間話 だってもふもふ好きだもの.1
んで、これはどう言う状況だろうか。
ネリアニスさんに引き摺られて商業門に来たのは良いんだけど、俺の目の前には、今まさにミルンとミユンが涎垂らしながら魔物達を捕食せんと臨戦態勢です。
ミルンは前傾姿勢で尻尾を振り振りしてるし、ミユンは手を地面に付けて変な植物をウネウネと準備万端。んで、黒姫は魔物を庇う様に両手を広げて通せんぼしてる……涙目で。
「止めるのぢゃミルン!ミユン! 敵対しとらぬ奴等に牙を向けてはいかんのぢゃ!」
「お肉なの! 鶏肉なの! 食べるの! 焼鳥ぼんじり美味しいの!」
「内臓は良い肥料になるの!」
と言うか……あの魔物ってハーピィか。
あっ、こっち気付きやがった。
「──ピィイイイ! 『助けて!』」
「ピィイイイ! 『娘の責任取れ!』」
「ピピッピピピッ! 『食べないで!』」
翻訳機能は健在ですってか。
娘の責任って何だよ、知らんわ!
「流さん! この状況どうにかして下さい!」
無茶言うなよネリアニスさん、あの状態のミルンを止めようと思ったら……肉あげたら止まるな普通に。
「ミルン!ミユン! その魔物さんを我慢したら、今日のお昼はコカトリスの丸焼きだぞ!」
「丸焼き!? 我慢します!」
「内臓下さいな! 肥料にします!」
「流なのぢゃ! 助かったのぢゃぁ」
一瞬で落ち着いたな……食欲旺盛な娘達だよまったく。
「ちょっと外行ってくるから、ネリアニスさんは集まった見物人や冒険者達を散らしておいてくれ。ミルン、ミユン、黒姫は一緒に来てくれよ、説明して欲しいし」
「分かったのぢゃ」
「丸焼き早く食べたいの!」
「捌くのはミユンがするの! 新鮮な内臓なの!」
やっぱりミユン、別の精霊に変えてから少しだけ性格変わったな。
新鮮な内臓て……怖いぞ。
取り敢えず外に出て状況確認しないと、ミルンとミユンが辛抱堪らんとか言ってハーピィ達に襲い掛かったら、寝覚が悪いからな。
「うへぇ……何この大量の魔物……」
外に出てみたら──居るわ居るわ魔物達。
ハーピィ達だけで無く、下半身蛇の姉ちゃんや肌が木目の姉ちゃん達が凡そ五十体。
「お肉と良質な薪なの!」
「あの薪以外は肥料にできるの!」
おぉっ、たった二人の言動で五十体の魔物達が全員後ずさったな。気持ちはわかるぞ、だって怖いからね。
「ピピッピピピッ『代表はあのウッドドール』」
「ウッドドールって言うのか、どこ産の魔物なんだ?」
東よりの場所には、ハーピィかゴブリンしか居なかったよな。
「そやつは北固有の魔物ぢゃな。木目の肌をしておるが柔らかく、家具などの素材として乱獲されて絶滅したと思っておったのぢゃが、まさか生き残りがおったとは……そやつらは貴重なのぢゃ!」
貴重って、何かあるのか?
「オハツニオメニカカリマス、コノチノカミヨ」
「うぉっ!? 魔物なのに喋れるのか!」
「ハイ、ワタシハコノコタチノツウヤクデス。ナニトゾワレラヲオスクイクダサイ、マノカミヨ」
俺が魔神って事まで分かるのね、凄いハイスペックな魔物だな。しかも全員ナイスバディな御山をお持ち『お父さん……』──は関係無いとして、何でここに来たんだ。
「助けるって何からだよ。ぶっちゃけ話出来るから言うけどさ、魔物なんだから普通にここ来たら危ないだろ」
冒険者達に襲われたり他の魔物に襲われたりと、結構デンジャラスな場所に来てるんだぞお前ら。
「ワタシモソウイッタノデスガ、コノハーピィガココガイイトイイマシテキマシタ。ワレワレハヒトヤホカノマモノカラノガレ、シズカニクラセルバショガホシイノデス」
「お前が連れて来たのかよ!? おいハーピィ! 何でここに連れて来た!」
せっかくご飯あげてさよならしたのに、どうやって後をつけて来た!?
「ピピッピピピューピッピピッピピューピッ『この都市の噂流れてきてたから来た! 貴方が居るとは思わなかったからラッキー!』」
翻訳バグってんじゃん!? なんだよこの都市の噂って魔物達にも大人気かよ!
「魔物にも好かれるとは、流石魔神なのぢゃ」
「黒姫どう言う事? お父さん浮気した?」
「パパのモテ期なの! 魔物限定?」
ミユンも言葉分かるのかよ……面倒だなぁ。
下半身蛇のお姉さんも何か獲物を見る様な目で見てくるし、いや、別に爬虫類系も悪く無いんだけどさ。
「じゃあ何か、お前らは争いが嫌でここに逃げて来たと言うことか」
「サヨウデゴザイマス。ココノチカラナラバ、オークヤヒトナドニマケルコトハアリマセンガ、カズノチカラニハカナイマセンノデ」
成程ねぇ……そこで多種族が入り乱れるこのファンガーデンに来たと……無理だなぁ。
「種族の壁は無視できるけど、流石に魔物はなぁ……」
どうしたものだろうか……。