やって来ました……何処だここ?.2
「おーい、お兄さん起きろ──」
「全然起きないなこいつ、死んで無いよな?」
「大丈夫ですね、まだ息はしてます」
モンゴリ君が跳ね飛ばした一人目、二十代程の男を起こそうとしているけど、白目を剥いたまま一向に目を覚まさない。
「ラカスっ大丈夫だったか、一体何があったんだ?」
「お前、また悪戯したんじゃ無いだろうな!」
「そんなのしてないって! 建物がある場所に行ったら村になってて、入ったら直ぐに囲まれたんだ!」
モンゴリ君とモスクは、逃げて来たラカスから事情を聞いている。
どうやらあそこは村の様で、ラカスを見るなり何故か追いかけ回したと……何でだ?
「うっ……な、なん…だ…あん…たら……」
こっちは目を覚ました様だな。
まだ目も虚で、結構辛そうにしているぞ。回転のし過ぎで三半規管やられたか?
「喋るのはゆっくりで良い、なんでラカスを襲ったのかを喋れ。そうすれば命までは取らない」
ノーイン……喋り方が尋問風になってるぞ。狐尻尾も膨れ上がってて、やっぱり怒ると怖いよね。
「きっ、きさ…まもっ、逃げ……出したっ、奴隷かっ……糞っ、殺すっなら……殺せっ!」
逃げ出した奴隷? 確か、和土国だと獣族と仲良く暮らしている筈だから、じゃあこの場所は──和土国じゃ無いのか……間違えたな。
「あー聞こえてるかな、俺は流と言う者だけど、こいつらは俺の連れで、奴隷でも何でも無いぞ、お前らの勘違いだ」
「そっ…んな訳っ……この国でっ…獣と馴れ合うなぞっ……人種の恥めっ……」
「俺、恥だってさノーイン、笑えるよな」
「どうやら和土国とは違う様ですね、流さん道を間違えましたね?」
さてさて何の事でしょう? 道案内はアトゥナがしてた筈だけど?
「アトゥナ、道間違えたら駄目だろ」
「俺の所為にするなよ流のおっさん! あんた領主の癖に恥ずかしく無いのかよ!」
全く持って恥ずかしくありません!!
「ひゃっっっまっ魔王っっっ!?」
何だ? 朦朧としていた筈の男が、こっちを見て急に元気になったぞ。
しかも這いつくばったまま逃げようとしてるし……魔王? 俺は魔神ですが?
「アトゥナさんを見て、元気になりましたね」
「アトゥナ……お前魔王だったの?」
「んな訳無いだろ! 俺が魔王だったらこんな事になってねぇ!」
振り振り付きのメイド服姿だからな。
魔王の伝説を知っているだけならこんなに怖がる事は無いだろうし、と言う事は──この男は魔王を見た事があるのか。
「嫌だっ、あんな死に方は嫌だっっっ!」
やっぱりな、バッチリ東の魔王を見た様だ。にしても……起き上がれずにずりずりと逃げて行くし、何か可哀想になって来たぞ。
「と言う事でノーイン、あれをもう一度捕まえて、アトゥナを使って魔王の事を聞き出そうぜ」
「逃すつもりは有りませんが、あれを捕まえて一度この場を離れましょう。また来られても面倒ですからね」
「そうだな。他の倒れている奴等は縛って置いて、放置してれば誰か来るだろう。モンゴリ君! モスク! 一度ここを離れるから準備よろー!」
「分かりました流さん! ラカス、取り敢えず話は後でだ!」
「うぅ……悪戯何てしてないのに」
「お前斥候の癖に見つかるからだろ! 悪戯以前の問題だ!」
ラカスのやつ、モンゴリ君とモスクに絞られてるなぁ。なんで斥候が入口から堂々と村へ入るんだよ、気が緩んでたのか?
「こんな事考えてる場合じゃ無いな、ほいさっさと移動するぞ──」
「ほいさっさって何だよ流のおっさん……」
◇ ◇ ◇
少し前に、魔王が襲来して村が一つ消えたらしい。
若者はその村の生き残りで、何とか逃げる事に成功して、さっきの村で奴隷を管理していたと。
んで、昨夜に獣族の奴隷達が示し合せて逃げ出したから、猫人であるラカスを見て奴隷だと勘違いして襲った……馬鹿な話だな。
「あの村を管理している国の名前は?」
「和州国だっ、話したぞ俺は! 早くその魔王を遠ざけてくれ!」
ノーインの尋問怖えぇ、狐目が更に細くなってるよ。
「和土国の隣じゃん。と言うか地図に、間違えないでって書いてるわ、御免影さん」
「頼むぜ……ちゃんと地図見ろよ流のおっさん」
このまま南下して行けば、和土国の領内みたいだな。さてさて、このまま行って良いものか迷うなぁ。
「流さん、僕達は人間や獣族相手に戦は出来ません。ですので、このまま和土国へ行く事を提案します」
「俺もモンゴリリーダーに賛成だ。国が違えば法も違うし、何より俺達は軍属じゃねぇ、冒険者だからな」
「右に同じで……盗賊とか、襲ってくるならやり返すけど、今回の依頼とは違うしね」
モンゴリ君、モスク、ラカス、目線的にノーインも同じ意見か……確かになぁ、ジアストールならまだしもここは和州国の領内だし、アウェーが過ぎるか。
「依頼内容は和土国へ行く際の護衛だし、仕方無いな」
「珍しいな、流のおっさんが素直に意見に従うなんて……気持ち悪いぞ」
アトゥナは後でお仕置きだ。
どうにも嫌な予感がするんだよなぁ、このままここに居たら不味い感じ。
「魔王って言われる程の奴が、獲物を易々と逃すと思うか? 俺だったら逃さないし、逃したとしても地の果てまでも追いかけるぞ……」
そう、俺なら絶対逃さない。
逃すとしたら──安心しきった時を狙って襲い、絶望の表情を拝む為、だろうな。
「全員、その男を置いて和土国へ行くぞ。おい兄さん、最後に一つだけ──前居た村人は、どういう風に死んだ?」
「あ────あぁあああああああああああ思い出したく無いっっっ! とっ溶けたんだ! 家族も仲間も! その魔王に溶かされた! 助けてっっっ俺は死にたく無いっぐぅっ────」
溶けたか……魔法か、特殊なスキルか、やっぱり魔王だけあって、怖い事しやがるなぁ。
「気絶させんの上手いなノーイン。聞いた通りだ、そいつ置いてさっさと行こう」
「俺は何もしてないぞ……魔王って何なんだよ」
気にしたら負けだぞアトゥナ。
この東の地には魔王が六体確認されてるらしいけど、その村を襲った魔王、悪魔族の王だったりしてな。
「こちとらガチ魔王とやり合う気は無いからな、遭遇する前に離れるが吉だ……」
アトゥナと似てるってのは気になるけどね。