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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界
254/318

魔王って沢山居るんですね.2



 少し前の事、東の小国の一つ『野曽国』にそれはそれは美しい娘が居りました。

 しかし誰も、その娘がどこで産まれ、どこで育ち、いつから野曽国に居たのか知りません。

 ですが誰もそれを聞かず、問わずに、ただ美しいその娘を讃え、崇め、そしてとうとうその娘は、野曽国を治める王の妃となりました。

 月日は流れ、ある時王はふと──妃の姿に疑問を抱きます。

 娘を妃に迎えてから二十年、王の身体は年相応に衰えていく中で、妃だけはあの時の美しい姿のままでは無いかと。

 一時は美しさを保つ為に、特別な努力でもしているのだろうと思っていた王でしたが、更に年を重ねて行くうちに理解してしまいました。

 妃は全くと言ってもいい程にあの時のままの姿であり、人種や獣族とは違う一種の化物であると、遅まきながらも理解してしまいました。


 王は妃に問います。

 お前は何者だ、何が目的で妃となった。


 妃は笑いながら応えます。

 貴方から妃となれと仰ったではないですか。


 王は妃に問います。

 何故年をとらぬ、何故昔の姿のままなのだ。


 妃は笑いながら応えます。

 私が、人種でも獣族でも無いからですよ。


 王は妃に問います。

 ならお前は何なのだ、一体誰なのだ。


 妃は笑いながら応えます。

 私は魔王、悪魔族を束ねる魔王です。


 妃は笑いながら王に伝えます。

 王様、この国の民の命を全て下さいな。

 人種、獣族を問わず、生きとし生けるものの苦しむ様を眺めたいのです。

 

 王は直ぐ様剣を手に取り、妃の首目掛けて振り抜きます。

 その剣は、普通ならば妃の首ぐらい簡単に斬り飛ばせる程の名剣。

 ですが妃は自ら名乗りました。

 魔王──悪魔族の王であると。

 首を斬り飛ばす筈だった剣は、妃の細首皮一枚斬るだけで、それ以上斬れません。

 

 そこから滴る『紫色の体液』を見て、王はその体液が付いた剣を放り投げました。


 妃は笑い、高らかに笑い、朗らかに笑い、嘲る様に笑い、慈しむ様に笑い、王の頭を掴み、握り潰しました。

 王の最後の表情を、まるで──劇の最後を観客席で眺める少女の様な笑顔で見つめ、肉片へと変えました。


 それを見ていた、見てしまったメイド達は、それこそ蜘蛛の子を散らす様に逃げ、妃はそれを狩でもするかの如く追いかけて、捕まえては裂き、捕まえては喰らい、捕まえては弄びました。


 闇が国を覆います。

 その闇に喰われる様に、人種、獣族達が潰れていきます。


 野曽国はたった一夜で終わりを告げました。

 何とか逃げ延びた、生き延びた者達、その中に、紫色の体液が付いた剣を持った者が居りました。


 その者は告げます。


 銀細工の様な輝く髪、空の色よりも透き通る青い瞳、健康美溢れる褐色の肌、その者達は人種に在らず、獣族に在らず、忌むべき存在であり、魔王の眷属、悪魔であると。


            ◇ ◇ ◇


「これが東の国々で伝え、語られている内容になります」

「……爺さん、話長くて理解できないぞ」

「聞いてて苛々するのモゴモゴ、お話長い!」

「爺を土に埋める、もちゅもちゅ」

「俺…ずっと縛られたままなのかよ!?」


 話長いから、ミルンもミユンも御立腹だぞ。

 お菓子が有るから寝ずに聞いていたけど、食べながらも、ずっとミルンの尻尾が椅子を叩いて苛々してるし、ミユンの足下には根っこがニョロニョロしてるし、触るな危険状態だ。


