領地運営は先ず破壊から.3
村長を探しながら歩いていると、必ずと言っていい程に絡まられる。と言っても、別に俺が絡まれる訳では無く、『何でここに臭い獣が歩いてるんだぁ』とか、『この餓鬼、中々高値で売れそうじゃねぇか、ちょっと味見させろよ』など、ミルンやミユンに絡んで来るんだ。
「来るたびに即土に埋まるけど、なんでこの村、女性が居ないんだ……」
口には出すけど、まぁ大体想像はついてる。
「この村嫌い! 滅ぼすの!」
「ミルンお姉ちゃんに賛成です!」
真昼間に畑仕事をしておらず、子供の元気な声も聞こえないと言うことはだ、この村の財源として売られたか、売りに出す為に何処かに居るという事だな。
「ミルン、この村に、人や獣族達の臭いが多く集まっている所って分かるか」
「調べてみるの! スンスンッ──あっち!」
「ミルンお姉ちゃんのお鼻凄い!」
そうだなミユン、ミルンの嗅覚はそんじょそこいらの獣族達には負けない、凄い可愛いお鼻だよな。
ミルンの指さす方向へ、黒い虫の如く湧いて出るおっさんを土に帰しならが進むと──少しマシな家が見えて来た。
殆どの家屋が昔のミルンの住居並みにボロい中で、あの家だけ隙間や穴が無く、どう見ても村で一番偉い奴の家だろう。
「あの中から臭いするの……血の臭い……」
「ミユンも感じるの、あの中は嫌」
「マジかぁ……二人共、周りを警戒しながら少し待ってなさいな」
ミルンが嗅いだ血の臭いに、ミユンが嫌と言う程の嫌な感じとなると、流石に二人には見せられんからな。
「退路を確保しておきます!」
「怪しい奴がいたら捕えます!」
ミルンとミユンがホッとした顔をしたな。
結構な修羅場を潜って来てるとは言えまだ子供だし、嫌なモノを見せない様にしないとな。
家の前まで進み、軽く扉をノックすると、『誰だよこんな真昼間に──えっ、本当に誰だよ』と髭面のおっさんが下半身丸出しで出て来た。
「どうもこんにちは、こちら村長宅で御間違い無いでしょうか?」
営業マン時代のニコニコ笑顔で聞いてみる。
「あっ、あぁ俺が村長のバガズだが、えっ、本当に誰だよお前……」
「失礼、ご挨拶が遅れました。当方この度、辺境伯に任命されました、領主の──小々波流と申します。現在各村々を巡回しておりまして、そのご挨拶に伺った次第でして──」
営業マン時代のニコニコ笑顔で言ってみる。
「はぁ、それはどうも……えっ、今何て?」
どうやらこの村長は耳が悪い様だな、仕方無い、もう一度ハッキリと伝えてやろう。
「この地の領主、魔神流が遊びに来たぞ──」
笑顔を消して威圧を解放──頭に角が生え、衣服が鎧と化し、その虹色の両眼を、前に下半身丸出しで立つ村長、バガズへと向ける。
「──っひゅっ──がっ──っ」
「領主の前で、下半身丸出しで、立ったままで良いと思ってるのかお前」
精神破壊効果も、加減してるから意識有る筈なんだけどなぁ。いいや面倒臭い、アイツらに贈ればコレでも喜ぶだろ。
「え──っ、コホンッ。バガズ、不敬罪で有る意味地獄行きな」
『緑化魔法』で根っこを呼び、バガズの脚を折る程に巻き付いて『ぎょぁあああ──!?』そのまま地面へと引き摺り込んで行った。
「さてと、家の中は──っ、臭せぇ!? けど何も無い?」
ワンルームシャワー無しで、奥にはポットン便所……臭いはコレか?
