知らない町を駆け回ろう.4
と言うわけでこの町、ダルバスの粗探しをする為に表通りから逸れて、裏路地の奥に足を踏み入れたんだけど、ミルンとミユンが爆走してます。
「そっちに逃げたのミユン! 捕まえてお尻をペンペンします!」
四足歩行の速度特化型ミルン(尻尾がふりふりとして可愛らしい)が、敵と言うか俺のダミーの財布を盗んだ泥棒を追いかけて疾走し、ミユンは地面に根を生やし、逃道を塞ぐサポート(背中の羽が意味も無くパタパタして可愛らしい)をしながら追いかけている真最中です。
「ミルンお姉ちゃんとミユンから逃げられると思わないの! 捕まえて糞尿抜き取る!」
糞尿抜き取るって殺る気じゃないよね。
まさか裏路地入って直ぐスリに合うとは思わないし、しかもさっきの子、チラッと見ただけだけど……褐色の肌に白銀の髪か。
「どっかで見た事ある様な姿してたな……」
「お父さんも捕まえるのー!」
ミルンが少し怒っちゃってるよ、別に銅貨数枚しか入ってないから良いんだけど。
「……それじゃぁ……魔神の力を見せてやるぜっ!」
頭の中に徒競走の曲が流れていく。
第一コース! ケモ耳ケモ尻尾がトレードマークのお肉大好き娘、ミルン選手──!
「お肉の事ならミルンにお任せ!」
第二コース! 背中の羽根で飛ぶ事が出来ない畑大好き娘、ミユン選手──!
「畑に肥料(ヒト由来の成分)を撒きましょう!」
第三コース! 青の瞳に銀髪褐色肌他人の空似性別不明、泥棒選手──!
「コレだけしか入ってないのかよ!?」
第四コース! 魔王に成っても魔神に成っても腕力が上がらない男、流選手──!
「彼女は欲しいが結婚はしたく無い!」
各選手出揃いました。腕、脚を曲げ、準備に余念が有りません。
さあさあ各選手、スタート位置に向かい、準備が完了した様です。
オン・ユア・マークス────パンッ!
各選手一斉にスタート!
先ず前に出たのは──泥棒選手だぁあああ!
必死に腕を振り障害物を避け! まるで猫の様な動きで後続を引き離すぅううう!
おっとぉおおお! そこへミルン選手が凄い形相で迫っているぅううう! 何と四足走法で速い速い! まるで獲物を狙う狼の様な速さで──泥棒選手の背後に迫るぅううう!
ミユン選手の、次々に泥棒選手の前方に根を出す妨害が効いていますね、素晴らしいコンビネーションです。
おぉっとぉ──泥棒選手が転倒だぁあああ!
しかしミルン選手の勢い止まらず! 追い越してしまったぁあああ!
泥棒選手は運が良いですね、ですがまだ、ミユン選手が迫ってますよ。
泥棒選手素早く立ち上がり──コースを変更だぁあああ! ミユン選手が涎を垂らしながら迫りますが! 若干泥棒選手の方が速いかぁあああ! ミルン選手追いつけないぃいいい!
あぁ──っとぉおおお! ミルン選手が目の色を変えて走って来たぁあああ! 金色の眼が血走っているぅううう!
相当苛々している様ですね、地理は泥棒選手の方が有利ですので、コレは──どうなるか分かりませんよ。
ミルン選手が刻々と泥棒選手に迫っているぅううう! そしてキタ──! 泥棒選手の目の前に! 突如として流選手が現れたぁあああ!
泥棒選手! 前後に挟まれ逃げ場が無い! とうとう捕まるのかぁあああ!
あっ──ミルン選手が泥棒選手を捕まえようと飛び出した瞬間! 泥棒選手がしゃがみ込み! ミルン選手が泥棒選手を飛び越えてしまったぁあああ!
流選手の顔面に直撃だぁあああ!!
コレは痛いですね、ミルン選手の勢いそのままに良い感じでぶつかりましたよ。
泥棒選手! これ幸いと再度走り出したが! あ──とっ! 走れ無い! 泥棒選手の足首に根っこが絡み付き! 逃すまいと食い込んでいくぅううう!
ミユン選手がもちゅもちゅ言いながらゆっくり歩いて来ましたね、溶かす気満々でしょう。
そして──泥棒選手捕まってしまったぁあああ──! ゲームセット! ウィナーミユン選手だぁあああ!!
「今回の勝利お見事です、今の御気持ちをどうぞ」
「パパがまた壊れてる……」
「いつもの事なの、諦めてます……」
「何だよお前らっ、離せ! 離せよ!」
別に俺、壊れてないからね。
ちょっと顔面痛かったけど、防御ステが高くてよかったぞマジで……前の俺なら顔面陥没レベルです。