ミルンとミユンのお勉強.5
ふわふわとした雲の上で、大の字になって寝そべって居る。
鼻口をくすぐるのは、お肉の焼ける香ばしい匂い……お腹が空いてきた。
目を開け体を起こし、辺りを見回すと──オークがぷるぷる震えながらこっちを見て居る。
「お肉なの……豚さん肩ロース……じゅるりっ」
直ぐ様オークに向かって走り出したが、それよりも早くオークが逃げ出した。
「ミルンに足の速さで勝てると思わないの!」
いつの間にか手に握っていた斧を掲げ、お肉お肉と言いながら追いかけるけど、一向に差が縮まらない。
苛々したのでオークの足目掛けて斧を投げ──確実に刺さると確信したにもかかわらず、オークがひらり──っと軽やかに避け、こっちを向いて『プゴゴゴッ』嫌な笑い声を上げた。
「……絶対捕まえてお肉にしてやるっ!!」
それからもそのオークに追いつけず、その度に『プゴゴゴッ』と笑われ、額の血管がプチプチと嫌な音を立てる程に苛々してきた。
「逃げるななの! 玉潰してこんがりミートボールにしてやるのぉおおお──!!」
オークはまた走り出し、ミルンがそれを追いかける。
徐々にオークが速くなり、必死になって追いかけるけど──とうとう見えなくなってしまった。
「おにぐぅ……ミルンのおにぐぅ……じゅるりっ」
膝を付き、項垂れて居ると──どこからかまた、良い匂いが漂って来る。
「おにぐの匂い!? どご!? ミルンのおにぐどご!?」
涎が滝の様に出て来るけども、そんな事を気にする暇が無い。今はこの、お肉が焼ける匂いがどこからしているのかを確認しないと。
「すんすん……こっちからするの! おにぐぅうううううう──!!」
光の先からお肉の匂いがするの!!
匂いを追いかけ、その光の中へと突撃して、眩しさで目を顰めるけど──お肉を食べる為ならと真っ直ぐ突き進む。
ただひたすらに真っ直ぐと──お肉を求めて。
◇ ◇ ◇
「すんすん……ミルンのおにぐぅうううっ!?」
お肉どこ!? お肉!お肉! ミルンのおにっ、ここは……ギルドなの?
「起きましたかミルンさん。何かうなされていましたけど、大丈夫ですか?」
ネリアニスが居るの……何か食べてる?
こんがりと良い感じにコゲが付いた、二センチ程の厚さのお肉を、一人でもぐもぐと食べている?
辛口のタレがお肉に絡み付き、そのピリッとした刺激と肉の脂が合わさって、口の中いっぱいに広がる幸せを一人で味わっている。
「……ミルンさん?」
程良く引き締まったオークのお肉は、噛む毎にお肉の旨味をお口いっぱいに広げて、そのお肉は何枚食べても飽きる事が無い美味しいお肉……それを一人で食べている。
「あのぉ……ミルンさん?」
フォークに刺さっているお肉を見て分かる通り、固めのお肉をしっかりと下拵えをして調理すれば、あの様に柔らかく肉汁たっぷりのステーキになる……お肉を一人で食べている。
「ミルンさーん?」
ミルンの眼から涙が溢れて来たの……口から涎が溢れて来るの……全然止まらないの。
「──!? ミルンさん大丈夫ですよ! ほらっ、ミルンさんの分も用意してますからねっ、泣かないで下さいねっ」
ネリアニスがテーブルの上を指差すと──ミルンのお顔と同じぐらいの大きさのお肉が、鎮座していた。
「おにぐぅ……食べていいのネリアニス?」
「大丈夫ですよミルンさん。丁度お昼だったので、ミルンさんのために用意したのですから」
ミルンのお肉……ミルンのお肉!!
「頂きますネリアニス! モゴモゴ……美味しいのぉ!」
「ふふっ、それは良かったです。食べ終わってから、依頼の話をしましょうか」
そうだったの、依頼を受けに来てたの。
でも先ずは──このお肉をしっかり味わいます。
「次こそは……あのオークを逃さないの」