古き良き和土国.7
『有難う御座いました若様、今後ともご贔屓に!』と、店主や番頭さんに見送られ呉服屋を後にした俺達は、和土国代表の傘音技を探して町をぷらぷらと散策していた。
「大体見回ったな……やっぱりあそこか?」
「お父さん、あのお城攻めるの?」
「ミルンお姉ちゃん物騒なの、攻めるじゃ無くて遊びに行くの」
うん、遊びには間違って無いんだけどね。
和土国って凄いよな。釘打ちしない木造家屋もそうだけど、あのお城がヤバい。
「ジアストールはお城って感じだけど、あそこのは『〇〇城』って感じだな」
「何が違うのか分からぬのぢゃ」
「俺にもさっぱりだぞ。流のおっさん、何でそんなに楽しそうなんだ?」
くっ、この浪漫が分からないとは……だってあの見た目格好良いじゃん。洋風のは綺麗だ豪奢だと感じるけど、和風のは何か格好良いって感じがするんだ。
しかもあの屋根にある飾りって、鯱じゃ無くて龍に見えるんだよ。そこのアトゥナの上でぷにっとしているドラゴンじゃ無くて、ちゃんとした龍な。
「……今なんか、貶された様な気がするのぢゃ」
「気のせいだ、ぷにっと黒姫」
「俺……いつ迄黒姫さん肩車するんだろぅ」
「アトゥナ……永遠にだ」
「えっ、それは嫌なんだけど……」
「嫌とはなんぢゃ小娘、我を運べる事を幸運だと思うのぢゃっ」
幸運じゃ無いだろ、どちらかと言えば罰ゲームなんじゃないか?
「結構遠いな……走ったら直ぐ着きそうだけど」
「お父さん、あれなあに?」
「んっ、どれだミル──駕籠有るのかよ……アレに乗って行くか!」
「楽しそうなの! ムキムキした褌が居るの!」
「ミルンお姉ちゃん! あれはただの変質者なの! 騙されちゃ駄目です!」
ミユンさん、変質者じゃ無いぞ。あの人達は駕籠舁で、大変有り難い存在だからな。あの人達居なきゃ、駕籠がただの入物になっちゃうぞ。
と言う事で人生初の駕籠体験だ。
暇そうにしてるし、三組居るから全員乗れるだろ。
「よっ、駕籠舁の兄さん、あそこの城までお願いしても良いか?」
「いらっしゃい! 大丈夫でさぁっ、見ての通り暇してるからな! お前らっ! お客人を運ぶ準備だぁあああっ!」
「「「へい兄貴っ!!」」」
うわぁ……暑苦しい。
「暑苦しくて気持ち悪いの、ぬめってしてそう」
「ミルンお姉ちゃんに同意します」
「気持ち悪い奴等なのぢゃ」
「俺は気にしないけど……御免、やっぱ無理」
お前等……もうちょっとオブラートに包んで投げてやれよ、駕籠舁の兄さん達テンション下がってんじゃん。
「……良いんでさぁお客人、俺等は所詮、筋肉しか取り柄の無ぇ男衆ですから……」
「「「兄貴っ、泣かねぇでくだせぇ!!」」」
「……うん、さっさと乗せてくれ」
さてさて、駕籠の乗り心地はどんなもんかなぁっと……何か歩く人達の目が……可哀想な人を見る目? 何でだ?
「それじゃ行きやすぜっ! しっかり紐を握っとって下さいや!」
まぁ良いか、俺は楽しむだけだからな。
そう思っていた時期もありました。
うん、駕籠が廃れた意味が良く分かったよ。
そういやさっき、牛っぽい魔物が人乗せた台車引いて歩いていたわ、二足歩行で。
「「「えっほっ! えっほっ! えっほっ!」」」
そりゃあそうだよね、運べる人数多いし、その分稼ぎ易いし、何より人力じゃ無いから楽だよね。
「「「ほいさっ! えっほっ! ほいさっ!」」」
そして何より「うぷっ、気持ち悪っ」揺れ過ぎるんだよコイツらっ!?
「「「えっほっ! ほいさっ! えっほっ!」」」
「おどぅざん…よっだ…」
「ぎもぢわどぅいの……はぐの……」
「我慢だ…二人共……お金払っちゃったから…降りたら勿体無い…うぷっ!?」
「「「もう直ぐ着きやすんで! えっほっほっ!」」」
声を揃えて言うなよ頭に響くっ、別の駕籠に乗ってる二人は大丈夫かなっ、マジで二度と乗るかこんなもんっ!
◇ ◇ ◇
「また利用してくれやお客人! それじゃあ失礼しやすわっ! 行くぞお前らっ!」
「「「へい兄貴っ!!」」」
そう言い残して、駕籠舁の兄さんは去って行った。城近くの道沿いに有る長椅子に俺達を放り投げてな!
「あぁ……まだ頭が揺れてる…大丈夫かミルン、ミユン」
「あと…少しで…吐いてたの……地面大好き…」
「ミルン…お姉ちゃん…に……同意なの……」
二人共椅子の上で死んでるな……そういや黒姫とアトゥナは大丈夫っ、じゃ無かったな。
「俺…もうあれ見たく無い……」
「この世からっぷ…消すのぢゃぁっぷっ……」
いやいや、もしかしたらアレは只のモグリだったんじゃ無いか……プロなら揺れ無く移動出来たりとか……もう乗りたく無いから良いか、考えるのやめよう。
「城門は……あそこだな、少し休憩してから行くか」
今立ったら、ふらついて危ないからな。
茶でも飲んで、込み上げて来た胃酸を落とすとしますか。
「ミルンにも…下さいな……」
「ミユンも……飲みたいっ」
「分かってるよ、今用意するからな」
さっき立ち寄った甘味処で、茶葉が売っていたから買っておいて正解だったな。緑茶だから口の中がスッキリするし、飲み易いんだよ。
お湯は流石に無理だから、ぬるいお水で何とかするしか無いか……もう良いかな?
「ずずっ……ふぅ、これで妥協するしか無いか。ほれ二人共、ちゃんと座って飲みなさいな」
「貰うの……んくっんくっ、ぷはぁっ! スッキリしました!」
「ずずっ、ミルンお姉ちゃん回復早いの……」
流石ケモ耳ミルン、揺れ耐性も強いのかな?
「ほれ黒姫、アトゥナも飲みなさいな、スッキリするぞ」
「貰うのぢゃ…ずずっ、美味いのぢゃぁ……」
「流のおっさん、有難う……ずっ…黒姫さんの反応って、何か……おばちゃんみたいだな」
そりゃあ年齢不詳ののぢゃ子だからな、今居る誰よりも御高齢だし、下手したらリシュエルより……実際何歳なのやら。
「さてさて、頭もスッキリしたし、少ししたら城門へ行くとしますか」
「ミルンは元気です! 直ぐ行けるの!」
ミルンさんや、他は皆んな死に体だから、もう少し待ってあげようね。