ゆっくり部屋へと入り、部屋の中を確認するが何も無く──「地下室か……」
バガズは間違い無く最中か事後だったし、何処かに地下へと行く何かが有る筈っ、ここか。
「これは、ミルンやミユンに見せれんわ……」
金具を引っ張っると地下への階段があったので、下りて確認してみると──檻の中で、目が虚の獣族が複数のおっさんに弄ばれている真最中だった。
「あっ? 何だお前バガ────」
「おい!? 何だこりゃ────」
「テメェの仕業か! 何しや────」
緑化魔法で次々と地獄に贈ります。
さっきのバガズは贈る時煩かったので、埋まった瞬間、贈る手前で脚を折って、これなら悲鳴も聞こえないよな。
「緑化魔法、チートよりチートだ……」
攻撃力は脚を折るぐらいだけど、贈った先にはハーピィやナーガ、ウッドドール達が居るので、オーバーキルになるだろう。
檻は全部で六つ……あぁ、臭いの原因はこの子だったか。
鍵を空間収納でくり抜き、檻を開けて一人一人ゆっくりと出していく。
獣族の女性、人族の女性、総勢十一名。
その喉元には傷が有り、誰一人声を発せずにいたが、俺の姿、角を生やし鎧を纏った姿を見た瞬間、首を垂れて泣き出した。
俺は、一人を布に包み、彼女達を外へと連れて行くと、『待ってたのお父さん』、『その子、土に帰してあげるの』ミルンとミユンが優しい眼をしながら待っていた。
「そうだな、その前にミルン、影さんを二人程呼べるか?」
「大丈夫なの! ドゥシャに教わったから今直ぐにでも呼べるの!」
ドゥシャさんがミルンに教えた魔法。
ミルンでも俺には一切その魔法を教えてくれず、ドゥシャさんからも言ってはいけないと釘を刺されているらしい。
「影達来るの! お父さんが呼んでます!」
「──どの様な御用件でしょう流様」
「──御褒美を下さい流様」
「褒美は後日だ。一人はこの娘達の護衛兼炊事係としてここへ残り、一人はファンガーデンに居るリティナとニアノールさんにここへ来る様伝えて、治療が終わり次第この娘達をファンガーデンへ移送、保護対象として療養させろ。以上、行動開始!!」
駄目だ、やっぱり若干怒りが抑えられず、キレ気味に言ってしまった。
「私がファンガーデンへ、影は炊事を!」
「この影が直ぐ御食事を用意致します! 影、早く金の亡者を呼んで来るのです!」
「お父さんが影を怖がらせたの……」
「パパ、魔神の姿を解くの! あと、早くその子を帰してやるの!」
おっと、まさか影さんが怖がるとは。
ミユンの言う通り、今はこの子を楽にしてやらないとな。
「誰か、この子の名前を知らないか。知ってたら文字で良いから教えて欲しい」
捕らえられていた者達に聞くが、何か言おうとしているけど、首を横に振った。
誰も知らない? 違うな、これは……文字が読めないのか。
「あぁっ……ゔぁな……ゔなっ……」
一人の女性が声を発した。
掠れた声で、必死に、必死に声を発した。
「うぁなか? 違う……ヴァナ? そうか、ヴァナって言うのか。友達か? そうか……」
友達か……喉が切られて、声を出すと痛いだろうに、強い人だな。
「ミユン、土に帰すのはちょっと待っててくれ」
「分かったのパパ!」
「お父さんが魔法を撃つ気なの……警戒態勢!」
酷いなミルン、お父さんはショックだぞ。
ふぅ……攻撃系の魔法以外で使うのって、いつぶりだろうか。
俺は、布に包まれた子に触れ、ただ祈る。
苦しかっただろう、辛かっただろう、怖かっただろう、間に合わなくて御免な、助けられなくて御免な、生命を司る神が居るのならば、この子に次が有るならば、優しい生を、楽しい生を、皆と笑顔で過ごせますように、家族と楽しく過ごせますように、「この子に安らぎを」
それは──いつか見たであろう光景。
あの時は、リシュエルがミルンを助けたらしいが、この輝きはそれ以上だろうか。
光の粒が舞い、布に包まれた子を優しく包み込むと、ゆっくりと空へ昇って行く。その光の中でこっちに手を振り、『のーしゃをお願い』とだけ言って、ケモ耳の女の子が消えていった。
「流石侵食度五十パーだな。安心しろよ、ちゃんと暮らせる様にしてやるからさ」
「……お父さんの魔法なのに破壊が無い!?」
「パパ、その子土に帰して良いの?」
締まらないなぁ、良いけどさ。