急報と軍編成
「殴られた分は返さないとなぁ……ミルンとミユンは黒姫と話してるし、跨ったままだから分からんだろうなぁ」
『にっにに兄さんは節操無しかぁ!? ウチに何をする気やっ……まさかっ正気か兄さん!?』
正気も正気!
御手手わきわき!
その無い無いを少しでも大きくしてやんよ!
魔神の力、とくと味わうが良い!!
後少しだったんです。
無い無いでも良いかな?
結局お店で遊べてないし、良いかな?
良いよ!
そう思って、全力でわきわきしようとしたんです。
そしたら──『流殿っ! 一大事に御座る!』
姿が見えなかった影さんが急に現れて、後少しだった所を邪魔されたんです。
「……何でだよ後少しなのに! 俺だって男なんだよぉおおおおおおっ!!」
「っ、助かったわぁ……威圧解けてもうたやん」
「流殿! 至急ジアストールへお戻りを! 北の帝国が攻めて来たで御座る!」
ぐぅぅぅ糞ぉ……はっ? 今なんて?
悔しくて良く聞いてなかったな……何か凄い不穏な事言ってた様な。
「影さん、今なんて言ったの?」
「っ、ジアストールが攻められて居るで御座る! 王都よりヘラクレス殿に一報が入り、軍を編成して北の国境へ援軍に向かったとの事! 雲では無く影からの知らせにて、間違い無いで御座るよ!!」
北……あの世界会議で。朕朕言ってた奴が攻めて来たのか? 確か北はドロドロの内乱状態で、他国に攻め入る余裕なんて無かった筈。
「ふっふふ、何やウチには好奇やないか。早よアトゥナ置いて、助けに行ったらええんとちゃうかぁ兄さん?」
何でアトゥナ置いて行く前提……一人なら早く向かえるぞって事か。
「いや、帰るだけなら一瞬だし、アトゥナを置いて行くつもりは無いぞ? 黒姫! 『なんじゃ流?』この魔王見張っててくれ! 俺は影さんに詳しく状況を聞く!」
「ほっ、お安いご用意なのじゃ。魔王よ、大人しくしておけば、危害は加えまいて」
「化物が、なんで化物の言う事聞くんや……」
凹んだ地面から這い上がり、ミルンとミユン、アトゥナを呼び付けて、傘音技も加わり、再度影さんに聞いてみた。
「影さん、もう一度詳しく報告を頼む」
「御意。先程、影の一人のスキルにて緊急の知らせが入ったで御座る。北からの侵攻にて、国境付近で戦との事。王都からファンガーデンへの援軍要請が有り、ヘラクレス殿率いる軍が、国境に向けて進行中で御座る」
「有事の際にと思って作っておいた、マニュアル通りの部隊編成か?」
「そこ迄は分かりませぬ。知らせをして来た影も、結構慌てていた様で御座るしな……」
慌てる影さんってのも居るんだな。
筋肉村長、ちゃんと部隊編成出来てんのか?
不安になって来たな。
俺が考えて伝えておいた、人間や獣族の特性を活かした部隊構想。
現代戦の異世界版って所だ。
流石にミサイルとかドローンとかは無いから、一昔前のって枕言葉が付くけどな。
斥候工兵部隊──犬族を中心とした、所謂鼻が効く種族で構成された、偵察部隊だ。
暗闇でも目が効き、主に敵の戦力の把握や、侵攻方向の確認、補給路の確認、罠の設置等が任務となっている。
航空部隊──羽人族を中心に構成した、航空弓兵部隊だ。高高度から矢を射る事によって、重力を利用し、鉄をも貫く威力となっている。
又、油の入った容器に火を付け、簡易的な焼夷弾を落とす役割や、空から敵のリアルな情報を集め、報告すると言った役割も持つ。
機動部隊──馬人族を中心に構成した、陸地での機動力を高めた部隊。
背には猫人族が乗っており、その身軽さと馬人族の機動力が合わされば、鈍足な兵など意味を為さずに肉塊となる。
歩兵部隊──器用貧乏な人間を中心とした、所謂マルチ部隊だ。
しかし、歩兵部隊と侮って居ると、痛い目を見る事になる。
なぜなら、歩兵部隊=主力部隊だからだ。
攻めの部隊は、魔龍の川の奥にある山々に住まう『オーガの雌』であり、並の武器では傷一つつかない屈強な女性達である。
それをサポートするのが人間の部隊であり、その隊長を務めるのが、筋肉村長こと、ヘラクレス筋肉と言う訳だ。
救護部隊──リティナがリーダとなり、歩兵部隊の後方で待機する、鼠人で構成された部隊だ。
小さい体を活かして、あっちやこっちやと薬を運び、その愛らしい姿から、軍全体のマスコットとしての役割も持つ。
補給部隊──随分前に乗った、リティナの馬車を参考に設計した、重装甲馬車のマッスルホース部隊である。
軍を維持する為に、絶対になくてはならないモノである、食料や水を運ぶ重要な部隊であるからこそ、他の部隊には無い特徴がある。
その馬車に同乗する者──皆んな大好き、異世界あるあるの魔法小隊である。
人族で構成された小隊であり、アルテラ教神官ルトリアをリーダに、遠距離では魔法をぶっ放し、近距離ではマッスルホースが大暴れと言った、ロマン溢れる部隊へと作り上げた。
「ファンガーデンの守りを考えたら、連隊編成して約千二百程か……」
魔法使いがもっと居れば、部隊の幅も広がったんだけど、やっぱ魔法使い少ないわ。
これはどうしようも無い。
「さて……さっさと向かいたいんだけど、あの魔王が邪魔だよなぁ。放置したらヤバそうだし、どうしたものかね……」




