宴会珍会歓迎会.1
和土国の兵達を玉潰し、生埋め、強制脱毛をしている最中、和土国の暗部と思われる黒子が出迎えに来た。
その後ろを某RPGの如く付いて行き、本丸に聳え立つお城に案内されると思っていたら、何と罠有り隠し通路に案内され、そこからお城に向かった。
普通逆じゃね、と思わなくも無かったが、どうやら正門には、知られたく無い罠か仕組みが有る様で、そのまま何事も無く出入口に到着し、ゆっくりとその扉が開かれる。
────ガコッギィィィッ────
「それでは皆様、どうぞお上がり下さい」
その先に広がっていたのは────
「「「ようこそおいで下さいました魔王御一行様! 和土国の宴、是非御堪能下さい!!」」」
────だだっ広い大部屋に、まるで花街の高級店の如く佇む着物の女性達と、畳の上にはこれまた漆塗りの様な長テーブルに、色とりどりの食材が並んでいた。
これは正に、無礼講の宴の席っ!
何をしても笑顔で許される、最高の宴っ!
上座の席は空席で、しっかりと六席有る。
一席は傘音技が座ると考えても、しっかりとアトゥナの席が用意されているのは有難い。
「ささっ、皆様此方へどうぞ──」
おぉっ、これぞ女将って感じの凛とした雰囲気に低姿勢の物腰っ、気分出て来たぁっ!
「お父さんのお顔酷い!?」
「パパっ! 正気に戻るの!」
「俺は正気だぞ二人共っ! こんな宴っ、日本で一度も味わった事無いからな! 楽しむぞ!」
「流のおっさん……はしゃぎ過ぎだろ……」
「そう言うで無いのぢゃ。流にも何か、思うところが有るのぢゃろうて」
上座に座ると、直ぐに右後ろからそっと──『どうも、奈菜々と申しますぅ。先ずは一献、ささっ、どうぞー』
こんなん初めて言われたわ。
地味に嬉しいな。
小さなお猪口に並々とお酒が注がれて、間違い無く清酒……泣きそうだ。
「──ととっ、溢れる(グィッ)っと……旨いな」
旨すぎて、どんな言葉でこの感情を表すのかが分からない。
「甘いの! お酒じゃ無い?」
『可愛い御嬢様っ、それは甘酒と申しまして、御嬢様でも大丈夫な飲み物で御座いますよ……はぁ…はぁ…愛でたい……』
何か……ミルンが速攻で着物美女の心を鷲掴みにしたぞ。可愛いだろミルンは、自慢の娘なんです。
「んぐっんぐっ、甘々、丁寧な作りなの」
『有難うございますっ!? このお羽根……まさか妖精様……』
ミユンは逆に、着物美女が萎縮したな。
ミユンは妖精じゃ無いんだけど……傘音技来たら教えるし、後で良いか。
「んくぅ〜っ、これは中々のお酒じゃ! ほれっ! もっと注がぬかや!」
『はっ、はいですぅ! どっどっどうぞ!』
黒姫は……大人バージョン? 何かそれよりも幼く(御山が小さく)感じるから違うな。
どうやら新人っぽい子が担当の様だけど、アレで黒姫は懐が深いから、問題無いな。
「あっどうも……」
『安心する、私も悪魔族。カツラかぶってるだけだから、そんなに構なくても大丈夫……』
ほぅ、アトゥナの側には同族か……やっぱり顔似てるのな、種族特性か?
────パンッパンッ────
ん? 何か始まるのか、女将が合図だしたけど。傘音技まだ来てないし……何だ?
「さぁ皆様、和土国が誇る舞踊、是非御堪能下さいませ!」
ス──ッと奥の襖が開き、そこから続々と、芸者達が摺り足で進んで来る。一切のブレが無いその動きは、素人目で見てもちょっと怖い。
日本のカラクリ人形みたいな動きだよなぁ。
リアル横移動見てるみたいな感じ。
そこからはもう、何か凄かった。
異世界に来て、初めて弦楽器を聴いた。
その独特な音色の中で、優雅に舞う芸者達。
その中で一番に目を惹くのは、中心にて扇を持ち、まるで──今正に敵を切り裂かんと言わんばかりの、体の運びや扇の動きをしている芸者。
ゆっくりとした滑らかな動きでありながら、何故か目で追おうとすると、一瞬だけど見失う動き。
なによりその美しさ。
傾国の美女とは、正にあの芸者の事を指すのだろう。
腰まである長く、艶やかな黒髪をなびかせ、凛とした眉に、目尻と口には紅を引いて、元々が色白なのか肌の色に違和感が無い。
着物の締め付けにも負けぬ立派な御山が聳え立ち、そこから下ると、更に立派な桃の形がくっきりと浮かんでいる。
その芸者がゆっくりと、ゆっくりとこっちに歩いて来る。
俺は息を呑んだ。
心の臓がバクバク音を立てている。
これは何だ……身体が熱い。
芸者はゆっくりと近付いて来て、腰を低くし、俺の顔を見て笑みを作った。
そして、俺の顔を両手で掴み引き付け、自らの唇とかさ『戯れにも程が有るのじゃ、酒に何を混ぜた?』ねかけたその時、黒姫がその芸者の頭を掴んで止めた。
「おっ……何だ今の……」
「流……お主、一服盛られたのぅ。魔神と言えども特定の薬は効く様じゃな」
一服盛られた……だから息子がやたら主張して来るのか!?
「あっぶねぇ……何の薬だ? 媚薬か?」
「さての、それは此奴に聞くとしようかのぅ」
「割れるっ、頭割れちゃうっ、ちょっとしたお茶目じゃない痛痛痛っ!?」
「「「姫様っ! 離すのだお客人!」」」
「近付いたら潰すのっ」
「パパの唇は安く無い…動いたら魔物のご飯っ」
ミルンとミユン、臨戦態勢じゃん。
それにこの芸者達、今姫様って言ったのか? この黒姫に頭潰されそうになっている、物凄い美女さんを?
マジかぁ…………良しっ!
「……黒姫、そのまま掴んでいろ」
「分かったのじゃ流」
「ちょっとっ、本当に頭割れちゃうっ!」
ふぅ……じゃあコイツが傘音技か。
牢屋にぶち込まれ、兵達に襲われ、ようやく宴でわっしょいの気分だったのに、一服盛られたと言う訳だな。
「あっ、しゅっ守護者様!? 何を────」
「……手をわきわきっ、お望み通りにしてやるわぁああああああっ!!」
部下共の前で──醜態晒して後世に伝えられるが良いっ!!
「いやぁああああああああ────!?」