古き良き和土国.1
和土国を見て思った事。
時代劇で観ていた映像が、そのまま目の前に存在している不思議感も合わさって、何と言うか……『団子が美味しいだろうなぁ』と思ってしまった。
「うん、だろうなとは思ってたぞ。リティナは和服っぽいの着てたし、和土国の代表である傘音技って言う姉ちゃんも着物だったもんな」
建物の屋根が瓦屋根だよ……日本で見なくなったのに、異世界で見るなんてなぁ。それに、獣族達もいっぱい居るし、皆んな笑顔でモフモフしてて……モフらせて欲しい。
「それじゃあ流さん、これで依頼は完了ですね。僕達はギルドへ行って報告しますので、この用紙にサインを下さい。少し和土国で過ごしてからギルド経由でジアストールへ帰ります」
おっと、そうだった。意識がケモ耳ケモ尻尾に行ってたよ。
「ここまで有難うな。モンゴリ君、ノーイン、モスク、ラカス、ジアストールでまた、美味しい肉でもご馳走様するよ」
「こちらこそ良い報酬を貰いますからね、道中も楽をさせて貰いましたし」
「和土国で土産でも買って帰るぜ、また依頼してくれよ領主様!」
「モスクが流さんの事を領主様って言った!? 珍しい……」
何かコイツら、本当に頼もしくなったなぁ、おっさんは嬉しいよ。
「流のおっさん、何泣いてんだ?」
「泣いてないぞアトゥナ……これは、俺に残された清らかな心の滴だ」
一番嬉しいのは、覚醒者のモンゴリ君が、マトモに冒険者をしてるって事だな。
「それではまた──」
「美味しい肉、楽しみにしてるぜ!」
「和土国の罠……覚えて帰ろう」
「僕は盾を探さねばぁああああああ────! では流さん、失礼します」
最後に台無しかよモンゴリ君っ、せっかく道中マトモだったのにっ!
「また泣いてるぞ……」
「アトゥナさんや、これは悲しみの涙だよ」
そう言えば、和土国にもギルドって有るのか? さっきノーインが言ってたって事は──有るんだろうけど、冒険者って凄いよな。
「取り敢えず……アトゥナ、少し人通りが少ない場所に行こうか。何かアトゥナが視線を集めているし、やりたい事も有るからな」
「確かに、ジロジロ俺を見てくる奴が多いな。そんなに俺、魔王に似てるのか?」
それは分からないな、悪魔族の王に遭った事無いし、出来れば遭いたく無いからね。
◇ ◇ ◇
「この場所なら良いかな」
長屋と長屋の隙間を進み、裏手へと回って周囲を確認──井戸が有るだけで、誰も居ないな。
「こんな場所で何するんだ?」
「成功するかは分からんけど、ちょっとした魔法の実験かな。ミユンが目印付けている筈だから、問題無いと思うけどね」
スキルの項目の緑化魔法を確認した時にふと──思った。
一日一回と記載が有るにも関わらず、何度も根っこを呼び出せている事から、回数制限は『大地の緑化』にだけ適用されると確認出来た。
そもそもが、根っこを使った移動などの説明文は無く、根っこを使った移動自体、イレギュラーか裏技的なモノだろう。
ならば、その適用範囲はどこまでなのか。
知覚範囲内ならば、そのまま根っこで引き摺り込んで、セーフアースに送る事は可能。
それなら、知覚範囲外は対象外なのか?
それにこの根っこは、特定の場所へ送ったりするだけにしか使えないのか?
緑化魔法の説明文には『世界樹の根を呼び出す』と書いてあり、拡大解釈すれば、『何かがくっ付いた世界樹の根を呼び出す』でも有りなんじゃなかろうか? と言う事だ。
勿論、緑化魔法だけだと無理がある。
無理と言うより不可能だろう。
だけど俺には意味不明なスキルが有る、使い勝手の悪い意味不明なスキルが。
「俺の意味不明なスキルと、緑化魔法のコラボレーションだ……頼むぞっ」
意識を集中……集中……集中……世界樹が存在する都市……ミユンが植えた花……何処だ……館の敷地内だよな……おぉっ、これがミユンの花か! 頭の中でめっちゃ主張して来るよこの花! 精霊としてのミユンの能力って凄いな。
良しっイメージは完璧! あとは成功を祈るだけってな!
「ミルン! ミユン! モフらせて下さい! 逆送緑化魔法っ!!」
そういや黒姫の奴、マジで最近見てないな……あっ!?
地面に穴が空き──『ようやく来たの!』
もう一個穴が空き──『魔法成功なの!』
また穴が空き──『のぢゃぷっ!?』
余計な事考えたら何か白目の黒姫まで来ちゃったよ……なんで白目? あぁ、根っこが首絞めてるじゃん。
「黒姫まで来たの……何で白目?」
「黒姫お姉ちゃん泡吹いてる……何で?」
「流のおっさん、何だ今の魔法……まさか転移魔法なのか!?」
俺の意味分からんスキルの中級魔法で、ミルン砲みたいな強力な魔法が撃てるのなら、簡易転移的な奴が出来ると思ったけど……上手くいって良かった。
世界樹の根っこが連れて来てくれるから安心だし、スキルだけだと怖くて使えなかったけど、マーカー設置すれば緑化魔法との併せでイケる事が確定したな。
「のぢゃ……ぷぷぷ……」
安心安全は大事だからな! 何事も無くて良かった良かった!
「お父さん、黒姫のお顔が青いの」
「パパ、早く黒姫お姉ちゃんを助けるの」
「何だコイツら……助ける気配が一切無いぞ! おい大丈夫か! 何だこの根っこ硬てぇ!?」
アトゥナが根っこに挑んだぞ。
大丈夫だ、黒姫は立派なのぢゃ子だから、そんな事じゃ死なないし、直ぐに目を覚ますさ。
「のぢゃ!? 何処ぢゃここ! お主リティナかや──違うのぢゃ! 誰ぞお主!?」
ほら起きた、超混乱してるけどね。