ミルンとミユンのお勉強.2
昨日踏まれた足がまだ痛いの。
腫れは治ってきたけど、歩く度に『ぬぅ』って顔を顰めるぐらいには痛いの。
「ミウが踏ん付けた所為なの、こんな痛みは初めてです」
「足の甲なんて中々ダメージを負わないの、だから痛みも我慢出来ないの」
ミユンの言う通りだと思います。
でも今日はダンスは無いの、座って楽ちんのお勉強です。
「おはようございます、ミルン御嬢様、ミユン御嬢様。本日のお勉強は、手芸になります」
手芸ってなぁに? 御手手の芸って何するんだろぅ、殴り合い?
「ドゥシャ、手芸って何する芸なの?」
「ミルンお姉ちゃん……本気なのですか」
ミユンは知っている様だけど、ミルンは知りません! 教えて下さいな!
「ミユン御嬢様、知っている事と知らない事はそれぞれ違いますので、知らないからと言って貶してはなりません。ミルン御嬢様、御裁縫と言えば分かりますでしょうか?」
縫い物! ママがよく、苛々しながら縫い縫いしてたの! 苛々してたけど、縫い終わったら凄く楽しそうだったの。
「それなら分かるの、手芸って言うの初めて聞きました」
「ミルンお姉ちゃんの知識は偏ってるの」
「本日は、この無地の布に刺繍を施して頂きます」
刺繍……確か、糸を使って布にお花を作るやつの筈……根気と根気と根気が必要なの。
「では先ず、このドゥシャめが御手本をお見せ致しますので、真似をしてみて下さい」
ドゥシャの御手本! 何を縫うのか気になるけど『──はい、出来上がりました』今の動きを真似しろと?
ドゥシャが両手で針を持ち、布目掛けて突き刺すまでは見えたんだけど、そこから何をしたのか綺麗なお花の刺繍が……なんで?
「ドゥシャのやり方は見本になりません! もっとゆっくり見せて下さいな!」
「ミルンお姉ちゃんの言う通りです! 秒作業はやめて下さいな!」
「ゆっくりで御座いますか、では──これなら如何でしょう」
さっきと変わってない!? しかもさっきのお花より凝った刺繍になっているの!?
「ドゥシャ、絶対わざとしてる……」
「御手本を見せる気が無いの……」
ドゥシャが『ふふっ』って笑ったの! 間違い無くわざとしてる!
「申し訳御座いません、遊び過ぎましたね。それでは針と糸を選んで下さい、今度はゆっくり致しますので」
「やっぱり遊んでたの!」
「遊ぶのはミルンお姉ちゃんだけにして下さい!」
ミユンが何か言ってるの!? お姉ちゃんを生贄にしないで下さい!
「どの糸になさいますか?」
ドゥシャの圧が凄い……ミルンの好きな色は薄ピンクです! あの桃色お化けの様な濃い桃色は嫌だけど、白に近いピンクは好きなの!
「ミルンはこれにします!」
「ミユンは緑なの! 世界樹を縫い縫いします!」
ミユン、素人に世界樹を縫うのは、難しい気がするの。
「最初は簡単なものにしましょう、慣れれば世界樹を縫う事も可能で御座いますよ。そうですね……庭に咲いているお花にしましょうか」
「ドゥシャ、お花を見ながら縫っても良いですか?」
「ミユンに同意なの、見ながら縫いたいの」
これはチャンスなの、長時間お庭でお花を眺めて居たら怪しまれるけど、縫い物中なら問題無しです。
「……それは構いませんが、庭師の邪魔にならぬ様お願い致します」
邪魔なんてしないの、ミユンがお花をこっそり植えて、チカラを込めるだけです。
◇ ◇ ◇
縫い縫い縫い縫い……チラッと……縫い縫い縫い縫い……チラッと……縫い縫い縫い縫い……チラッと……縫い縫い縫い縫い……見張りは疲れるの。
お庭に来て直ぐお花がいっぱい咲いていたから、ミユンがどのお花を刺繍しようかなぁと、選ぶ様に見せかけてこっそり種を植え、少し離れた所に座って刺繍を始め早一時間……ミユンの植えた種はすでに芽が出ており、後はお父さんを待つだけです。
その間、ドゥシャに気付かれない様に気を張り、真面目に縫い物をしてますよアピールをしていたけど……なんかミユンが萎れてきてる。
「ミルンお姉ちゃん……お水っ下さいな……」
「ちからを込め過ぎなの。はいお水、ゆっくり飲むの」
ミユンに水を飲ませると、萎れていたお顔に見る見る艶が戻り、少しだけ面白い。
「ぷはぁっ……助かったの、危うくチカラを根刮ぎ持って行かれそうだったのっ。ドゥシャに気付かれて無い?」
「ドゥシャはあそこで庭師と楽しそうにお話してるの、大丈夫……な筈です」
「何がで御座いますかミルン御嬢様、ミユン御嬢様?」
ぬぎゃぁあああ────っ!?
ミルン偉いの叫ばず耐えたのドゥシャ怖い!
ミユンも耐えたの褒めてあげたいドゥシャ怖い!
「何でも無いの、ここまで縫い縫いしたの!」
「ミユンはまだまだです……難しい」
ドゥシャの目がミルンの尻尾を見てくるの、大丈夫っ、力を込めて震えを抑えてます!
「……流石ミルン御嬢様です、初めて刺繍をされたにしては綺麗になされて、あちらのお花ですか?」
「そうなの、薄ピンクだから糸と同じで綺麗!」
ドゥシャに褒められた……何か怖いの。
「ミユン御嬢様は、花で無く葉で御座いますね、良く出来ております」
「まだまだなの、世界樹の葉に遠く及ば無いの」
ミユンも褒められたの……怪しまれてる?
嫌な汗が背中から出てくるの、気付かれたらミユンの頑張りが無駄になるっ。
「……まだあちらで庭師とのお話が御座いますので、御二方共このまま続けて下さい。この出来栄えでしたら、悪く無いかと存じます」
ゆっくり離れて行くドゥシャを観察して、庭師とまた話をし始めたところで一息吐いた。
「危なかったの、バレたかと思った」
「ミルンお姉ちゃん、ドゥシャが何か強くなってる気がする……」
それはきっと、武力でシャルネに負けているからだと思うの……夜遅くに手合わせしている様だし、勝てずに悔しいと思うの。
「一対一ならミルンでも勝てないの」
「ミルンお姉ちゃん、何のお話?」
ミユンには言えないの、ドゥシャはああ見えて負けず嫌いだから、言いふらしたく無いの。