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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界

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開戦.5



「これは……何とも酷い有様であるな」


 砦まで辿り着いて直ぐ、跳ね橋をオーガガールズ達で固め、砦内部に侵入したグール共を潰して回った。

 そしてそのまま、歩兵部隊、救護部隊、補給部隊を呼び込み、砦内部の調査を開始。


 幸いと言って良いものか。

 残って居た兵士達が、最後の力を振り絞って扉を死守していた為、グールに成った者は少なかったが……それよりもこの状況だ。


「指揮官は何処かね……」


 痩せ細った兵達は下を向き、何も答えない。

 何かを隠しているのだろうか、誰一人として声を発しない。


「ヘラクレス様! 此方に来て下さい!」


 二階から呼ぶ声が聞こえ、急いで向かった。

 そこに居たのは、豪奢なベットの上で横たわる、痩せ細った老人。

 その首には、北の魔物で有名な、『パワードベア』が彫られたネックレスを付けており、それはそのまま、とある貴族の紋章となっている。


「この紋…この方が、アッパー辺境伯であるか。すまぬが急ぎ、救護隊に居るリティナ殿を呼んで来てくれぬか」

「了解しました! 直ぐ呼んで参ります!」

 

 アッパー辺境伯のこの姿……誰かが世話をしていた様ではあるが、ここまで酷くなるものなのかね。

 胸から腹部にかけて傷が縫われ、呼吸もしているが、それ以外にも、体の至る所に真新しい痣や切り傷が有り、腕や脚が……これは一体どう言う事なのだ。


「来たでヘラクレスのおっさん、何の様や。ウチら出番無くて、結構暇して──なんやその爺さん、起きへんのか?」


「そうだ。すまぬがリティナ殿、この方を治療出来ぬだろうか」


「あ──、ちょっと見せてみぃ……」


 脈を計り、口の開いて確認し、瞼を開いて確認し、手を胸に当てて『んんっ……』と考え込んでいる。


「リティナ殿、どうかね」


「治せはするけど、完治は無理やな。少なくとも前線には立たれへん。特に脚の骨……何回も殴り付けて折れたんやろうけど、骨が砕けて粉々になっとるわ。歩ける様にはなるけど、そこまでやな……チッ」


