知らない町を駆け回ろう.3
お高そうな絨毯にふかふかのソファ、木目模様がお洒落なテーブルに、壁にはオークの剥製……剥製が飾られており、貴族用の応対室って感じがする。
「この椅子沈む……気になるの」
「このテーブルウッドドールなの、触り心地抜群です」
ミルンはソファ初めてだったか? と言うかミユンさんや、テーブルの素材があの木目の姉ちゃんって、マジですか。
「ほぉ……そちらの御嬢様は中々に眼が肥えていらっしゃる。おっしゃる通り、これはウッドドールを使ったテーブルに御座います。手に入れるのに苦労しましたわい」
「コレが、ウッドドールが乱獲された理由か。確かに木目が良い感じで、部屋の雰囲気や他の家具とも相性良いな」
希少種を使ったテーブルだろ……苦労して手に入れたって言ってるが、帝国産のモノをどうやって手に入れたのかね。
「自己紹介が遅れましたな、私はこのダルバスの村長をしております、『ナルバル』と申します。先程は使用人が大変失礼を致しました、申し訳御座いませぬ」
「こっちこそ急に来て悪いな、領主の小々波流だ。各村々をせ……見て回ってるんだ」
「ミルンなの! 怪しい村は殲滅してます」
「ミユンなの! 発見次第肥料にしてます」
ミルン、ミユン、余計な事を言うんじゃありません。この町だって、もしかしたら潰すかも知れないんだからな。
「ほっほっほっ元気な御嬢様方ですな。して、領主様は何か聞かれたいご様子ですが、この村の事ですかな?」
「察しが良すぎて気味悪いな爺さん、あと村じゃ無くて町だろ、一体何でこんなデカくなった。しかもそれを、前の領主に報告してないだろ、何でだ」
爺さんは、ミルンとミユンを優しい目で見ながらゆっくりと俺を見てきた。
「領主様の作られた、ファンガーデンの情報は風の噂で聞きましたが、この場所からだと遠く、行けぬ獣族達もおるのですわい。この村に来られる前の、殲滅された村々が良い例ですな」
確かに、ファンガーデンに着けば仮の住まいや保護等は出来るが、数人で数日、数ヶ月先の場所からだと命懸けでの移動となる。
実際、移住して来た獣族達は群を成し、最低でも数十から数百人で来た者達ばかりだ。
「そこで、村長であった私はどうすれば良いかを考えましてな、結論から言うと──村を拡張したのですわい。盗賊や奴隷商達から逃げて来た獣族達を護る為、私財を全て使い切り、何とかここまでの大きさに出来たのですじゃ」
私財を投げ打ってねぇ……こんなに良い家に住んでるのにか。
「さっきの使用人は以前、ミルンに酷い事をして殺しかけた奴等の一人なんだが、そんな奴を匿ってる爺さんの話を間に受けると思うなよ」
獣族嫌いと言うか蔑視、差別している奴を匿う時点で、俺的に爺さんは真っ黒だからね。
「彼奴の事は謝罪するかしか出来ませぬ。アレでも可愛い孫なのですじゃ。小さい頃、この村に居た時は普通に獣族の子らと遊んでおったのに、ラクレル村で両親が殺されてから、おかしくなったのですじゃ……」
村長と同じって事ね、だから前のラクレル村に居た奴等は、あからさまに獣族を嫌悪していたと。でもそれ、ミルンに関係無いよね。
「だからと言って、獣族の子供を痛ぶって、殺そうとするなんて事が許される訳が無いんだけどな。因みにこのミルン、女王のお友達だから下手したらお前ら首飛ぶぞ」
「お父さん、ルシィは友達じゃ無いの」
「女王はミルンお姉ちゃんのお財布なの!」
ルシィ……お前金蔓だってさ。
それ、直接ルシィに言ったら泣くやつだからねミルン。
「陛下をその様にお呼びできる時点で、どの様なお立場のお方か分かりますわい。成程、あの子はどちらにせよ……首を括るしか道はないのですな……」
何か勘違いして無いかこの爺さん。
「俺は別に、さっきの孫をどうにかする気は無いぞ、最初に言ったがただの巡回だからな。ミルン、さっきの姉ちゃん『お父さんが既に片脚潰してるから良いの』──だってさ爺さん」
「寛大な御心に感謝致します」
さっきの姉ちゃんの暴言は水に流さないけど、ミルンがこう言ってるからな。
「保護が嘘なら町ごと潰すから良いの!」
「町民全員肥料にするの!」
あっ違う、コレ絶対ミルン怒ってるじゃん。
嘘吐いてるならこの町終わるけど、大丈夫だよな爺さん。
「爺さん……絶対大丈夫だよな」
「……大丈夫かと……思いますじゃ」
大丈夫じゃ無かったら、町消えちゃうぞ。