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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界
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誰に何を望むか




 しくじった。

 しくじってしまった。

 牢屋の件、兵達の暴走の件、薬を盛った件でも、『敵対』とは思われなかったのに、精霊様に断られた事で焦り、やってしまった。

 黒子を呼ぶなど、完璧な『敵対行為』。

 しかもその黒子が、何処からか現れた、ジアストールの暗部に拘束されている。

 兵を呼んだとしても、守護者様や、精霊様、守護者様の娘、あの酒を呑んでいる女子、勝てる訳が無い。

 詰んだ──自らの短慮な行いで、和土国が終わってしまった。


「さて、傘音技……今の態度で、俺と敵対する意志有りとみなすけど、俺は魔王じゃないからな、最後のチャンスをやろう」

「糞っ、何よチャンスって!?」


 黒子から聞いている。

 守護者様は魔王では無く、『魔神』と呼ばれていたと。

 魔王なら知っているが、魔神なぞ聞いたことが無い。その名に神を冠する者なぞ、聞いたことが無い。

 その存在が言う、最後のチャンス。


「お前は『誰』に『何』を望むか、もう一度、良く考えて答えろ」


 その様な事を言われても、私は『精霊様』にお願いするしか無い。


「パパは優しすぎるの!」

「お胸がデカいからなの! いい加減にしないとドゥシャに襲わせます!」

「ミルンさんや、ドゥシャさんの気持ちも考えなさいな」

 

 一国が終わるかも知れない瀬戸際に、何故こうもこの方達はこうものんびりしているの。


「ふむ、影もどうぢゃ、中々に旨い酒ぢゃぞ」

「ほう……では御相伴に預かるで御座る、黒子は逃さぬ故『がっ……』安心召されよ」

「変な人だらけだなぁ……甘酒うめぇ」

「良々、アトゥナももう慣れたのぢゃ、その動じぬ心を大切にするのぢゃ」


 冷静に、冷静になるのよ珠代……守護者様は何て仰られた……『誰』に『何』を望むか? そんなの、精霊様の御力で実りを望むに決まってるじゃないのっ!

 でも、それは断られた。

 嫌と言われてしまった。

 確かに精霊様には失礼な事をしたし、ご迷惑をお掛けしてしまう事も理解しているけど、まさか子供の様に『嫌!』の一言で拒否されるなんて……どうすればっ。


「まだかー傘音技ムグムグ、旨いなこの筍」

「ミルンはまだまだ食べれるの! モゴモゴ!」

「ミユンはもちゅもちゅ、この山菜が、もちゅもちゅ、中々なの」


 御食事は気に入られているご様子ですし、町に被害が無い事から、そこまで悪い印象だとは思えないっ、ならば何故っ!


「黒姫殿、このお酒は強う御座らぬか? よく平気で呑めるで御座るな」

「これが良いのぢゃ! あのシュワシュワする酒も悪く無いが、我は断然こっち派なのぢゃ!」

「顔真っ赤だぞ黒姫さん、流石に飲み過ぎだろ」


 父上っ、どうしたら、私はどうしたらっ!



  ────『何をしておられるか姫様っ!』────



「誰か来た……お爺ちゃんなの」

「埋めても栄養なさそうなの、頭薄い!」

「えぇいっ! 黙られよお客人っ!」

 

 爺……何をしに此処へ……お主は頭が固いから来るなと申したろうにっ。


「姫様っ、もう一度伺います……何をしておられるか。姫様とあろう者がっ、そこの者の真意を汲み取れぬとわっ、情け無いにも程が御座いますわい!!」


「あのお爺ちゃん聞き耳立ててたの、ずるじゃ無いのお父さん?」

「禿げがズルする気なの、あの禿げを埋めて良い?」

「どうだかなぁ、ヒントぐらいなら良いけど、核心を言ったらアウトかな」


「っ、分かっておるわい若僧がっ! 姫様っ、御身が今までなさって来た事を思い出しなされ。さすれば、あの者の真意が分かりましょうぞ」


 私がして来た事……幼き頃から、和土国を皆と守ってきた。

 父上が病で亡くなり、それでも、悲しむ暇もない程に、この国は弱っていた。

 民達も病で苦しんでいた。

 亡くなった者も多く居た。

 細工が得意な源六や、火消しの碁佐。

 いつも噂話をしていた梅婆に、食い意地だけが取り柄の葉門。

 腰が痛いと叫く治助に、笑い顔の大三郎。

 歳を重ねた者から、順に亡くなって逝った。

 それでも挫けず、畑の手伝いをして、皆の暮らしを良くしようと頑張った。

 鈴婆に頭を撫でられて、嬉しかった。

 戦の時も、多くの死者が出た。

 私の指揮で、多くの者を殺してしまった。

 それでも兵達は皆笑顔でこう言って居た。


『我等の誰が亡くなろうとも、姫様は覚えて居て下さる。だからこそ、我等は憂い無く前へと進めるのです』

 

 そうであったな……私は何をしているのか。

 爺の言った通りだ、これでは、爺に頭が固いと言えぬではないか。

 守護者様……いえ、流様の仰られた通り、頼みをする相手を間違えていたなんて。

 国の代表として、人としても、愚かな行為でしたわ。


「顔付きが変わったな……それで、答えは?」


「っ、ジアストール国小々波流辺境伯及び、その娘御であらせられるミユン御令嬢に、和土国代表、傘音技珠代が伏してお願い申します。どうかっ、我らの地をお助け下さいます様っ、何卒御力をお貸し下さい!」


 土下座はするんだな……礼の一つなんだけど、ある意味暴力だよねそれ。


「どうしよっかなぁ、爺さんが余計な事言ったみたいだし、『ぐぅっこのっ』どうするミユン?」

「……パパがこの国を見た時に、目をキラキラさせていたから、仕方無いの。ほんの少しだけ力を貸すけど、次は無いの。それと、報酬はしっかり頂きます」

「ミユンは優しいの! ミルンなら絶対やりません! お父さんに色目使ったから!」


「有難う御座います! 勿論報酬は言い値で御支払致します! 何卒、この和土国を御救い下さい!」

「姫様っっっ、お労しやっっっ」


「お父さん、お爺ちゃん泣いてる……」

「鼻水酷いの、絵面がヤバいの」

「二人共……お口にチャックな」



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