 リティナ殿が、病人を前に舌打ちとはな。

 何度も殴り付けて……成程、あの兵達が何も言わぬ訳だ。

 この状況を見るに、籠城戦となっていたのだろうが、極度の緊張か、空腹による苛立ちからか……どちらにせよ、やって良い事では無い。


「リティナ殿、ここは任せるぞ」


「任せとき……頼むでヘラクレス」


「勿論だ」


 私は一度、砦の外を確認する。

 流石ファンガーデンの軍であるな、面白い程敵の数が減って行くのである。


 待機している機動部隊は、部隊長である馬人の『オドルー』と、副隊長である猫人の『モラサニャ』の判断で、グール共を囲む様に隊を配置していた。


 オーガガールズ達は、自らの力に慢心せず、一体ずつ確実に仕留めているし。それをサポートする様に、羽人達は火矢を放っていた。


 歩兵部隊は、砦内部にてまだ使えそうな武器などを掻き集め、不測の事態に備えている。


 遠方から、補給物資の追加が有れば、航空部隊から機動部隊に伝えられ、砦迄の安全を確保しているし、補給部隊には魔法使いが乗っている。


「改善すべき点は、まだまだ有るか……流君がこの状況を見たら、何て言うのだろうな」


 さてと……ここ迄来たのだ、やれる事をせねばならぬな。


 歩兵部隊に、砦内に残る死に体の兵達を集める様命じ、時間を置いて、その場所へと向かう。


 その場所とは、砦内部に有る練兵場。

 五千もの兵達が収まる訳も無く、正に鮨詰め状態で座らされ、あぶれた者は、通路や階段で無理矢理立たせたままだ。


 私は、唯一圧迫される事の無い壇上から、黙り込む砦の兵達を眺める。

 誰も彼もが痩せ細り、殴り合った痣を隠す者や、目を逸らす者。一人言を呟く者や、泣き腫れた顔をしている者。その誰もが、正に死んだゴブリンの目をしていた。


「私は、陛下の命によりファンガーデンから援軍として来た、ヘラクレスヴァントと言う者だ。先ずは、この中で一番の上位者は誰かね」


 その言葉で、全員の視線が動いたのを見逃さなかった。その視線の先に居たのは、革鎧に身を包んだ、年若い兵士。


「ぼっ、僕は違っ、偉くなんてなっないっ。しっし子爵様っ、子爵様がいる筈だっ」


 ようやく口を開く者が出たか。

 子爵が居るのかね……この場の誰も、其奴の方へ顔を向けぬが。


「チッ、あいつは死んだっての……」

「あいつが門を開けさえしなけりゃ」


 むっ? 籠城戦の最中に門を開ける? 馬鹿では無いのかね。


「ひっ、じゃっじゃあお前だろケビンっ。僕は爵位何てももってないっ」

「何で俺なんだ! お前はいつもいつも、副隊長だって威張ってただろ! こんな時だけ貴族じゃ無いって逃げる気かよ!」

「僕は一部隊の副隊長ってだけでっ、ケビンは男爵位を賜ってるじゃないかっ」

「それは親父が死んだからっ、それを言うならあそこの爺だろ! 素知らぬ顔で下向いて、子爵の取巻きだったじゃねぇか!」

「儂は知らぬ! 関係無いわ! あのアッパーがやられおったのが悪いのだし、儂は何も悪く無いぞ!」


 うむ……何とも醜い。

 私はただ、この場の上位者は誰かと、聞いただけなのだがね。

 ギャーギャーギャーギャーと、煩いのでは無いか? 痩せ細った体でありながら、叫ぶ元気は有るのだな。


「ふぅ……この馬鹿共がぁああああああっ!!」


 筋肉が膨張して、付けた鎧が音を立て、今にも弾け飛びそうになる。


 いかぬな、怒りに呑まれてはならぬ。

 全員萎縮してしまったでは無いか。

 落ち着け……落ち着くのだヘラクレス。


「貴様等はジアルトールの貴族であろう。何故指揮を取らぬ、何故兵を纏めぬ。他の者も……貴様等はジアルトールの兵なのであろう。外で助けた女性、それとアッパー辺境伯のあの傷はなんだね……貴殿は答えられるか、ケビン男爵殿」


「っ、あの女が帝国兵を入れたんだ! アッパー辺境伯が保護しろって言ったせいでっ、何で俺達が! 敵国の皇女を護らないといけないんだ!」


 なんとっ、あの傷だらけの女性は皇女であったのか!? ギリギリ間に合って良かったのである。


「それで、何故アッパー辺境伯は、あの様にボロボロだったのかね」


「やったのは子爵っ、死んだコーガン子爵だ! 元とは言え伯爵家の奴にっ、俺達が逆らえるかよ!」

「そうだっ、僕達は悪く無い!」

「指揮をしなかった子爵がっ、コーガンが悪いんだ!」


 此奴ら……もう駄目であるな。

 この砦の規模、兵の数から考えて、爵位を持つ者がこの者達だけとは考えられぬし、軍である以上、隊長格も複数居るにも関わらずこの有様かね。

 

「もう良い、貴様等には何も求めぬ……しかし心せよ! 貴族の誇りも兵としての矜持も! 貴様等は自ら全てを捨て去った! 恥を知れ愚か者共が!!」


 戦が終わり次第、陛下に報告せねばな。

 恐らくは、お家取り潰しの貴族家が出るであろうが、私の関与する話では無いな。


「ヘラクレス様。砦の掌握、完了致しました。外の敵もあと僅かとなっており、殲滅次第、この砦の周囲に陣を敷きます」


「分かったのである。それと、この砦の武器防具資材等々、全てを外に運び出し、砦を完全封鎖。この愚か者共を砦外に出すな。逃げ出す者は、その場で斬り伏せても構わぬ」


「了解致しました」




 ヘラクレスが砦を封鎖した!

 リティナが慌てて門を叩き、大声で叫んだ!

 ヘラクレスは慌てて門を開けた!

 ヘラクレスは怒られた!

『ウチらの事忘れとったやろ! ほんま脳筋過ぎんでヘラクレスのおっさん! アッパー運べや!アッパー!』

 ヘラクレスは小さくなった。

 

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