何ちゃって聖女と泥棒娘.3
「あ──死ぬかと思った、加減無しでくるからなぁニアノールさん、お陰で尻尾を撫で撫で出来たから良いけど」
「ニアノールもびっくりのお父さんの速技なの」
「俺はまだ尻が痛い……なんだよあの薬、物凄く体が冷えて寒いんだけど」
「お尻から肥料出るなら下さいな!」
ニアノールさんの細切れナイフを避け、全神経を尻尾に集中させて解き放ち、俺の速力でもってニアノールさんの猫尻尾を『すりすり舐め舐め』すると──『にぎゃぁあああ!?』と聞いた事の無い声で叫び、その隙を突いて脱出に成功! その際なぜか、尻を押さえたままの泥棒娘まで付いて来た。
「なんで泥棒娘まで付いてくるんだよ、あそこで暫く暮らせば良いのに」
「無理だろあんな場所……おっさんが俺を連れて来たんだから、ちゃんと仕事くれ」
仕事くれって何この真面目少女、お前本当に俺から財布盗んだ本人ですか?
「あと俺の名前、泥棒娘じゃ無くてアトゥナだからな、頼むから……泥棒娘はやめて下さい」
しかもしっかりお願いして来た!?
待て待て、恫喝でも脅迫でも脅しでも高圧的でも無く、ちゃんとお願いして来た!
「お父さん、罪はさっきの尻で償ったの。だから許してあげるの」
「パパ、こんな真面目な女の子を泥棒扱いは酷いの、良く食べさせて肥料をださせるの」
全部俺が悪いみたいになってる!?
泥棒娘を弄ってたのってミルンとミユンだよね? 俺気にして無いって言ったよね?
「なぁおっさん、許してくれよー」
「お前もか……はぁ、分かった、アトゥナに仕事紹介してやる」
アトゥナに出来る仕事……畑仕事はケモ耳達で足りてるし、歓楽街は年齢的にアウトだろ。なら普通に飲食店か服飾店の売り子だけど、接客業に向いてるとは思えないし……ドゥシャさんに相談してみるか。
そう思い直ぐに領主館へと戻って、ドゥシャさんに仕事無いか聞いてみた所、納得の答えが返って来た。
「館の使用人増員の募集をしておりますので、仮登用で働かせてみては如何でしょうか旦那様」
そうだよね、こんなクソでかい館? 城? を管理しようとしたら、百人や二百人雇わないと無理だよね。
「旦那様……清掃員百名、料理人二十名、給仕五十名、庭師二十名、細工師五名、衣装係四名、メイド候補三十名、執事候補二十名、それぞれの人員は確保しております、メイド長はこのドゥシャめにお任せ下さい」
さすがドゥシャさん、お願いしていた専門の清掃員をちゃんと確保してるよ。
メイドさんがやれば良いだけの話なんだけど、そこは今後のためを見越して、別枠で清掃員を確保をお願いした。
「アトゥナは──そうだな、一通り仕事をやってみようか。勿論給金は出すし、七日の内二日は休みを取って良い、超ホワイトな職場だぞ」
「お父さんは腹黒いけど、お仕事は真っ白なの」
「パパは魔神とは思えない程労働環境に優しいの。あそこの針が十二と八を指せばお仕事開始で、十二と五になったら終わりなの」
ミユンが指をさす場所、この謁見室の右奥にひっそりと佇んでいる木製の一品。
ちゃんとこの異世界にも有ったんです、古めかしい振り子時計。勿論クソ高い御値段でしたけど、これをもう一つ用意して分解し、職人に勉強させます。
できれば早いうちに役場へ設置して、労働時間の管理を行わないと大変な事になるからね。
「なんだよおっさん、あんた本当に領主様だったのかよ……嘘だと思ってた──ひっ!?」
「旦那様に対して失礼ですよ、立場を弁えなさい。アトゥナと言いましたね、先ずはこちらへ来なさい、一から教えて差し上げます」
ドゥシャさん居る前でその態度は駄目だな、少し勉強して来なさい。
「ドゥシャさん、お手柔らかにね」
「畏まりました旦那様」
「ちょっと待て俺まだここで────」
さらばアトゥナ……またいつか会おう。
「……ドゥシャに預けて大丈夫なのお父さん、改造されそうな気がするの」
「あの影みたいに性格が可笑しくなるの、ヒャッハーになって帰ってくるの」
「ミルン、ミユン、アトゥナは元から性格可笑しいから大丈夫だ。きっと一周回って普通に成ると思うぞ……たぶん」
たぶんって言葉、便利だなぁ。
「──っとそうだ、筋肉村長に情報共有しとかないと。それに、村を何個か潰したから、その跡地に砦建設をお願いしないとな」
「そこだけ聞くと、お父さん間違い無く悪者なの……」
「ミルンお姉ちゃんも、楽しんで悪者の股間潰してたの」
仕方無いぞ、盗賊とか奴隷商とか腐った村は早めに潰さないと、後手に回ったらしんどいからね。