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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界
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和土国 傘音技珠代



 和土国────東の国の一つであり、建国されて数十年と歴史の浅い小さな国。

 未だ他国との戦は絶えず、その乱世の最中において人心を掌握し、決して強く無い兵でもって、戦に勝ち続けている、戦略、戦術に長けた国である。


 主に農業を主体とした産業を築き上げて来たが、他国を吸収し、織物や工芸等にも手を出して、徐々に国力を増大させて行った。


 和土国が祀るのは精霊様や妖精様。

 国の産業の要である農業において、この精霊様や妖精様の存在は無視出来ない。

 人種や獣族達でも畑は耕せるし、時間をかけれ、丁寧に育てれば実りが良く成る。しかし、一度虫害や干ばつ、病、大雨が降ればその実りは消え去り、一からやり直さなければならない。

 そうなっては民は飢え、他国に蹂躙され、たちまち和土国は消え去るだろう。


 そんな不安を抱え、云々と考えて居た時、遠い西の国から来た商人達の噂を聞いた。

 世界樹と言う、遥か昔にその姿を消した筈の大木が復活していた。その後、不可思議な力を持つ小さな子が魔王の養子になった。


 西の国で新たな魔王が生まれたか。

 当初は、その新たな魔王の確認と、西の動向を探る為に間者を送っていた。

 

 最初に送った間者が帰って来た。

 報告によれば、東の魔王共と違いまだ人並みには理性を有した魔王であるが、それよりも、その周囲の取り巻きが異常である。


 何だこの報告は……取り巻きが異常だと書いてある……魔王よりも?


 意味が分からなかった。

 二番目に送った間者が帰って来た。

 今度は直に話を聞いてみた。


 あの場所は異常だ。

 何故神格を有する化物が、普通に暮らし、歩いているのか。

 何故ジアストールの伝説に記された龍が、小さな姿となって寝そべって居るのか。

 何故城壁内部に、あの様な肥沃な大地が広がっているのか。

 何故西の果ての化物、殺戮人形が暮らして居るのか。

 何よりも……あの黒外套の集団は一体何なんだ!?

 仲間は全て捕まった、拙僧も、二度とあの様な場所には行けませぬ。

 

 此奴は見える者であった為重宝していたが、これ以降諜報の任から抜け、城下にて細々と暮らして居る。


 その者から聞いた報告は全て異常であるが、この国にとって最も必要な情報が有った。

 作物を育てる上で、土は命と同義である。

 限られた空間で作物を育てるには、それこそ年毎に土を変えるか、場所を変えねば、土が痩せて死んでしまう。

 それを砦内部で肥沃な大地……まさかっ、精霊様か妖精様が!?


 天啓を得た──これは精霊様や妖精様の導きに他ならないと、本気でそう思った。

 それからは間者の数を増やし、直接文を送り、精霊様、妖精様との接触を図るべく色々と手を尽くし、時間はかかったが、なんとか世界会議にて魔王と話をして、和土国へ精霊様、妖精様に来ていただける準備が出来た。


 出来た……筈なのにだ……未だ返答が無い。


「ねぇ爺、ファンガーデンからの文は来ていないわよね?」

「姫様……未だ届いておりませぬ」

「文とブローチ……しかと送り届けたわよね?」

「勿論で御様いますじゃ。以前行った事の有る者に任せました故、確実に届いておりまする」


 何故かしら……普通に御食事をして、あわよくば精霊様、妖精様に拝謁賜りたいだけですのに。


「姫様、西の国は遠く御座います。もしやすると、手違いで遅れているだけなのではと愚考致しますじゃ」


 手違いで遅れている……あの副官みたいなメイドが居ながら? 世界会議の様子を見るに、殺戮人形とも良好な関係の様でしたし、あの魔王は行動が読めないですわね。


「むっ……何やらドタバタと騒がしいですのぅ」

「また鼠でも出たのかしら、あの鼠は大きいですからね」


    ────ダダダダダダダダダッ────

    ────ダダダ──ゴッダダッ────

    ────ゴッダンッダダダダッ────


『痛っ、姫様! 姫様一大事に御座います!』


「ねえ爺…今…襖の向こうに居る者……転けたわよね、何回も……」

「間違い無く転けましたのぅ」


『姫様! 姫様! 一大事に御座います!』


「必死ね……ここから見る限り城下には異常無いし、何用かしら?」

「姫、お顔を隠します故、御簾の内側へ……」


 毎回面倒ね……自由に城下へ行けないのも困るので、仕方無いですが……これでいいでしょう。


「ゴホンッ、至急とあらばいたかた無しっ、入られよっ!」

『ははっ、失礼いたしまするっ!』


     ────スパアアアンッ────


「もっと静かに開けぬか馬鹿者っ!! 姫様の御前で礼を失するとは何事かっ!!」


 爺がマジギレしていますわ……高級襖がひしゃげる程の焦り様、結構な大事かしらね。


「申し訳御座いませぬっ、平にっ平に御容赦をっ!」

「ならぬっ! 貴様は姫様の前でっ、打首か今直ぐ腹を切れい!!」


 一度怒ると……これだから爺は駄目なのよ。


「爺、もう良い、話を進めなさい」

「しかし姫様『爺や……』っ、その者! 早よ報告せい!」


 まったく……要らぬ手間よこんなの。


「ハハッ! げっ現在っ、族五名が二の丸に侵入っっっ、次々に我が兵達を再起不能にしておりますっ! その者からの伝言でっ、『招待しておきながら牢屋に直行とは何事か、美味しいご飯、珍しい薬草、酒を振る舞わねば、暴れるだけ暴れて帰る』との事っっっ! 我が兵の大半はっ大半はっっっ幼女に埋められました!!」


 この兵は何を言っているの?

 弱兵とは言えたかが五名に攻められて……しかも三の丸の兵は幼女に埋められっ!?


「貴様っ、姫様に対して戯言を申すかっ!! 良かろう……この爺が介錯いたす……速やかに腹を切れい!!」

「止めぬか馬鹿者っ! そこの者……その五名の中に、眼が死んている痩せぼその男は居なかったかしら……」

「ひっ、姫様がご存じの者なのでっ……確かに居りましたっ、まるで悪魔を飼い慣らすが如くっ、我はこれにて失礼致しますっっっ! せめて一太刀でもあの悪魔にっ!」

 

     ────ダダダ──ゴッ────


「失神したわね……」

「失神しましたのぅ……」


 不味い……あの西の果ての大国、海洋国家アルカディアスに、『流殿一人でも、我が国は滅ぶ』とまで言わしめた、あの魔王と既に衝突しているだなんて……なんでよ!?

 

「ねえ爺……御食事会に招いた賓客が、知らない間に拘束されて、牢屋に入れられたら、どうなるかしら……」

「姫様……そんな馬鹿な話はありますまい。そんな事をすれば間違い無く敵対行為と見なされて、下手したら戦になりましょうぞ」


 そうね……戦よね……。


「爺、急ぎもてなしの準備をっ、酒蔵から秘蔵の一品と、倉庫から薬草類をかき集めなさい」

「姫様……一体どうなされたのですじゃ?」

「急がなければ、国が滅ぶの……早くなさい!」

「っっっ、御意にっ!」


 暴れて帰るのだけは止めてっ、暴れて帰るのだけは止めてっ、そうなっては……二度と精霊様、妖精様への拝謁が叶わなくなってしまう! この国を統べる者としてっ、それだけは全力で阻止しなければっ!



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