8話 魔物は皆んな生きている.2
目の前から迫るは大量の魔物達。
ゴブリン、ゴブリン、オーク、ゴブリン、オーク、ゴブリン、ゴブリン、鶏? オーク、オーク、ゴブリン、オーク、ゴブリン、オーク、オーク、鶏? ゴブリン、ゴブリン、オーク、鶏? オーク、オーク、オーク、オーク。
その迫り来る魔物の集団が散っていく。
ある者は押し潰され。
ある者は上空へ。
ある者は噛み引きちぎられ。
またある者は粉々に。
ヒヒィイイイイイイイインッ!!
ヒヒィイイイイイイイインッ!!
二頭の馬(筋肉馬)がコンテナを引っ張りながら、魔物の集団の中に突撃し、速度落とす事無くその筋肉と重量をもちいて蹂躙して行く。
俺は兎にも角にも振り落とされない様にコンテナにしがみつき、ミルンは俺にしがみつきながら言ってみたかった言葉を叫ぶ。
「ふははは我が軍は圧倒的ではないか! さあ、筋肉馬達よぉおおお! 敵を薙ぎ払え!!」
ヒヒィイイイイイイイインッ!!
ヒヒィイイイイイイイインッ!!
「生きてる魔物は悪い魔物だ! 逃げる魔物は悪い魔物だ! 死んだ魔物も悪い魔物だーあっはっはっはっ!!」
揺られ揺られてハイテンションになっていますわなぁああああ!?
何かが飛んで来たのですかさずキャッチ。
鶏…?
「流さん、それコカトリスですよ?」
ミルンが俺にしがみつき涎を垂らしながら教えてくれるけどどう見たってこの生物。
鶏。
サッカーボール程の大きさの鶏の身体に、蛇? の尻尾を生やし、コケッコココッと鳴いている。
鶏…だな。
俺は失念していた。
大きかろうが小さかろうが魔物は魔物。
コカトリス。
庶民の家計に優しい価格で販売されており、その肉は蛋白で様々な料理に合うと好評。一時乱獲され数を減らしたが、現在では増えに増えて害獣ならぬ害鶏となり捕獲推奨と言われるまでに進化したその魔物の特性はーーー
コケッェエエエエエエエエ!!
ーーー俺は、コカトリスを手に持ったまま石像となった。
コカトリスは逃げられない。
コケッェ!?
※
ミルンは助けを呼んだ。
「……」
コカトリスが暴れている。
筋肉達磨の村長が現れた。
「……」
石像をコンテナに搬入した。
「……」
コカトリスが暴れている。
聖女は爆笑している。
ミルンは俺の頭を齧っている。
硬い様だ。
「……」
コカトリスが暴れている。
聖女は爆笑している。
村長も笑い出した。
ニアノールは堪えている。
「……」
コカトリスが疲れている。
ミルンは尻尾を俺の顔に擦りつけている。
ニアノールは笑い出した。
「……」
コカトリスは諦めた。
聖女が奇跡を行使した。
「………ふぅ」
ギュッとコカトリスを握り締めーーー
「こんのぉ鶏やろうがぁああああ!?」
ーーー俺はコカトリスを聖女に向けて投げつけた。
「何でやねんっ!?」
※
筋肉馬達の働きによって魔物の群れを殲滅した俺達は、新たなる仲間、コカトリスの 非常食(ミルン命名) を連れてのんびりと先へ進んでいる。
「ふぅ…何か一気に疲れた」
仰向けになった俺の腹を枕にして寝ているミルンの頭を撫で撫で耳を触わ触わ。
「流君」
コンテナ上部の昇降口を開けて村長が伝えてくる。
「もう間も無く野営地だ、そこで一旦休憩しよう」
俺は手を振り了解とだけ伝え、ゆっくりと起き背伸びをしながら前方を見る。
砂利道が終わり、整地された道が続く先に大きなログハウスが建っており、そこから煙がもくもくと立ち上がっていた。
「何これキャンプ場じゃん」
※
周りの視線が鋭く刺さる。
そりゃあ野営地だもんね、他の人もいるよなぁミルンに殺気をむけたら殺す!
耳をぴこぴこ尻尾を振り振りとしながら俺に肩車をされて辺りを見ているミルンと、猫耳メイドを連れた大股で歩く目立つ容姿の聖女と、別の意味で目立つ筋肉村長は気にしなくても良いか…?
「流さん、お腹がすきました!」
そうだねーミルンさんや、直ぐ準備するからねー広場の端に場所を陣取り、簡易の調理場を設置してっと。
「誰か火を着けてもらえるか?」
ミルンがビクッと俺の頭の上で震えた。
何故だ…?
ミルンは火が怖いのかな?
「私、火の魔石もってますよ」
ニアノールさんがメイド服から石を取り出し、これをこうして、これをああして、はいっ。
ポッ。
「何今の!?」
以前俺があんなに苦労して着けたのに何今のファンタジー道具! ちょっと見せて下さい!
「ちょっと触らせて下さい!」
「ヒィッ!?」
おっと間違えた。
どうやら魔石を媒介にして魔力を流すと、その魔石の特性に合った魔法が使えるらしい…因みに魔石は魔物の心臓にくっついているので、解体しなければ手に入らないとの事。
俺に魔物解体何て出来ると思うなよ。
こちとら現代人ですからね。
肉屋さん有難う。
とりあえずこれで火が着いた。
レッツクッキング!
空間収納からのー。
村長の家から持って来た鍋を用意して、村長の家から持って来た香辛料(高価)と、お肉はブロックを一口大に切り分けて、炒めつつ、ニンジン? 馬鈴薯? 玉葱? を炒めて炒めて。
「流君…器具とその食材はどこから」
村長の言葉は無視しつつ焦げないように炒めて、炒めて、炒めたら、香辛料を合わせてお水を投入して煮込んで、煮込んで、煮込んで。
「流さん! 流さん! 良い匂い!」
揺れているミルンの尻尾一度モフモフしてからの、ほい何ちゃってビーフシチュー完成!!
「何か美味そうなにおいやなー」
干し肉を齧っている聖女が匂いに釣られて来たな。
「これは…貴重な香辛料を使っておりますねぇ」
ニアノールさん一緒に食べましょうはぁはぁ。
「流さん! 流さん! 早く食べよ食べよ!」
ミルンは涎が止まらない。
コカトリス(非常食)をじっと見ている。
コカトリス(非常食)は怯えている。
「それじゃあお皿をとりだーーー」
「流君」
ポンッと俺の肩を掴みながら、ゆっくりと白い歯を見せた村長の顔面が近づいて来た。
肩に跨ったミルンが押し返えそうと頑張っている。