1話 流れて来た変人
2026/02/24 加筆修正致しました。
「それ今じゃ無くねええええ──っ!?」
「きゃっ!?」
あれっ、豚野郎は?
涎たらして追いかけて来て……どうなった?
生きてる?
「俺、生きてる?」
あっ夢かぁ。
そりゃそうだよ、あんなん夢だわな。
「ははっ、汗凄っげ……」
中々に、リアルな夢だった。
流石の流さんも、失禁五秒前発射オーライ。
「……あのぉ」
「んっ?」
目の端に犬耳がみえる。
夢なら良し。まだ俺の心に、ファンタジーな少年心が残っている証拠だからな。うんうん。
「……すみません」
目の端に、犬耳が見える。
あーっ、何か疲れてるな。
アレだな、悪い夢を見たせいだ。
「もしもーし」
目の端に尻尾が見える。
アレかな? まだ夢の中に居るってヤツか?
それなら話は早い。
俺はそっと横になり、瞼を閉じた。
「寝ないで下さい!」
「ふぐっ!?」
ドスンっと腹に何かが乗っかってっ、俺を寝させまいと、揺さぶって来るっ!?
「お願いします! 寝させて下さい!」
現実逃避したって、良いじゃないか。
「ここは、どこなんだ……」
とりあえず、身体を起こして辺りを見回す。
うんうん……今にも倒れそうな、ボロ屋の中に居る様な、感じしかしない。
そして、目の前には犬耳っ子。
金色っぽい、くりくりっとした、可愛いお目々に、茶髪の愛らしい巻き毛から、垂れ下がった犬耳が見える。
ファンタジーだ。
異世界だ。
心を無にして。
とりあえず撫でておこう。
わしゃわしゃ────「きゃっ!?」
「何で撫でてくるんですか! やめて下さい!」
わしゃわしゃ────「やー!?」
中々暴れる力が強いな。
それなら、一度抱っこして、ひっくり返してこうすればっと。
尻尾もモフモフ────「うーっ、グウウッ」
何か唸ってる?
大丈夫大丈夫、気持ち良い尻尾だなぁ。
おーよしよし。
「がぁっ!」
「痛ってえええっ!」
調子に乗ってやり過ぎたっ!
ガリっと腕を凄い噛まれたなぁ、痛てぇ。
「傷出来たんじゃ……?」
なんか、全然血が出てない。と言うより、痛みはあれど、傷が無い?
何故に?
今の痛さで、甘噛みですか?
「グウウッ……」
少し離れた所で、まだ怒っている。
「あ──っ、御免なさい。気が動転して思わず触ってしまってな。そんな警戒しなくても、もう大丈夫だ……」
「うー、もう勝手に、なでないですか?」
疑心暗鬼か?
大丈夫、勝手に撫でる事は、もう無いぞ。
疑いの眼差し止めてね?
「大丈夫だ。もう勝手に触って、撫で回す様な事はしない。約束する」
「……怪しい」
疑われる事は仕方が無い。しかし、しかしだ。俺は大人だからな。大人だから、はっきりと伝えよう。
「俺は謝ったぞ。だから犬耳っ子も、噛み付いた事を謝ろうな?」
犬耳っ子だとしても、駄目な事は駄目。
こうして笑顔で指摘すれば、犬耳っ子も分かってくれる筈だよね?
犬耳っ子は、何故かビクッと身体を振るわせて、おどおどと近づいて来た。
俺笑顔なんですけど、怖がられて無いか。
怒って無いのに。
満面の笑みを、浮かべているだけなのに。
「噛んで……御免なさい」
「はい、良く出来ました。で、ここはどこ?」
「私はだあれ?」
何で犬耳っ子が……そのネタ知ってんの?
犬耳っ子の名前は、ミルン。
可愛らしい、犬耳の女の子。
そのミルンが川に居たら、川上から流れて来た俺を見つけて、何とか引っ張り上げてくれたらしい。
より正確には、赤ジャージがズレてて、半分尻が出たまま、流れて来た様で、食い物と思って近付いたら、俺の"尻"でした! みたいな。
俺の尻は、桃の尻ですからね。
齧ると臭い、おっさんの尻だけどね。
んで、この場所は、ナントカ王国の領地の、ナントカって村の外れにある、魔龍の川付近。
「魔龍の川……ラスボス近くに居ないよね?」
地獄の入口だろうか。何でそんな場所で、ミルンはたった一人、ボロ屋に住んでるのだろうか。
「あまり詳しく無くて、すみません……村は有るんですけど、獣族の私はっ、入れないの」
凄い犬耳が垂れて、しょんぼりしている。
やだ可愛い。
「そうなの? でも、そのおかげで俺は、桃尻見つけて貰って、助かったんだよな?」
尻尾が少し、左右に揺れている。
「あのっ、おじさんは」
「俺の名前は、流だ」
おじさん呼びは嫌だ。
子供も居ないし、結婚もしてない身で、おじさん呼びされるのは、絶対に嫌だ。
「流……おじさん?」
「流れで良い。呼び捨てで構わない。それと、これは言っておかないとな」
俺は、ミルンに会って初めて、真正面から頭を下げて、真面目に伝えた。
「助けてくれて、有難うございます」
「そんなっ、頭を上げて下さい! 人種である貴方が、獣族に頭を下げるなんて!」
ミルンは慌てて、俺の頭を上げようとして来る。万力みたいな力でっ!?
「頭をっ、上げてっ!」
「っっっ、命の恩人に対してっ、良くわからん種族だのっ、人種だの関係ないんだっ! 助けて貰ったんだ……っ、ミルンにっ!!」
あっ、万力収まった? 首折れるかと思ったわ。
ようやく、ミルンの目を見て、笑顔で伝える事が出来るな。
「助けてくれて────」
ピンポンパンポーン 上がり調
レベルが1上がりました(キリッと)
ピンポンパンポーン 下がり調
「───有難うおおおいっ!?」
だからっ、今じゃ無くねっ!?
本気でタイミングっ、おかしくないか!?




