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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界

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北の国からいらっしゃい.5



「陛下、南西のから兵が向かって来ております。あれは……ファンガーデンの軍ですね」


 バルコニーから、望遠鏡を覗いていたラナがそんな事を言って来た。


「ほぅ……彼奴ら近いとは言え、異常な早さで準備しおったの。こちらの準備は、あとどれ程で終わる?」


「少なくとも、後三日はかかるかと」


「三日……」


 ファンガーデンに影を送り、まだ一日と少ししか経っておらぬが、どうするかの。

 こちらの準備が整う迄王都に滞在させるか……そのまま北の砦に向かわせるか。ヘラクレスが来たら、聞いてみるかの。


「陛下……」


「なんじゃ? 何か見えたのか?」


「ファンガーデンの軍の進路が……若干ズレております」


 ズレておる?

 ファンガーデンから王都までは、ほぼほぼ一本道じゃろうて、ズレる事なぞ無い筈だじゃがの。


「あれは……王都を横切る感じですね」


「ヘラクレスの奴め、儂に挨拶も無しで向かう気か?」


 彼奴は脳筋であるが、儂を蔑ろにするなぞ無いと思っていたのじゃがな……何かあったのじゃろうか。

 どれ、儂も見てみるかの。


「ラナよ、望遠鏡を貸してくれ。儂も少し見てみたいのじゃ」


「……陛下、見ない方が宜しいかと」


 むっ……断りおったの。

 ラナにしては珍しいが、儂に対して不敬が過ぎるのでは無いか?


「これは王命じゃ! 早よ見せい!」


「陛下……もう直ぐ十八とは思えぬ、我儘ぶりで御座いますね。後悔しても知りませんよ」


「構わぬ!」


 ラナから半ば無理矢理に望遠鏡を受け取って、遠くで土埃を撒き散らしながら、進んでいる集団を見てみる。

 これは……遠過ぎて見え難いの。

 むぅぅぅ、何じゃあれは……マッスルホースに並走しとるのか?


「のうラナや……あれ、おかしく無いかのぅ」


「そうですね、色々可笑しいです。マッスルホースと並走している事も可笑しいのですが、何よりその後方……どう見ても魔物が混ざっております」


「はぁ!?」


 何処じゃっ、後方じゃな! 

 あれは──オーガの雌では無いか! 

 何故魔物が兵に混じって走っておるのだ!

 

「一体どうやって手なづけた……オーガ共は、人や獣族を餌としか見ておらぬ魔物じゃぞ……」


「流さんは、人や獣族以外の存在ですので……十分に有り得るかと」


「魔王……いや、今は魔神じゃったか。常識からかけ離れとると言うか、ただの馬鹿者じゃな」


 ラナに望遠鏡を返して、少し頭の整理をする為に、紅茶で喉を潤す。


「そう言えば陛下、アレス様のお姿が見えませんが、どちらに居られるのですか?」


「会議が終わって直ぐ、城下に向かった様じゃな。何をしとるか分からぬが、帝国に向かう時には戻って来るじゃろ」


 影から表舞台に出したからの。

 カモフラージュの屋敷も必要じゃし、彼奴も色々と、せねばならぬ事が多いのじゃろうて。


「陛下……何やら、完全武装のアレス様が城下を突っ切って、正門へ向かっております」


 ふぅ……お茶が旨いのじゃ。

 

「陛下? 連れ戻さなくても良いので?」


 ふぅ……お茶が旨いのじゃ。


「……陛下?」


「もう好きにさせたら良いじゃろぉおおお! ドゥシャの教育の所為か!? それとも彼奴が可笑しいだけか!? 影共は馬鹿ばかりなのじゃぁあああ──っ!!」


            ◇ ◇ ◇


 円卓会議の爺共に帝国の情報を伝えて直ぐ、影に手紙を持たせてファンガーデンへ向かわせた。

 勿論手紙の内容は、女王直筆の援軍要請であり、あの異常の巣窟であるファンガーデンならば、二日程待てば来るだろうと思っていた。

 それがまさか、手紙を送った次の日に王都に来るとは、良い意味で予想外だ。

 急ぎ身支度を整え、城下にて路上の石をぼーっと眺めていた娘を抱えて、厩舎へと走った。


「ドゥシャの指示か、魔神様の御力か……早くあの軍に合流しないとな」

「てんっしさっま、どちっらへっ、向かわっれるのっですかっ」

「舌を噛むから口を閉じてろ。今から、お前の村を蹂躙した馬鹿共を、潰しに行くんだ」

「──っ」


 色々と仕込んでから、仇討ちさせてやりたかったが、この好機を逃す手は無い。

 城下に居るにもかかわらず、ここまで届くあの軍の威圧ならば、帝国の兵など塵芥も同然だろう。

 それを利用させてもらう。

 暫定皇帝の首だけは、この娘に斬らせなければならないからな。


 厩舎へと到着して直ぐ、マッスルホースに跨り、娘を前に座らせて私と紐で括る。でなければ、勢いで落ちてしまうからだ。実際、帝国から戻る際、マッスルホースを走らせたら娘が落ちた。


「これなら落ちるまい。さて、覚悟は良いか娘」

「はい、天使様っ」


 マッスルホースの手綱を握り、横腹を足で強く叩くと、マッスルホースは『ブルルゥッヒヒィイイインッ』力強く鳴き、走り出す。

 

「待っていろ帝国兵……攻めて来た事、後悔させてやる」


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