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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界

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情報集め.2




 この者が帝国の皇女であるか。

 よくこの状態で意識を保っておるな。助けた時は、声も出せぬ程に弱り切っておったのに、もうここまで回復するとは。


「手短に頼むでヘラクレス。この姉ちゃん達、かなり弱っとるからな」


「分かっておる。事情を聞くだけであるからな」


 簡易ベットの横に有る椅子に座り、横たわる皇女と視線を交わす。

 その隣に同じ様に横たわる女性が、ジッと此方を見つめて来る。


「私は、このファンガーデン軍の指揮官、ヘラクレスヴァントと言う。ゆっくりで良いので、事情を聞かせてはくれぬか」


 そう問いかけると、皇女がゆっくりと腰を上げた。


「まだ起き上がるなっちゅーねん! そないな体で気を使わんでもええ!」


「大丈夫ですっ。寝たままなど、礼に反しますわっ、ふぅ……」


「ったく、ウチの力は体力まで戻らんのに。危ない思たら寝かせるで」


 強い女性であるな。と、そう思った。

 流君に文を送り、引き込もうとした女性。

 リティナ殿の力で、多少動けばする様だが、茶色の長い髪に白い毛が混じり、痩せ細り、顔色悪く、今にも倒れそうに見える。

 しかし、その瞳の力強さたるや……まるで陛下を前にしておる様だ。

 これが皇帝の血筋であるか。


「初めましてヘラクレス様。私は、第五十一代目皇帝…サハロブ、エグル、ノゾ、ドルジアヌが娘…リリトア、ケネラ、リル、パネラシアと申します。私の事は是非、ケネラとお呼び下さいませ」


 ケネラ皇女は口を開き、ここに至るまでの事情を説明してくれた。

 話を聞いて行くうちに、自然と拳に力が入り、今にも額から血が噴き出しそうになる程、激しい怒りが込み上げて来る。


「────以上が、ここに私が居る経緯となります。ジアストールに戦を持ち込んだ事、深く、深くお詫び致します」


 そう言うと、ケネラ皇女は頭を下げた。

 他国の、それも、ただ軍を預かる指揮官に対して、皇女である者が頭を下げた。


「っ、ケネラ皇女。貴殿が頭を下げる必要はないのである。ジアストールの者の非道な行為っ。此方こそ、詫びを入れねばならぬ……何か出来る事があるのなら、力を貸そう」


 流君がその場に居たら、何と言うであろう。

 ケネラ皇女の自業自得?

 戦を持ち込んだ責任?

 流君は身内には甘過ぎるが、敵と見るや容赦無く潰しおるからな。

 しかし、幸いこの場に流君は居らぬ。


「感謝致します…ヘラクレス様。では、私と婚姻を結び、皇帝として国を治めて下さい」


「うむ! むっ……今何と申された?」


 婚姻を結びとは、誰と誰がであるか?


「へラっ、ヘラクレスが告白されとる!?」

「おめでたですかぁ? 流さんが居たら、大爆笑間違い無しですねぇ」


 告白? 待て待つのだヘラクレス! ケネラ皇女は何と言っていた!?


「っっっ、婚姻を……私の夫となって下さい」


「ストレートに言いおったなぁ皇女様。こんなん前代未聞と言うか……なぁ皇女様、ヘラクレスはバツイチやけどええんか?」


「バツイチ……その元奥方は、今どこに?」


「随分と昔に亡くなってるで。ヘラクレスの奴、縁談山程来とんのに、前の奥さんの顔立てて断っとるんや。せやから今は、誰とも付き合うてへんな」


 ハッ、呆けている場合では無い!?

 リティナ殿が私の情報を、ペラペラと喋っておるでは無いか!!


「ならば大丈夫ですね。是非私の夫となり、帝国を治めて下さいませ」


「待たぬかケネラ皇女! 何故私なのだっ、じゃなくて意味が分からぬ! 力を貸すとは言ったがっ、何故そこで婚姻なのかね!?」


「一目惚れやな」

「一目惚れですねぇ」

「ケネラ様っ、モシュは嬉しゅう御座いますっ」


 如何っ、これでは話が進まぬ!? と言うか魔物の娘っ、お主絶対元気であろう!


「……あの時、グールに襲われそうになった時。その鍛え上げられた拳で、グールを薙ぎ払うお姿を見て、胸が熱くなりましたの……」


「待つのだケネラ皇女! それはアレだっ、何と言ったかっ……」


「ドラゴン効果やな。ドラゴンに襲われて窮地に陥ったお姫様を、颯爽と助ける騎士様がおって、騎士はクズ男やったのに、姫様が熱を上げてもうた話。時間が経って、姫様の目が覚めた頃には、立派なクズ王が誕生してたって言う、おもろい実話やな」


「それだ! ケネラ皇女よ、勢いで婚姻などと言うものでは無い。ゆっくり休んで、一度冷静になりたまえ」


「私は冷静です。冷静に、ヘラクレス様の事が好きになのです。ですが今は、戦の最中故、想いだけでも……」


「本気やな」

「本気ですねぇ」

「私は側室でお願い致します」


「お主も何を言っておる……モシュ殿。ケネラ皇女の話では、お主は人族であったとの事。それか何故、魔物に成っておるのだ」


 肌の色が黒っぽく、目の瞳孔が縦に割れ、口から牙が見え隠れしておる。まるで、黒姫殿を模したかの様な姿であるな。


「ヘラクレスは半魔見た事無いんか?」


「半魔? 無いのである。聞いた事も無い」


「簡単に言うとやな…魔物が人種を孕ませて、産まれて来たモンを、半魔っちゅーねん。産まれて直ぐに魔物に喰われるから、数は少ないんやけどな」


「それだと変では無いかね、モシュ殿は人種であったのだろう」


「そやねん。半魔は産まれて来た時から半魔やから、この姉ちゃんは半魔や無い。でも今は、見た目も中身も半魔その者や。ウチの力で理性は戻したけど、体の中に有る魔石までは、正直どうにも出来へん」


 この女性の体内に魔石っ、だから半魔であるのか。


「モシュ殿、何か思い出せる事は無いのかね」


「……それが、追っ手の者を、斬り伏せていたところまでは覚えているのですが……」


 情報は何も無しであるか。

 仕方あるまい。


「そうであるか。どちらにせよ、砦周辺の敵はもう居らぬのでな。ゆっくり休んで、体力を回復させよ」


「感謝致しますヘラクレス様」

「モシュ、一緒にヘラクレス様を支えるわよ」


 ぬぅっ、勘弁して欲しいのである。


「流にーちゃん早よ来んかなぁ」

「来たら大爆笑ですねぇ」





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