古き良き和土国.6
俺にとって欠かせない食べ物とは何か。
お米、魚、味噌汁、お漬物。
できれば醤油に、大根下ろしを添えたい。
異世界に来てからの食事と言ったら、豚野郎にミノ肉、コカトリスと、申し訳程度の葉野菜や馬鈴薯等、西洋っぽい肉メインの料理ばっかりで、時折胃が重たくなっていた。
それでも、ステータスがある世界だからか、何とか腹下しには成らずに済んでいるが、そんな時はやっぱり軽めの食事が良い。
最近は、アルカディアスで買い占めた魚のお陰で、食生活が多少マシになったけど、それでも白米を毎日食したいんだ。
「お父さんが食べながら泣いてるの……鼻水でてるモゴモゴ」
「もちゅもちゅ……ほっておくのミルンお姉ちゃん。きっとそれ程好物なの」
そしてなにより、米が豊富にあれば、様々な料理や甘味が食べられる。
今食べているこの味噌団子……団子にあう様に改良されているのか、このまま湯に浸けて溶かせば、体に優しい御味噌汁になる事間違い無いし、もちもちとした食感の団子は、これだけで一つの御馳走だ。
「流が気持ち悪いのぢゃ……ムグムグ」
「流のおっさんどうしたんだ? 顔がやばい事になってるけど……ずずっ、お茶美味いな」
ファンガーデンでも、王都のレストランに勤める大将から多少の米は貰っているが、やはり量が少ない。
「ふぅ……ご馳走様でした。良しっ! 傘音技から大量に稲の苗を貰おう! 手土産に、毒無効の皿をもう一枚渡せば貰えるだろう!」
「お父さんが復活した!?」
「お米育てるのならミユンにお任せなの!」
地の精霊ミユンが居れば、農薬無使用害虫対策完璧のお米が食べられるぞ!
「頼んだミユン! 空いている平地を水田に改良するのは任せろ! 領主の権限フル活用してやるぜっ!」
「……欲望に忠実な領主様だな」
「言ってやるなアトゥナ、流にとっては重要な事なのぢゃ」
そうと決まれば、さっさと買物済ませて傘音技がいる場所探さないとな。影さん居たら教えてもらったのに、何処に居るんだろう。
それから俺達は、お団子屋を出て先ず、コマやメンコが売っているお店を探して購入し、その後に呉服屋に入って、ミユンとミユンの着せ替えショーを楽しんでいた。
洋装が目立って居心地悪いし、ついでに、アトゥナの髪を隠せる物が無いかを探しに来たんだが……久々に鼻血が出そうだぜっ!
「お腹が締まって動き辛いの……でも柄は可愛いの!」
着物姿のミルンさん。
伸びてきたふわふわの癖っ毛を纏めて、銀細工に赤い宝石がアクセントの簪を挿し、薄いピンクの布地には、何かの花の模様が施され、畳の上をくるくると回りながら鏡を見て楽しんでいる。
ちゃんと可愛い尻尾が出せるとは、さすがケモ耳ケモ尻尾に優しい国だ。
「ミユンは気にならないの! この簪気に入りました!」
着物姿のミユンさん。
緑の髪色と同じ色の布地には、何処かで見た事のある様な細やかな木々の模様が施され、ミユンが気に入ったと言う簪は──木目がそのまま模様となっており、緑の宝石で葉を表現して、これがまたミユンに物凄く似合っている。
背中から羽根が出る様調整されており、わざわざミユンの為に刃を入れたとの事……大丈夫なのか?
「如何でしょうか若様、お気に召して頂けましたでしょうか」
「良い物ばかりで楽しませて貰ってるよ。でも、あれ切って良かったのか?」
「御安心を、この様な荒屋に精霊様がおいで下さったのですから、寧ろ有難い事で御座います」
この男、髪を七三に分け、物腰低くの日本人っぽい男が、この店の店主らしい。
店に入るなり直ぐ──番頭が慌てて奥へ走って行き、何故か入れ替わりで出て来た。
「番頭は少し特殊な能力を持っておりまして、初めてそれが生かされましたな」
「ふーん、鑑定眼っぽいモノかな。それで、あの着物一式と、アトゥナの着物とカツラ、黒姫の簪で──幾らになるんだ? 手持ちで足りなきゃ直ぐ用意して来るけど……」
まだまだ空間収納内に売れる物あるからな、ぶっちゃけ整理したい。
「いやいや! 精霊様が父と仰ぐお方から料金など頂けませんっ!」
「いやいや、商売人だろあんた……ちゃんと払うって、幾らだよ」
「いやいやっ! お代は結構で御座います! 私共和土国に住まう者、等しく精霊様や妖精様の恩恵を受けております故! 何卒お持ち帰り下さい!」
「いやいや払うから、幾らだよ」
「いやいや、ここはどうか! 私共の顔を立てて頂きたく存じます!」
「いやいや、ちゃんとお代は払うって」
「「いやいやいやいやいやいや────」」
「パパ、それならミユンのお土をあげるの!」
────おっ、店主が固まったぞ?
「そっ…いやっ……ぐぅっ…よっ、宜しいのでしょうか……?」
土でそんなにおどおどするか!?
ミユンが手を加えた土なら、ファンガーデン内外に広がってるんだぞ!?
「なあ店主……土でなんでおどおどしてるんだ? ただの土だぞ?」
「パパはお馬鹿なの! ミユンの土は特別なの」
「左様で御座います若様っ!!」
おぉっどうした店主!?
「精霊様の土であればほんの少し田畑に撒くだけで作物の実りが約束され害虫も寄り付かず害獣すらも逃げ出してしかも実った作物の収穫量が五倍以上と素晴らしくしかもその土の栄養が尽き果てる事無く向こう十年は安泰と言う素晴らしい土で御座いますよ──ゴホッゴホッ、はぁ…はぁ……失礼致しました」
分かりやすい説明有難う、大丈夫か?
じゃあ延々とミユンが弄ってる畑なら……『王都にも土を寄越すのじゃっ!』っと、ルシィには黙っておこう。
「流……お主……器量が…のぢゃっ」
「うるさいぞ黒姫、あのルシィに知られたら延々と要求されるだろ……面倒臭い」
「器が小さい領主様なのか? 俺は働かせて貰ってるから何も言えないけど……」
アトゥナ……何も言わないでくれ。
「畑に撒く量はあげないの! 人は直ぐ楽をしたがるから、あげるとしたら──これぐらい!」
ミユンさん、何で何も無い所から土が出て来るんでしょうか?
「いやいやこんなに沢山っ、おい誰か! 早く入れ物を持って来ておくれ!」
「桶一杯分で沢山なのか……これで良いなら、俺は何も言わんけど」
どうやら和土国……相当不味い状況なんじゃ無いか?