「魔王ねぇ、それっていつの話なんだ」

「およそ百五十年程前の話かと……」


 そんなに昔じゃ無いじゃん……下手したら生きてるよねその魔王。

 そもそも悪魔って聞いた事無いし、ジアストールと東の国々とじゃ言い方が違うとかかね。

 うん、後で色々調べてみよう。


「それで爺さん、アンタはいつ不法入国してこの地へ来たんだ」


 そこが今一番の問題だ。

 どうりで、この国には無い家具や食器がある訳だよ。


「……五年程前ですかな、東の国の一つ和州国から帝国を経由して、まだ小さかったこの村に来たのです。もう争いは懲り懲りでしたから」


 凄い遠回りしてる……誰か追っ手でもいたのか。


「その時の領主には……勿論報告とかをしてないよな。してたら必ず情報ある筈だし、前の村長とか居ただろ、その人はどうした」

「前村長は御高齢で、事情を話すと心良く我々を受け入れてくれました。もうお亡くなりになられております」


 それが事実かどうかは分からないな。

 だけど、町の人達を見る限り、誰一人不満を漏らす事なく働き、人間も獣族も関係なく暮らしている……だからこそ理解できん。


「どうして、この膨れっ面で目付きが悪い泥棒娘だけ差別するんだ。コイツが悪魔族だったとしても、別に悪い事なんて……盗みしかしてないだろ。畑仕事ぐらいやらせてあげろよ」


 凄い渋い顔になってるぞ爺さん……。


「爺がシワシワになってるの……気持ち悪いです!」

「枯れ木のシワシワなの……栄養足りて無いの」


 ミルンがストーレート過ぎるぞ、爺さん若干泣きそうじゃないか。


「村の者達は、特に獣族達は自分達が忌み嫌われていた為に、表立ってその娘を虐げる事は御座いません。しかし、この地の者の大半は東から来た者ばかり故、心の中ではその娘を嫌悪しており、その娘が作物を育てたとて誰も手に付けません」


 泥棒娘、バイ菌扱いか……泥棒娘が作物育てても、買いたく無いし買う者が居ない。だから閉じ込めて、見えない場所に隔離して、ご飯だけ与えていたと。


「隔離していたにしては……泥棒娘、お前地味に頭良さそうだよな」


 人の金盗んで直ぐに、中身が少ないってぼやいていたし、金勘定が出来ないとそんな事分からないぞ。


「あんなボロ小屋、直ぐに抜け出せるぞ。時々来ていた旅商人に色々教わってたんだ、金を払えば何でも売ってくれるからな」

「なるほど、盗んだ金で情報もとい知恵を買っていたと……泥棒娘凄いな」


 普通なら欲しい物とか買いそうだけど、泥棒娘は欲しい物より、必要なモノを買っていたんだな、頭良すぎだろ泥棒なのに。


「お話終わった? 爺の玉潰すの!」

「パパ、この町埋める? 手伝うの!」


 うーん、どうしようかなぁ。

 この状況だけ見ると、東の者達がジアストールの国土を侵して、占領している風に見えちゃうし……実際占領してるし、だけどファンガーデンに来れない獣族達をちゃんと保護してる。

 だけど。泥棒娘の様な一部の種族を嫌悪して、不利益を生じさせてるし……徴収する税金次第かなぁ。


「爺さん、獣族達の保護と、自立できる様に職を与えている事を継続するなら、この町は潰さずに置いておく。しかし、これからはちゃんと税を納めろ。ファンガーデンで鍛えた徴税官をこの町に常駐させるから、これからは誤魔化しは出来ないと思え」

「寛大な御処置に感謝致します領主様……」


 爺さん、頭下げて顔見えない様にしてるけど、悔しさが体に表れてるぞーい。


「んで、泥棒娘は俺達が引き取るからよろ」

「──はぁ?」

「お父さんにまた娘が……妹以外要らないの」

「パパは節操無しなの……その娘は肥料にするの!」

「俺、いつまで縛られたままなんだ……」


 それじゃあ、影さん呼んで馬車をファンガーデンに運んで貰うか。俺達は緑化魔法でショートカット帰還ですね。



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