間話 だってもふもふ好きだもの.2
「何か良い方法無いかなぁ村長」
「流君……頼むから貴族としての自覚を持ってはくれまいか……」
取り敢えずの処置として、魔龍の川より少し歩いた場所にある山に魔物達を移動させてから、城塞都市ファンガーデン代表である村長に相談しに来てます。
「今私が代表だと思わなかったかね流君……立場的には流君の方が遥かに上なのだか、寧ろ私の立場上流君の事を閣下と呼ばなければならぬのだが……どうであろうか」
「絶対止めてくれ、なんだよ閣下って。じゃあ村長は騎士ヘラクレス──ぶふっ駄目だ考えただけで笑えてくるっ」
筋肉ムキムキの色黒騎士様って何かのネタにしかならないよな。
「はぁ……これが辺境伯とは、陛下も何を考えておられるのか」
「コレとは失礼な筋肉だな。辺境伯ってイマイチ分からんけど、俺は特権を持った自由人だから縛る事は出来ないぞふははは」
俺を縛りたければ自由を保障する事だな。そうすれば国に居着くし、出かけても戻ってくるから安心だ。
「話がそれておるぞ流君。魔物達をどうするのかね、流石に都市に入れる訳にはいかぬぞ」
「だよなぁ、よしんば入れたとしても、知らない間に冒険者達やミルン達に捕まって、お昼のおかずになりましたーって……怖!?」
ファンガーデンの外周を引率している間も、ミルンは鋭い目で『お肉が一匹、お肉が二匹』って言いながら魔物達を見ていたし、ミユンは『良い肥料、内臓なの』って言いながらハーピィの一匹をガン見してたからなぁ。五十匹程度なら今の二人なら殲滅出来るだろうし、マジで注意が必要だ。
「……流君は何故そんなに魔物に対して優しいのかね、オークやコカトリスは肉と認識しているだろう」
分かっている、分かっているんだ。
この異世界では魔物は貴重なタンパク源であり、食うか食われるかの生存競争上はただのお肉である……と理解はしている。だけど、少なからず知能が有り、人と似ている部分があるなら俺は食う事が出来ないんだよ。
「だって、ハーピィなんて羽もふもふなんだぞ! 下半身蛇のお姉さんも鱗触ったら冷んやりしてて気持ち良かったし! ウッドドールなんか木目有るだけで見た目人じゃん美人じゃん! 喋れるじゃん! 食える訳無いだろ!」
「やはり見た目か……私には分からぬ感性だな」
そりゃ俺は異世界人ですからね、この世界の人達とは考えがズレたりもするさ。
「ならばあの場所へ連れて行ったらどうかね。あの場所ならば天敵は居らぬし、行ける者も限られるのであろう。連れて行く方法までは考えつかぬがな」
あの場所、天敵が居ない場所って──あぁ! あの場所だな! 確か試していないスキルがあったから、やってみるか!
「んじゃ実験第一号よろ」
「何をかねっ!?」
村長に向かって『緑化魔法』を発動して、世界樹の根っこさんカモーン! したら直ぐに床を突き抜けて『待つのだなが──』村長の足を引っ張って地面に引き摺り込み、その穴を覗いてみたら村長が消えていた。
「これは、成功したかな……」
役場の一室だった為人を呼び、床の修繕を頼んで俺は湖へと急ぎ、そのまま飛び込んで「世界樹さんお願いします」と祈るだけでセーフアースに到着っと。
「村長は居るかな──おぉいた!」
「私を殺す気かね流君!」
筋肉をモリモリしながら近づいて来るけど、待って村長気持ち悪いからな。
「大丈夫だっただろ村長、周り見てみろよ気持ち良い場所だろ」
「むぅ……花畑かね。この地は魔物の気配が全く無いのだな」
そりゃあな、理由知ったら驚くだろうけど。
この方法なら魔物達をこの場所まで連れて来れるし、他の魔物と言っても海側の人魚達ぐらいなものだから、争う事は無いだろう。
「そういや、影さん達の報告聞いてないな」
この地に残って調査している影さん達から、報告聞かなきゃな。
「帰って来る手段が無いのだから、報告のしようが無いのでは……」
「そこは大丈夫らしいぞ、ドゥシャさんが呼べば戻れるらしいからな」
凄いよなぁ転移っぽくて。
緑化魔法だと、何か見た目がヤバ過ぎて転移に見えないからなぁ。
周りを見ても影さん居ないし、報告はまた後日聞くとしようか。
「じゃあ次は、帰還の実験だ!」
「待つのだなが──」
颯爽と緑化魔法を村長へ向けて発動したら、さっきと同じ様に地面へ吸い込まれて行ったな……ちょっと面白い。
「じゃあ次は、自分に魔法を使って──」
おぉ! 根っこが足に絡まって! 地面に引き摺り込まれて行くこの感じぃいいい──っ、中々結構怖いなっ「がばごばばば!?」
何で急に水なんだよ!?
