北の国からいらっしゃい.3
「──と、言う事でヘラクレス様、王都から招集がかかっております」
「流君が居ないにも関わらず、この様な事態になるとわな。私が居ない間はドゥシャ殿に領主代行を命じるが、それで良いかね」
「承りました。足の速い影を使い、流さんを追って頂きますので、上手くいけば戦に参戦する前に、合流出来るかと存じます」
うむっ、それならば問題あるまい。
幸い緊急時の『まにゅある』とやらを、流君が準備しておるからな。
「村長戦うの?」
「ムキムキするの?」
「そうであるな! ミウ、メオ、私が留守の間、この館をまかせるぞ!」
「了解しました! (ムキムキッ!)」
「大丈夫! (メキメキッ!)」
うむうむ、体には全く筋肉は無いが、その心意気は間違い無く筋肉であるな。
「ドゥシャ殿。各部隊から人を集めるのに、どれ程の時間を要するかね」
「そうですね……遅くとも一時間程で完了致します」
「……早く無いかね?」
「旦那様の書いたマニュアルに沿って、時折訓練をしておりました故、招集をかければ直ぐに集まります。兵站物資の積込みに時間を要しますので、それが大体四十分程でしょうか」
ファンガーデンの兵は、二十分で準備が完了するのかね……それは異常な早さだぞドゥシャ殿。
「旦那様曰く、『これでも遅い』だそうです」
「何を基準にいっておるのか……」
「私にも分かりかねます。旦那様は、私にも隠されている事がある様なので」
ドゥシャ殿に隠す事……時折披露する、どこから得たか分からぬ知識かね。
ミルン君やミユン君、黒姫殿は知っている風であったが、あの御使との関係と言い、よく分からぬ存在であるな。
「それでは私は兵を集めて参ります。ヘラクレス様、出陣のご準備を」
「うむ、久方ぶりに身体を動かせるな」
ファンガーデン緊急時における兵の招集方法は、いたってシンプルである。
領主館に常駐している羽人族が飛び立ち、各区域の役所に報告をして直ぐ、設置してある専用の鐘を鳴らす事。
鳴らす回数によって意味合いが異なり、鐘を五回鳴らすと、通用門前緊急招集となる。
それにより、各区域に常駐している者達が走り出し、通常では有り得ない速度でもって、通用門前へと集合する。
「あんのボケ流にーちゃんっ、何でウチまで行かなあかんのや!」
「一応領主の命令ですからぁ、仕方無いですよねぇ。リティナ様はぁ、私が護りますからぁ」
「リティナ様! 回復薬積込み完了しました!」
「鼠人総員百二十名! いつでも行動出来ます!」
「ほんまっ、面倒臭い……ほな食糧とかの積込みもやったって。あの魔法使い共だけやと、時間がかかってしゃーないねん」
ふむ、リティナ殿は文句を言いながらでも、しっかりやっているのだな。
「あぁ!? ヘラクレスのおっさんも積込み手伝えや! その筋肉は飾りなんか!」
「私は全体の纏め役なのだが……いや、手伝って来よう」
「リティナ様。ヘラクレス様はぁ、一応この軍のトップなのですからぁ、穏便にですよぉ」
「ええねんヘラクレスは! どうせいつも、書類仕事をドゥシャはんに丸投げしとるだけやろ! こんときぐらい仕事せいっちゅーねん!」
ぐっ……否定が出来ぬな。
これでも出来る様に頑張っているのだぞ。
ミウやメオに呆れられたら、流石の私でも辛いからな。
「ルトリア殿、あと少しで出発となるが、積込み作業は間に合うのかね」
リティナ殿に言われて、補給部隊を見に来たのだが、なぜか未だに、木箱の大半が土の上に置かれていた。
周りの魔法使い達は座り込み、息も絶え絶えといった様子だが……体力が無さすぎるのでは無いかね。
「これはっ、ヘラクレス様っ、(ドスッ)少々遅れておりますねっ、(ドスッ)」
「元気なのはルトリア殿だけか……魔法使いは、体力の無さが課題であるな」
「そうで御座いますよ全くっ、(ゴトンッ)嘆かわしい限りで御座います。アルテラ教徒の一員でありながらっ、(ドスッ)私より休むのが早いだなんてっ(ドスッ)」
ルトリア殿が特殊過ぎるのでは?
元々王都で、巨大なアルテラ像を一人で磨いていたとの事であるし、体力だけは有るのだろうな。
「リティナ様に言われ、応援に来ましたー」
「うぉっ、まだ全然進んで無いじゃん! お前らっ、急いで積み込むぞ!」
「魔法使い達は馬車に乗ってっ、荷物渡すから並べるだけしてろ!」
「……部下達が優秀で、羨ましいっ」
ルトリア殿のその言葉は、駄目であるな。
人は誰しも得手不得手が有るのだから、そこを上手く調整するのが、隊長の役目であるぞ。
「ヘラクレス様も手伝って下さいよー」
「リティナ様にサボってたって言いつけますよ」
「救護隊の面々……リティナ殿に感化され過ぎでは無いかね……手伝うか」




