プロローグ 和土国調査報告
拙者はジアストール国が暗部、影の一人である影に御座る。
皆影と呼び合う故に正直言って物凄く呼び辛いで御座るが、まぁこの喋り方は拙者ただ一人故、分かり易かろう。
流殿が正式な爵位を得て、ファンガーデンへと帰って来て直ぐに一悶着あった様で御座るが、拙者は密命を受け、ミルン御嬢様にご飯を作ってから直ぐ出立した為、直接何があったのかは見て居らぬで御座る。
さて、拙者は今現在、東の小国の一つである和土国の領内にて色々と情報を集めている最中に御座るが、この和土国、中々どうして侮れぬ国で御座るな。
木造の家屋はパッと見ただけでは分からぬが、上手く嵌め込み合わせて造られており、この国の技術の高さを現している。それに、良い質感の着物なる衣装には細かな模様や刺繍が施され、着心地も抜群で御座る。
「あとは、この御団子なる甘味はムニュムニュ、美味で御座るムニュムニュ」
このムニュムニュ食感が堪らぬな。
この御団子に付けられたタレ……甘さと塩っぱさが良い感じで合わさって、疲れた身体に沁み渡るで御座るよ。
茶屋でサボっている訳では御座らぬよ。
こう見えてゆったりと外を眺めながらも、歩く人々の声に聞き耳を立てているので御座る。
例えば、あの痩せ細のボロを着た者は『最近作物が上手く育たねぇだ……お上に税を支払ったら、食ってけねぇよ……』と、中々酷い状況で御座るな。
あっちの良い着物の太っちょは、『前と同じ銭を払ったのに、何かさっきの定食屋、量が少なかったなぁ』ほうほう似た様な情報で御座るな。
「飢饉までには至っておらぬが、作物が上手く育たずに苦しんでいる者が居ると言う事で御座るな」
あと、一番不味いのは……アレで御座ろう。
小さい獣族の子供が二人がかりで大きな荷車を引いており、少しでも休むと、荷車の上に乗っている者が鞭で叩き無理矢理歩かせる。
家屋の一画にも、首輪を付けられて腕に枷を嵌められ、商品として売られて行く獣族達の姿が見える。
「おかしいで御座るな……和土国は精霊を信仰する国の筈、獣族にも寛容であったと記憶しているので御座るが……」
もしかして国を間違えたで御座るかな?
自作の地図を確認確認……あれ?
もしかして和土国の隣の国で御座るか……聞いてみた方が良さそうに御座るな。
「すまぬ店主よ、ここは何と言う国で御座るか」
「んっ? なんだぁアンタそげな格好しとるのに違う国から来たんけ? ここは和州国だよ」
あ──コレは非常に不味いで御座るっ、早く移動して調べなければ、ドゥシャの再教育に参加させられてしまうので御座るっ。
「すまぬ店主よ馳走になった。釣りは要らぬ故、取っておくが良いに御座るっ」
地図を再確認して、関所がここに在るから一旦戻って迂回しつつの東に進むであってるで御座るなっ。
「急がねばっ、再教育は嫌で御座る!!」
◇ ◇ ◇
和州国を出て関所を迂回し、全速力で一昼夜走り、何とか和土国の村へ到着に御座る!
「家屋の見た目は和州国と変わらぬなぁ」
来る時に近場の畑を確認したが、確かに土が乾いており、あれではまともに作物が育たぬで御座るよ。
「しかし、隣国との違いは明白で御座るな」
獣族の子供達が笑顔で遊んでおり、多少痩せているものの元気な姿が見てとれる。
「和州国に流殿は連れて行けぬな、一夜にして国を滅ぼしそうで御座る」
特にミルン御嬢様を罵倒された日には……考えるのは止めるで御座る。
それにしても、ファンガーデン以外でこんなに人種と獣族が仲良くしているとは、余程代表である傘音技殿が治世に優れておるので御座るな。都から離れた村ならば、迫害や差別等が横行しそうなモノなので御座るが……ジアストール国とは大違いで御座る。
我が主君も頑張ってはおるのだが、特権に胡座をかいて獣族を見下す馬鹿貴族が、未だに残っておるので御座る。早く始末させて欲しいモノで御座るなぁ。
「あれまぁ旅人さんかえ、珍しいねぇ」
おっと、話しかけられたで御座る。
「今し方この村へ着いたばかりに御座る。すまぬがご婦人、この村に宿は有るで御座るか?」
「その喋り方、お武家様かいあんた。余計珍しいねぇ、宿ならあそこの家さ」
和土国には拙者と同じ喋り方の人物が居るので御座るか……少し会ってみたいで御座る。
「かたじけないで御座る。少しこの村に滞在するので、宜しくお頼み申す」
「あらあら御丁寧に、こちらこそ宜しくね」
ふむ、潜入は順調で御座るな。
これなら次の報告の際に、再教育は無さそうで安心で御座るよ。
「他の影達は、大丈夫で御座ろうか……」
はい始まりました第4章!
どうもー『かみのみさき』でございます。
初っ端からコイツが出るのかよ!? と思った皆様すみません出るんです。
はてさて今回はどの様に流が右往左往するのか!
若しくはミルンが玉潰しするのか!
若しくはミユンがもちゅもちゅするのか!
若しくは黒姫がのぢゃのぢゃするのか!
是非とものんびり見守って下さい。
短いですが今日はこれにて……またの後書きで!