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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界
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精霊や妖精の居ない土地



 和土国初代将軍、傘音技濁陽。

 東の国々が争い、兵の骸が大地に埋もれる乱世において、その人望と卓越した指揮により、次々他国を攻め滅ぼし、一代にして国を成した偉大な父。

 人種、獣族問わず要職に任命し、『国力とは食である』と告げて直ぐ、稲などの田畑の拡張を命じた。

 国は繁栄する、誰もがそう思っていた。

 そんな時、国を病が襲った。

 民だけで無く濁陽自らも病に侵され、薬の量も限られていた。

 未だ戦の傷痕が消えぬ荒れた土地では、薬の調達が出来なかったのだ。

 濁陽は薬を飲まず、まだ幼かった娘の珠代に飲ませ、その後息を引き取った。

 珠代は濁陽の意志を継ぎ、幼いながらも、全力で国難に立ち向かった。

 時に戦の指揮をして、時に病に侵された民を見回り、時に自ら畑を耕し、その姿を民達は見て居た。

 強く、気高く、挫けずに前を行くその後ろ姿に、民達は感銘を受け、自然と心を一つにする。

 これが和土国の強さであり、誇りである。

 しかし、長きにわたる戦により、血に塗れた土地は痩せ、濁陽の命により始まった田畑の拡張は成せぬまま。

 そんな時、濁陽の残した書物が見つかった。

 濁陽は精霊、妖精を信奉していたが、珠代はそれを知らなかった。

 そこに書かれていたのは──懺悔の言葉。

 大地を汚し、血に染めた事への後悔。

 精霊や妖精の住まう場所を、無くしてしまった事への謝罪の言葉。

 珠代は願った。

 どうか許して欲しいと。

 珠代は願った。

 この国を助けて欲しいと。

 珠代は決意した。

 この地を──精霊と妖精達の楽園にすると。





「それが、守護者様を御招きした理由です。是非とも、和土国にお力添えを頂きたく」


「話なげぇわっ、見てみろミルンを! 詰まらないから怒ってるだろ!」

「モゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴ──!」

「ミルンお姉ちゃん本気なの……怒りで食料食い尽くす気満々!」


 何が精霊や妖精の楽園だよ……確かに、俺の眼にも妖精が一切映らないし、和土国に居ないのは確かだけどな。そんな泣脅しで従う程、俺は優しく無いんだよ。


「ミユン、傘音技がこう言ってるけど、ここに精霊や妖精が居ない理由って分かるか?」

「守護者様っ! やはりそのお方が精霊様ですのね!」

「お前は近付いたら埋めるの。パパ、理由も何も、原因はパパなの」


 えっ、俺が原因って……何もしてないぞ?


「精霊も妖精も、世界樹が大好きで、結構な数の精霊と妖精が、姿を偽ってファンガーデンで暮らしてるの。だからある意味でパパが原因……あと、数が多い妖精でも、流石にこんな汚い土壌に住みたく無いの」


「土壌が汚いか……やっぱり世界樹ってすごいのな。あの場所も結構、争いが有った場所なんだけど……」


「黒姫お姉ちゃんのお陰なの。黒姫お姉ちゃんがあの地で眠っていたから、膨大な力が大地を癒して、更に世界樹がそれを吸ったから、あの地は潤ってるの」


 あぁ……そういや前に、黒姫何か吸われてたな。それで世界樹が艶々だったのか、納得したわ。


「我の力を吸っておったが、まぁ我からしたら微々たるものなのぢゃ」

「黒姫結構辛そうだったじゃん……嘘はよく無いぞ嘘は」

「そんな事は無いのぢゃ!」


 そんなムキにならんでも良いだろ。


「精霊様っ、何卒っ、お力添えをお願い致します! このままでは近い内、作物が育たずっ、土地は痩せっ、民が飢える事になりかねません! 何卒っ、何卒っ!」


 宴の席でガチ土下座かよ……この為に芸者さん達退げたのか。

 でもなぁ……違うんだよ傘音技、それじゃあ駄目だ。


「嫌っ! ミユンはパパの精霊なの! パパを牢屋に入れた、お馬鹿な国には力を貸さない!」

「良く言ったのミユン! モゴモゴ、それでこそ私の妹なの!」


 ほらな……駄目だったろ。

 先ずは、来て初っ端から敵対されて牢屋行きでワンアウト。

 次に、俺に一服盛ったのでツーアウト。

 最後に……『精霊様』にお願いしたって事で、スリーアウト、ゲームセットだ。

 頼む相手、頼み方を間違えたな傘音技。


「それではっ、我が国わ──っ(ブシッ)」


 握り過ぎて爪が食い込んでる……血が出てるけどお構い無しってか。こうなると、残る手段は限られるけど……やったら終わりだぞ。


「ならば……黒『呼んでも無駄で御座るよ』っ、誰よ!」


 この独特の口調……ようやく来たのな。

 しかも、黒子さんにアイアンクローしながら歩いてくるって……何してんの?


「影なの! 久しぶり!」

「御座るなの! いつ見ても変な格好!」


「はっはっはっ、迎えに行ったで御座るが、どうやらすれ違いになっていた様で、良いタイミングで御座ったな!」

「本当にね、後少し遅れてたら傘音技を送ってたよマジで……」


「くっ、貴女がジアストールの暗部っ、まさか黒子が易々と捕まるなんてっ」

「この様な者なぞ、拙者の国であれば五万と居るで御座るよ。まだまだ青い青い、雲よりも未熟で御座るな」


 雲って何? 初聞きなんですけど。

 まぁ良いや、今はこの件をどうするかだな。


「さて、傘音技……今の態度で、俺と敵対する意志有りとみなすけど、俺は魔王じゃないからな、最後のチャンスをやろう」

「糞っ、何よチャンスって!?」


 ヤケになったら、叶うもんも叶わないぞ。

 少しだけしか見てないけど、俺はこの国の風景や、町の中の喧騒を気に入ってるんだ。

 だから──頼むから間違えるな傘音技っ!


「お前は『誰』に『何』を望むか、もう一度、良く考えて答えろ」



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