賠償金をふんだくろう.2
周りを見ると、槍を構えながら兵達が睨んで来るんだけど……先頭を歩いている黒子が怖いのか、誰も何も言って来ない。
取り敢えずは、何でこんな事になったのかを説明した。本当に、本当に今回は、ただの被害者だからね。
「ふむ、左様で御座いましたか……その門番は、斬首後に晒し首と致しましょう。姫様も、何故こうなったのかを不安がられておりました故」
「お首ちょんぱ?」
「身体は下さいな! 肥料にします!」
「怖いっ! この御嬢様二人共怖いぞ流のおっさん! 礼儀作法教えてこれかよ!?」
今は領内じゃ無いし、なんなら攻撃された側だから、俺は気にしないぞ?
「打首って言うなら、俺らに向かって来た奴等全員そうだよな? まさか一人だけで終わらせる気か?」
「流がまた変な事を考えてるのぢゃ……和土国は大変ぢゃぞ」
黒姫さんお黙りなさい、今から楽しい交渉事なんだから。
「本当に恐ろしいですね西の魔王は……何をお望みで?」
何かなぁ……米の苗は山程欲しいし、味噌も醤油も欲しい……着物も汚れたから欲しいし、沢山貰おうか。
「今回の詫びとして……その気持ちが欲しいな」
「っ、成程、お気持ちですか……」
そう、気持ちだ。
こちとら来て来てと懇願されて来たにも関わらず、貰ったブローチ役に立たなかったし、初っ端から牢屋行きだからね。
以前の俺なら、全裸で叫びながら城中を走破しているぞ。
だからこその気持ちが欲しい。
これは、俺達がどれ程重要視されているのかの秤であり、提供される物によっては、二度とこの地に来る事は無い。
寧ろ、目出たく敵国として認定だな。
「お父さん楽しそう、悪いお顔してる」
「パパは領主より商人向きなの、しかも悪い商人なの」
「ぬははは、そちも悪よのぅってか? 俺は善人では無いが、悪人でも無いぞ? 普通の人……じゃ無いのか?」
「人では無いの、魔神様なのぢゃ」
そうだったなぁ、人辞めてるんだった。
「魔神……魔王では無く?」
「気にしなくて良いぞ、似た様なもんだ」
「お父さんは魔王より上!」
「世界樹を護る魔神なの!」
「魔王より……上っ……」
黒子さんドン引きじゃん、せっかく誤魔化そうとしたのに、ミルンとミユンには腹芸は無理だなぁ。
おっ、ようやく到着か……?
黒子さんが足を止めたんだけど、本丸に有る立派なお城はあそこだよ? 何で端の小屋なんかに……隠し通路?
「本丸の出入口をお見せする訳にはまいりませんので、此方から行きます」
「へぇ、本丸の門に何か仕掛けとか有るのかね、楽しみにしてたのに」
「貴方様の危険度が増しました故、そこはご了承頂きたい」
「俺別に、魔王より強いって訳じゃ無いんだけどなぁ……」
近接特化型の魔王が居るのなら、即逃げる自信がある。だって殴り合い何て無理ですから、力のステ貧弱ですからね。
小屋の中に入って直ぐ、床に設置された扉を開けて中に入って行った。
何と言うか、いつ崩れてもおかしく無いと言うか、これ絶対罠あり通路ですよね。
「決まったら石を抜いたら、崩落する仕組みか」
「魔神様は良くご存知で、左様で御座います。何処の石とは申せませんが、一つでも抜けば崩落致します」
「だそうだから……ミルン! 触らない!」
「っ、バレたの!? 御免なさいお父さん!」
「パパ魔神化解いてないの、常時知覚を使ってるの……なんで?」
そりゃあ警戒してるからね。
黒子って、歌舞伎とかの裏方ってイメージなんだけど、前を歩いている黒子はどう見ても違うだろ。
雰囲気が、院長影さんに似てるんだよなぁ。
ガチ目にヤバい奴って事。
「流、案ずるでないのぢゃ。万が一にも其奴がおかしな真似をすれば、我が一瞬で塵に変えてやれる程度の者なのぢゃ。あの影とは比較するのも馬鹿らしいの」
「と言う事は、やっぱり院長影さん強いのか?」
「そうぢゃの……シャルネが五人居ると想像するのぢゃ」
あのシャルネが五人……怖っ!?
「ただの恐怖映像じゃんっ、怖すぎるわ!」
「シャルネ五人はミルンには無理!」
「一人ならタコ殴りなの!」
「シャルネって……誰なんだ?」
俺には一人でも無理です。
もうあんな死にそうな思いは嫌だ。
アトゥナは会った事無いだろうけど、アレに関わると碌でも無い事が起こるぞ。
「到着致しました、この上で姫様がお待ちです……先の門番の非礼、兵達の非礼、姫様に先んじて、お詫び申し上げます。何卒、その御力を姫様に御向けなりませぬ様、伏して、お願い申し上げます」
おいおい、こんな薄汚れた場所で土下座って、黒い衣装が汚れ……は目立たないか。
「分かったよ……それなら、さっき伝えた気持ちってので許してやるさ」
「それが一番厄介なの!」
「流石パパ、腹黒い」
「……感謝申し上げます(コンコンッコンッ)」
────ガコッギィィィッ────
「それでは皆様、どうぞお上がり下さい」