ガチッガチッ)」


 何をしてお……何だねその武器は?


「何をする気かねアレス殿……」


「何をだと? マロンの前哨戦、魔王退治だ」


 幼い体に似合わぬ、無骨なガントレットを装着し、マロンは一歩、前へと進む。


「天使様のご指示。相手を潰します」




 頭の可笑しい元影、アレスに鍛えられたマロン!

 ガントレットを装着して、ヤル気満々全力全開!

 歩いて来るのは誰なのか!

 這いずって居る者の正体は!

 主要メンバー全く居らず、それでも進むよヘラクレス!

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