8話 魔物は皆んな生きている.2
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コンテナの上部で、ミルンの尻尾を撫でながら、のんびりと寝ていたら、馬車のスピードが急に上がり、振動で飛び起きた。
ミルンは寝ているのに、なぜ?
そう思い、コンテナの上から前方を見た。
「お……マジか?」
「んんっ、流さんどうしたの?」
少し先から大量の魔物達が、まるで餌を見つけたと言わんばかりに、迫って来ていた。
この速度だと、衝突まであと僅か。
「ミルンっ、何かに捕まれ! 絶対に振り落とされるなよ!」
「流さんに掴まるっ!」
そして、魔物の大群と────激突っ!!
思ったよりも衝撃が来ない? そう思い、前方を見たら、納得した。
パッコーンッ────『ギュギョッ!?』
ブチブチブチッ────『プギッ!?』
プチュッ────『ギャアアアッ!?』
生々しい音を立てながら、ゴブリン、ゴブリン、オーク、ゴブリン、オーク、ゴブリン、ゴブリン、鶏? オークと、その迫り来る魔物の大群が、肉片へと変わって行く。
ある者は押し潰され。
ある者は上空へ。
ある者は噛み引きちぎられ。
またある者は粉々に。
『ヒヒィイイイ────ンッ!!』
『ブルゥッブルゥッッッ!!』
二頭の筋肉馬が、コンテナを引っ張りながらも、走る速度を上げ、魔物の大群に突撃。
その筋肉と重量でもって、魔物の大群を蹂躙しながら、前へと進む。
俺は、振り落とされない様に、コンテナにしがみ付き、言ってみたかった台詞を、声高らかに叫んだ。
「ふはははっ! 我が軍は圧倒的ではないか!」
「流さんどうしたの!?」
「さあ筋肉馬達よっ! 敵を薙ぎ払え!!」
『ヒヒィイイイ────ンッ!!』
『ブルゥッブルゥッッッ!!』
「魔物は皆んなー生きているーっ! 生きーているから潰すんだーっ!!」
「流さんが可笑しくなった!?」
ミルンさんや。揺られ揺られて、ハイテンションに、なっているだけだぞ?
そんな事をしていたら、ポーンと前方から、何かが飛んで来るのが見えた。良い感じに俺目掛けて来たので、手を上に上げて、スポッとキャッチ成功!
「鶏……?」
「流さん、それコカトリスですよ?」
ミルンが俺にしがみつき、涎を垂らしながら教えてくれるけど、どう見たってこの生物。
「鶏」
サッカーボール程の大きさの鶏の身体に、蛇の様な尻尾を生やし、『コケッコココッ』と鳴いている。
「鶏……だな」
俺は失念していた。
大きかろうが小さかろうが、魔物は魔物。
コカトリス────庶民の家計の味方。
低価格で販売されており、その肉は蛋白で、様々な料理に合うと好評。
一時乱獲され、その数を減らしたが、現在では増えに増えて、害獣ならぬ害鶏となり、捕獲推奨と言われるまでに、進化した。
その魔物の特性を、身を持って知った。
『コケェエエエエエエ──ッ!!』
俺は、コカトリスを手に持ったまま、一瞬で石像になっちゃいました。だけどコカトリス、お前も逃げられないぞ。
『コケェッ!?』
ミルンは助けを呼んだ。
「……」
コカトリスが暴れている。
筋肉達磨の村長が現れた。
「……」
石像をコンテナに搬入した。
「……」
コカトリスが暴れている。
聖女は爆笑している。
ミルンは俺の頭を齧っている。
硬い様だ。
「……」
コカトリスが暴れている。
聖女は爆笑している。
村長も笑い出した。
ニアノールは堪えている。
「……」
コカトリスが疲れている。
ミルンは尻尾を俺の顔に擦りつけている。
ニアノールは笑い出した。
「……」
コカトリスは諦めた。
聖女が奇跡を行使した。
「………ふぅ」
俺はギュッと、コカトリスを握り締め、『こんのぉ鶏やろうがぁああああ!!』と、聖女の顔面目掛けて投げ付けた。
「何でやねんっ!?」
筋肉馬達の働きによって、魔物の群れを殲滅した俺達は、新たなる仲間、コカトリスの非常食(ミルン命名)を連れて、先へと進んだ。
「ふぅ……何か一気に疲れた」
仰向けになった俺の腹で、ぐっすりお休み中のミルンを撫で撫で……疲れ取れて来たな。
ガゴッ────『流君、もう間も無く野営地である。そこで一旦休憩だ』
コンテナ上部の昇降口から、村長の声が聞こえて来た。俺は『了解』とだけ伝え、ミルンを起こしつつ、前方を確認。
砂利道が終わり、整地された道が続く先に、大きなログハウスが建っており、そこから煙がもくもくと、立ち昇っていた。
「何これ……ただのキャンプ場じゃん」
コンテナ馬車から降りて、耳をぴこぴこ、尻尾を振り振りと、可愛いミルンを肩車して、野営地を歩く。
隣には、猫耳メイドのニアノールさん。
その隣には、大股で歩いている、どう見ても聖女には見えない聖女リティナ。
後ろからは、身長二メートル越えの筋肉の塊である、筋肉村長。
周囲から視線を感じるけど、怪しい者では御座いません。大道芸人でも御座いません。ただの旅人ですからね?