周りを見て、光の方へ泳ぐと──成程帰りは絶対にこの場所なんだな。
「ぷはっ、湖が帰る場所になるのか」
「流君……」
村長がぷかぷか浮いて空を見てる。
「せめてあの地で……気分転換したかったぞ」
「……すまん村長、お詫びにまた連れて行くからな」
実験第一号になってくれたお詫びだから、時間が空いたら連れて行こう。村長の時間が空いたらだけどね。
◇ ◇ ◇
さて、それじゃあミルンやミユンが他のケモ耳達と遊んでいる間に、ささっと魔物達を移動してしまいますか。
そう思って山へと入り、蛇お姉さんやウッドドール達を先に送った後、ハーピィ達の番が近づいてきたら何かごね始めた。
「ピィイイイッ! 『私は残るぅううう!』」
「ピピッピピュア! 『この子だけでも残せ!』」
ツノ付きハーピィが一人だけでもここに置いておけって言ってるけど、流石に一人は危なさ倍増だろ。
「駄目だ、ファンガーデンよりセーフアースの方が安全だし、偶に遊びに行くから我慢しろ。このままだとお前ら、冒険者達やミルンやミユンに解体されるんだぞ」
「ピピピピピッ『あいつ等怖いっ』」
あいつ等って言われちゃってるよ二人共……確かに怖いけどさ、俺の可愛い娘なんだぜ。
「だろ、だから我慢しろな。住処にするなら世界樹の根が結構な高さまで伸びてるし、海辺に人魚達も居るから仲良くしろよ」
「ピピュアピピッ『人の言葉覚えたら来るから』」
魔物が人の言葉って……あながち出来なくも無いか、ウッドドール喋れてるしな。
「分かった、その時は移住を検『お肉獲るのー』っ腹ペコミルン来やがった!? それじゃあ送るぞ!」
「ピピッ『早く!』」
「はっ!? お父さんがお肉逃してるの!」
「内臓取らせて!」
ギリギリだったぞ危ねぇ……ミユンも後ろから来てたし、後少しでスプラッターだったな。
「お父さん! お肉何処に隠したの!」
「まだ解体してないの! 肥料を返すの!」
「二人共落ち着きなさいな……あの魔物達はな、争いが嫌で嫌で嫌過ぎて、静かに暮らしたいんだ。だから食べないでやってくれ、お父さんからのお願いだからさ……」
ミルンとミユンなら、頭を下げてお願いすれば分かってくれる筈だ。
「……あの羽根をいつか毟るの! お父さんが誘惑されてるの! お父さんはミルンの尻尾で我慢しなさい!」
「糞尿を採取するの……それなら肥料になるし、ウッドドールの爪でも良いの」
ミルン、ミユン、お肉としては襲わないけど、素材として部位を差し出せと……まぁ、セーフアースに行ったら絶対会うし、そこが妥協点かな。
「ミルン、ハーピィ達の羽根は全部毟ったら駄目だからな。数がそこそこ居たから、一匹ずつから少しだけ貰えば良い」
「たまったら枕にするの!」
「ウッドドールの爪は大丈夫?」
ウッドドールの爪なぁ、深爪しないようにすれば良いか。
「伸びた部分を切って貰えば大丈夫だろ」
「そうします! 月一で刈り取るの!」
「素材の山なの!」
肉として襲われないだけ……マシか。
後でセーフアースに行って、魔物達に伝えておこうかな。