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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界
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古き良き和土国.3



 質屋の前に到着した。

 染め物だろうか。質と書かれたその暖簾は今や、日本で見なくなってしまったが、清潔で手触りも良く、良い仕事をしている事が分かる。

 それに店の外観も良い。

 道沿いに長屋が続いているが、この質屋は二階建ての戸建てとなっていて、ちゃんと他と区別されており、白の外壁に窓枠は丸く、屋根には立派な瓦が使われていて格好良い。


「お父さんが夢の世界に行ってるの、久々に見たの」

「お顔が気持ち悪い……このパパは苦手です」

「流のおっさん、なんでニヤニヤしてるんだ? 別にただの建物だろ」

「アトゥナや、今の流に何を言っても無駄なのぢゃ、帰って来るまで待たねばならぬのぢゃ……」


 さてさて、中の作りはどうなっているのか。

 暖簾をくぐると『痛っ……おでこ打ったの』直ぐ目の前が『ミルンお姉ちゃん大丈夫?』一段高くなっており、この質屋の敷居の高さを表している様だ。

 それに内装も素晴らしい。

 壁一面に掛け軸が展示されており、描かれているのは異世界だけに魔物が多く、この蛇女の御胸様の立体感は素人にはだせまい。


「入口が小さいの……おでこ痛い、下りて見るの」

「少し赤くなってるの、パパ気付いてない!?」

「まだ夢の中の様ぢゃな、ずっと気持ち悪い笑みを浮かべておるのぢゃ」

「なんだこの店、色んなモノがあるぞ」


 掛け軸の下には壺などの陶器類が並べられ、しかも地面に直置きでは無く、ちゃんと台座に置かれている。

 陶器にも多種多様な柄が描かれており、この世界に某鑑定士が居るのならば、『良い仕事してますねぇー』と絶賛する事間違い無しだろう。

 俺は目利き何て出来ないから無理だけど、一度は言ってみたい台詞である。


「これ綺麗なの──あっ──」

 

       ────パリィンッ────


「ミルンお姉ちゃん……それは不味いの」

「店員さんを呼ぶのぢゃっ、早う謝らねば!」

「おい流のおっさんっ、お前の娘がやらかしたぞ! ヤバイって!」


 そして今ミルンが落として割ったモノ。

 この異世界では中々お目にかかれない、硝子で作られた酒器。

 割れた破片があちらこちらに散らばって、見るも無惨な姿となってしまったが、酒器の様な小さな物にまでこれ程細やかな柄が施されているとは、この国の職人は素晴らしい腕を持って居るのだろう。


「どうかされやしたか──あぁ!? 金板八枚の器が割れてやがるぅうううっ、どいつが割りやがった!!」

「みっ…ミルンなの、御免なさい……」


 奥から着物姿の坊主のおっさんが出て来て、何か顔が青から赤に変わったけども、そのおっさんの着物も良い布を使って織られたモノだろう。


「これっ、どうしてくれるんだ! この国でも十点しか無い高級品なんだぞ! お嬢ちゃん金板八枚出せるのか! 出せなかったらお役人様にしょっぴいて貰うからな!」

「うぅっ……御免なさい、ミルンに手持ちはないの……」


「悪いのはミルンお姉ちゃんだけど、大人気ないおっさんなの」

「確かにのぅ、流が夢の中で助かったのぢゃ」

「いや、黒姫さん? 流のおっさんの顔……血管浮き出まくってるぞ……」


 俺は取り敢えず怒り顔の坊主の頭を掴み、「これ、売ったら幾らになると思う?」と空間収納から出した金二キロの塊を、おっさんの手に持たせてみた。


「なんだぁこの塊……こいつぁ金じゃねぇか! しかもこの重さっっっ金板八枚どころの話じゃねぇぞ!?」

 

 そりゃあ純金二キロの塊だからね、それなら売っても釣りが来るだろ。


「それを、金板十枚を引いた額で売ろう。俺の娘がやっちゃったからな、金板二枚分は詫びと思ってくれ、すまなかった」

「割ってしまって御免なさいなの、綺麗だったから触りたくなって……」


「流が暴れて居らぬのぢゃっ!? 奇跡なのぢゃ……」

「パパは余程このお店の造りが気に入ったの、暴れたら壊れるから我慢してそうなの」

「それだと、気に入らなかったら暴れるって事だよな。流のおっさんが暴れたらどうなるんだ?」


 それはねアトゥナ、このお店が根っこでさようならするだけだよ。

 今回はミルンが八割程悪いから弁償するけど、こんな高級品をこのまま置いてるお店も二割程悪いからな。

 割られるのをワザと待っていたら即潰したけど、見た感じそんな事は無さそうだ。


「まぁウチも商売だ、弁償してくれるなら文句はねぇ! お嬢ちゃん、怒鳴って悪かった」

「……割って御免なさいなの、許してくれて有難うございます」


「ミルンお姉ちゃんがちゃんと頭を下げてるのっ、これはパパが暴れていない事より凄い事です!」

「ミルンも成長しておるのぢゃな。いつもなら、口だけ謝って直ぐに戻っておるのぢゃ」

「この家族怖えぇ、いつもなら口だけって親も親だし子も子だぞっ」


 アトゥナ、ミルンはずっと良い娘だぞ。

 ちょっとでも向こうに非があれば、そこを狙い撃ちして詰めて行く良い娘だ。


「それで、その金の塊は幾らで引き取るんだ?」


 さてさて、この国の貨幣を理解しないとな。

 ぼったくりに遭わない様、気を引き締めて交渉するぜ。



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