「流さん、お腹がすきました!」
「そうだな……あそこでご飯作るか」
広場の端に場所を陣取り、簡易の調理場を設置して、マジでただのキャンプだな。
「誰か火を着けてもらえるか?」
ミルンがビクッと、肩の上で震えた?
どうしたんだろ、ミルンは火が苦手なのか?
「私、火の魔石もってますよぉ」
「ニア。それウチに貸し」
ニアノールさんが、メイド服から石を取り出して、聖女リティナにパス。
少ししたら、その石が赤く光って、聖女リティナの手の平から、小さな光がふよふよと現れ、枯葉の上に落ちた。
ポッ────「えっ、火がついた?」
俺が濡れパンをマシパンにする為、どれ程苦労したと……今の素敵アイテムは何だ?
「ほいニア、返すわ」
「はいどうもぉ。お役に立てて良かったですぅ」
「ちょっとその尻尾を触らせて下さい!!」
「ヒィッ!?」
「おっと間違えた」
ニアノールさん曰く、魔石を媒介にして魔力を流すと、その魔石の特性に合った魔法が、使えるとの事。
魔力って何だよ、俺にも有るの?
因みに魔石は、魔物の心臓。
解体しなければ、手に入らないとの事。
俺に魔物解体何て出来ると思うなよ。
こちとら現代人ですからね。
肉屋さん有難う。
取り敢えずは、これで火がついた。
「んじゃぁ、お料理のお時間だ。『空間収納』から、鍋をだしてっと」
勿論、村長宅から持って来た、俺の鍋だ。
先ずは、玉葱っぽいモノを微塵切りにして、色が変わるまで炒めて、人参っぽいモノと、馬鈴薯っぽいモノを加えて、更に炒める。
次に、ブロック肉を取り出して、一口大に切り分けて、更に炒める。
「流君…器具とその食材はどこから」
焦げないように炒めて、炒めて、炒めたら、村長宅から持って来た、俺の香辛料を加えて、お水を投入。
後はひたすら、煮込んで、灰汁を取り、煮込んで、灰汁を取り、煮込みまくる!!
「流さんのお料理っ、良い匂い!」
最後に、揺れているミルンの尻尾を、一度モフモフしてから、味を確認……玉葱香る、シンプルシチューの完成だ!!
「何か美味そうな匂いやん」
「これは、貴重な香辛料の香りですよぉ」
「聖女様とニアノールさんも食べるだろ?」
「流さん! 早く食べたい!」
ミルンは涎が止まらない。
コカトリス(非常食)をじっと見ている。
コカトリス(非常食)は怯えている。
「おっと、お皿だったな。『空間収納』から、お皿をだしてっと、コレで良いかな」
「……流君」
「何だ村長?」
村長が、ポンッと俺の肩に、手を置いた。
ゆっくりと、白い歯を見せた村長の顔面が、近づいて来るけど、暑苦しいぞ。




