知らない町を駆け回ろう.5
泥棒の子供を捕まえて根っこでぐるぐる巻きにし、ミルンとミユンが挟み込んでいる状態のままで、裏路地の先に到着。
「お父さん、この子匂いが女の子なの」
「逃げようとしたら糞尿抜き取るの」
ほぉ、やっぱり女の子だったか。リティナに似てるから、そうだと思ってたんだ。
「離せよおっさん! コイツら怖いんだよ! 何で俺見て涎垂らしてるんだ!」
それは……御愁傷様だな。
ミユンなんかジッと泥棒娘の尻を見てるし、畑の肥やしを待ってます感が凄い。
「大きい声で五月蝿いの、次大きい声出したらこのまま畑の肥やしにします」
「ミユンは有言実行するの、大人しくしてれば大丈夫です…………」
「何でっ、最後の無言は何なんだよっ。お前等頭どうかしてるぞっ」
ちゃんと声を抑えてるな、強気に見えて凄い震えてるし……やっぱ怖いよなぁ。
肉食系娘(睾丸生食)と草食系娘(悪者は肥料)だから、初見の子供には少し刺激が強い様だ。
「なるほど、町内を種族区画で分けて暮らしてるのか。糞尿は落ちてるけど、人とそこまで暮らしぶりは変わらない様だな」
違う所と言えば、獣族区画で力持ちが多いからか、直ぐ町外へ出る為の扉があって、その向こうに畑が広がっている事ぐらいだな。
畑仕事は獣族達が七割、人間が三割程か……別に嫌がって生活してる風には見えないし、ナルバルの爺さんの言ってた事は本当の様だ。
「……なぁ泥棒娘、何でお前は盗みなんてしてるんだ。見た感じここの暮らしなら、泥棒なんてしなくても食っていけるだろ」
「──っ、やっぱりお前等余所者か……俺は畑仕事出来無いんだよ。出来る仕事が無いから、盗みしてでも稼がないと食っていけねぇだろ」
何だそりゃ……畑仕事が出来無くて、仕事が無いから盗みをする? 別に力が弱そうにも見えないし、病弱でも無い元気いっぱい泥棒娘なんだけどな。
「働きたく無いはニートへの道なの! 過酷な試練を乗り越えなきゃ成れないの!」
「畑触れないからミユンには無理です!」
それならミルンも成れないな。だって、四六時中動き回ってるミルンがだ、家に籠ってダラダラとご飯を食べてる姿が想像出来ないからな。桃色お化けは間違い無くニートだけど……あいつ女神のくせに仕事は無いのか?
「なぁおっさん、コイツ等おっさんの何なんだ。どう見てもおっさんは人種で、コイツ等は獣族に見えるんだけど」
「見た目は違えど、二人とも俺の可愛い娘達だ。あと一人……黒姫は娘か? いや、黒姫の方が遥かに年上だから……」
ミユン的に黒姫はお姉ちゃん、ミルン的に黒姫は妹、だけど年齢的に黒姫は仙人を軽く超える長寿の龍……精神的には娘だけどな。
「どうしたおっさん、何一人でぶつぶつ言ってるんだ、おっさんも大概変な奴だな……」
「お父さんは時々こうなります」
「夢の世界に旅立つの」
黒姫は娘(弄られ役)だな、これで一つ悩みが消えた。何か遠くで『のぢゃ!?』って聞こえた様な気がしたけど、問題無いだろう。
「この町は概ね問題無しか……この泥棒娘以外はって注釈が付くけど」
「お父さん、この子どうする? ミユンに土に埋めて貰う?」
「埋めるのパパ! 外の畑の肥料にするの!」
「何だよお前等っ、俺を殺す気か!」
見た目はやっぱりにリティナそっくりだし、関西弁っぽい喋り方じゃ無いけど、金は大事って理解する頭は有る……気になるな。
「泥棒娘、お前の名前は何て言うんだ」
「お父さん、埋めないの?」
「肥料! 肥料と言う名前なの!」
盗っ人には容赦無いよね二人共……頼むから少し大人しくして欲しいなぁ。
「娘の躾なってないんじゃ無いかおっさん!? 俺はアトゥナ、『アトゥナ・オルカス』だ、これで良いか助けろよおっ────」
ミルンが泥棒娘を担いで行った──!?
ミユンが嬉々として『埋めるの──』って連呼しながら後を追って行ってるし埋める気満々だよね二人共!!
「──ちょい待ち二人共ぉおおお! そいつ絶対アイツの関係者だからぁあああ──!!」
確かリティナのフルネームが、『リティナ・オルカス』だった筈──助けないと後味悪過ぎるわ!!