その頃黒姫は.3
残りの影を別大陸へ投下した後、我はのんびりとセーフアースで過ごしておる。なぜって? それはのぅ、館へ戻ると忙しくなる気がして戻りたくないのぢゃぁ。
「あと百年は……のんびりしたいのぢゃぁ」
「ソレハ、ナガレサマトカワラナイノデワ」
誰か来おったのぢゃ。
確かセーフアースで魔物達の管理をしておる、確かモクメと言うウッドドールなのぢゃ。
高級家具や香木にする為、帝国などでは乱獲されて絶滅したと言われていた種であるが、よく聞くとそれは可笑しい話だったのぢゃ。
知恵有る魔物の中で人語を解し、それを振るえる存在が、そう易々と絶滅するものかや。しかも見た目は見目麗しい美女なのぢゃから、何処ぞで匿われて居たとしてもおかしくは無いのぢゃ。
「クロヒメサマ……ドコヲミテイルノデスカ?」
「勿論、顔と胸なのぢゃ。お主はアレらを喰わぬのかや、ちと加齢臭たっぷりなのぢゃけど」
アレらとは、次々に送られて来る盗賊のおっさん達の事なのぢゃ。珍しく二人程女盗賊が送られて来たが、気に入った蛇女が連れて行きおったのぢゃ……保存食かや。
「ワタシハヒトヲタベマセン。コノチニハエルハナバナガ、ワタシノショクジデス」
「そうぢゃったの。お主らは花を食してその種を体内で増やし育む、不思議バディだったのぢゃ」
どうやって体内で種を増やしておるのか、我にも分からぬ生態なのぢゃ。
「それで、我に何か用なのかや。見ての通りのんびり日向ぼっこ中なのぢゃが」
「ソウデシタ、カゲサマヨリイワレテオリマシテ、デキマシタラ、ホカノタイリクノハナシヲキキタク」
影共め、直接聞くよりも、此奴らを通した方が聞き易いとでも思ってるのかや。
「ワレワカノチト、コノダイチシカシリマセン。ゼヒトモゴキョウジュクダサイ」
ふむぅ、此奴にも知的好奇心があると言う事かや、それなら良いのぢゃけど。
「ならば今から伝える事は、影共には言うで無いのぢゃ。自ら聞かぬ者に知識を与える事はせぬ、教えるのはお主だけぢゃ」
「ソレデカマイマセン。ワタシノアルジワ、ナガレサマノミデスノデ。カゲサマデハアリマセンカラ、ダマッテイマス」
うむうむ、理解が早くて助かるのぢゃ。
「あくまでも五百年前はぢゃが、大陸は九つ、島と呼べるモノは二万程あってのぅ、魔王がそこかしこにおったのぢゃ」
「ヨクヒトシュガ、ホロビマセンデシタネ」
そう思うの当然なのぢゃ、我もそう思っていたのぢゃしの。
「魔王と言っても千差万別、悪い魔王もおれば、良い魔王もいるのぢゃ。彼奴はどちらかと言えば、良い魔王ぢゃったしのぅ」
「ナルホド、チカラモツマオウガオウトナリ、クニヲマモッテイタト」
此奴は魔物なのに、中々に賢いのぢゃ。
「その通りなのぢゃ。他の魔王を退け、又は手を組み、又は滅ぼし、自らの国を繁栄させていたのぢゃな」
「ハカイダケデハナカッタノデスネ、テイコクノマオウトハチガウヨウデス」
帝国の魔王かや……どんな者かは知らぬが、影の報告によると相当馬鹿なようぢゃの。
「まぁ要約するとぢゃ、この世界は広い! と言う事ぢゃな。空を飛べる我ですら、全てを把握出来ぬ程に大地が続いておるのぢゃ」
「ソレワ……イツカメグッテミタイモノデスネ」
「貴様の様な魔物ならば寿命も長いぢゃろうて、いつか巡れると良いのぅ」
身体中に有る木目柄さえどうにかすれば、旅ぐらい出来るぢゃろうて。
「……小腹が空いたのぢゃ、何か食べるのぢゃのぢゃ」
「オッサンワイッパイアリマスガ」
我はもう人種や獣族は喰わぬのぢゃ。
このセーフアースならば蜂蜜もいっぱい取れるし、甘々なクッキーなのぢゃぁ。
「ムグムグ……甘いのぢゃぁ。お主も食うてみるのぢゃ、甘々なのぢゃぁ」
「フム、イタタギマス……!? コレハナカナカビミデゴザイマスネ。モウイチマイクダサイ」
ぬぅ、我のオヤツなのぢゃが味を覚えてしもうたのぢゃ……半分こにするのぢゃ、どうせ我はファンガーデンでも食えるしのぅ。
「一緒に食べるのぢゃぁ」
「アリガトウゴザイマス、イタダキマス」
うむうむ、これが友と言うモノぢゃったかのぅ。ミルンやミユンは家族ぢゃし、流はよう分からんから、復活してから初めての友達なのぢゃぁ。
「ソレデハシツレイシテ──ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ」
「──っ我の分も残すのぢゃぁあああ!?」