領地運営は先ず破壊から.1
俺は嬉々として魔法を行使している。
逃げ惑う村人をゆっくりと追いかけ、『緑化魔法』の世界樹の根を使って、捕まえてはセーフアースに贈り、捕まえては贈りと、そこに住まう魔物達へプレゼントしている真っ最中だ。
「化物だぁあああ! 来るなぁあああ!!」
「助けてお母さ──ん!!」
「神よお助けくだっ────」
神に祈りを捧げている馬鹿をゲットだぜ!
祈るのは良いが、足を止めたら捕まえ易くて非常に助かります。
特に男性をセーフアースに送ると、魔物達が大喜びで男性に襲い掛かり繁殖に勤しんでいる様で、時折り見に行ったら……面白かった。
因みに贈る時は必ず両足を折って送り、それを目印として、襲って良い奴かそうで無いかを判別して貰っている。そうしないと、アイツら見境無く襲って来そうだからなぁ。
俺の後ろ、ミルンとミユンが鎖に繋がれた獣族達を介抱しており、臓腑が出たままの子供や、両手足が無い者等中々に酷い有様だ。
「これで村何個目だっけ……」
「三個目なのお父さん!」
「サーチアンドデストロイなの!」
城塞都市ファンガーデンから南に行けば行く程、村での獣族達の状況が酷くなっており、迫害や差別が根強く残っている。
「だから更地にしましょうって訳だけど……今までよく放置してたなぁ」
だからこそ俺に話が来たんだろうけど、さてさてこれからどうしたもんかね。
一ヶ月程前、丁度領主館が完成した時にその一報が届いた。
◇ ◇ ◇
城塞都市ファンガーデン。
巨大な城壁が都市を丸ごと覆い、そこいらに居るオーク等何万匹来ようとも絶対に壊せぬ頑強さと、その都市内部で作物を育てている為籠城しても飢える事が無い環境にて、最早王都よりも安全と謳われる多種族都市。
その長にして、自国のみならず他国からも触るな危険と云わしめる男、小々波流は、出来上がったばかりの領主館にて豪奢な椅子に腰掛け、ぼーっと天井を眺めて居ますよっと。
「お父さんがまたバグってるの……」
「きっと、このお城が小さいからなの」
薄ピンクのドレスに身を包んだミルンとミユンが何か言ってるけど、そうじゃ無いんだ。
「これ……絶対に領主館じゃ無いよな」
山側に建造された領主館なんだけど、城壁よりも遥かに巨大で、王都にある王城よりも大きく造られていますよねコレ。しかも俺が今居る場所……薄暗い灯りが雰囲気を作り、壁にはセーフアースにあった壁画が模写されており、どう見てもラスボスが居る魔王城なんですけど。
「お父さんにピッタリの住まいなの!」
「大臣にミルンお姉ちゃん、副大臣にミユンなの!」
ミユンさんや、その言葉を直訳したら、ジアストールを乗っ取りましょうとなるんだけど、面倒臭いからやりませんよーい。
「そういや黒姫どこ行ったんだ、領主館に引っ越す時には姿が見えなかったんだけど」
「黒姫は影達に誘拐されました……合掌」
「黒姫お姉ちゃんは生贄になりました……南無」
黒姫死んで無いから止めなさいな。
黒姫は影さん達に拉致られたのか……そういや色々報告書来てたな、まだ見てないけど。
そんな風に、ミルンやミユンと慣れない謁見の間で話をしていたら、右後の扉からドゥシャさんが入って来た。
「旦那様、今先程陛下より書簡が届きましたので、ご確認をお願い致します」
「ルシィから? 最近存在感薄くなってきたから忘れるなよって脅しかな?」
どれどれ何て書いているのかな。
『小々波流相談役、貴殿を──我がジアストール国の辺境伯に任命す。
本来ならば陞爵の儀にて各貴族達を呼び、貴様が儂の一派であると見せつけるのだがな。
あと貴様の領地は、城塞都市ファンガーデンを含め南側に有る『ルトナッカ山』までじゃから、好きに開発すると良いわ。
ルルシアヌ・ジィル・ジアストールより、魔神様に呪いを込めて────』
呪いを込めるなよ……ルトナッカ山って何処に有るんだ聞いた事ねぇよ。
「旦那様、あとはこちらを胸元にお付け下さい」
「何だそれ……身分証みたいなもんか」
ジアストールの国章。
どこかで見た事ある様な龍と、どこかで見た事ある様な剣が彫られた国章であり、縁の色と線が階級を示しているらしい。
公爵は金と白の縦線、侯爵は金と白の斜め線、辺境伯は金と黒の縦線、伯爵は金と黒の斜め線、子爵は金、男爵は銀と、物凄く分かりやすい。因みに村長は色無しだったかな。
「──これで良しと、似合って無いなぁ」
「これで正式に、ミルン御嬢様及びミユン御嬢様は、辺境伯御令嬢となりました」
「お貴族様の娘!? ミルンが!?」
「自由時間が無くなるの!?」
ミルンは、亡き王太子の娘だから元から御嬢様なんだけど、そんな事関係無しに育って来たからこれから大変だぞぉ。ミユンも、書類上俺の娘だから逃げれ無いしな。
「そうだドゥシャさん、ルトナッカ山って知ってるか?」