むかーしむかしある所に.2
緑豊かな草原で、俺とミルンとミユンで鬼ごっこをしている。
鬼は勿論ミルンとミユン。
二人の手には懐かしき豚野郎の斧が煌めき、『お父さんの股間潰すの』とミルンが口から涎を垂らし、『魔王の股間もちゅもちゅするの』とミユンが溶かす気満々の酸を口から垂らし、二人は嬉々として俺を追いかけて来る。
俺は何故か走る速度が出せず、徐々に──、徐々に──、二人が迫って来ており、足を止めたら即男の娘に成る事間違い無しであろう。
ふと、前方から何かが迫って来る。
二人に追いつかれまいと走りながら目を凝らし、前方から迫って来る存在を確認すると、俺の口から『ひょぇっ』と良く分からない音が出てしまう程に動揺してしまった。
だって──豚野郎の大群だぜ、虎馬さんが走馬灯宜しく頭の中を駆け巡るよ。前方の豚野郎に後方のバーサーカー(股間潰しの達人)って、間違い無く俺の玉獲りに来てるよね。
でもこの距離なら大丈夫だ、『豪炎』の一発でも放てば豚野郎なんてただの焼豚だ。
いくぞ『──豪炎!』っ焼豚になれや!
セーフアースのタコとイカをただの食材に変えたお馴染みの魔法が────ポッと小さな火しか出ないんですけど……なんで?
あっ、ああああああああ来るな豚野郎ぉおおおおおおおおおおおおお『プギャアアア!』、『玉潰す股潰すの!』、『もちゅもちゅ!』おおおおおお!?
俺は全力で右へ方向転換して走った。
顔から涙や鼻水や涎を撒き散らしながらみっともなく走った。
己の尊厳を守る為に、ただ広がる草原を。
どれくらい走ったのか、草原を抜けて砂利道となり、更に抜けて砂の大地に辿り着いた。
いつの間にかミルンやミユン、豚野郎の追っ手が居なくなっており、俺はただ一人、砂の大地を進んで行く。
暑い……照り付ける太陽の光で、今にも乾燥肌になりそうだ……水が飲みたい。確か空間収納内にまだ水樽があった筈────ステ画面が出てこないぞ、マジで意味分からん。
おっ、遠くで誰か立っている。
丁度良い、水を持ってたら少し貰おうか。
ステ画面が出てこないと何も取り出せ無いし、さっきの魔法といい一体どうなってるんだ。
おーいそこの人ー、水を持ってたら分けて欲しいんだけどー、聞こえてるかー。
少しずつ近付いて行ってるけど、一向に反応が無いのは無視されてるって事か? なんだよこっち見て来たじゃん。何か凄い見たことある様な若いにーちゃんだなぁ。
よいっしょっと、ようやく着いた。
日本人っぽい顔してるけど、なんで俺を凝視してるんだよ初めまして!
「なんでここに居る……」
えっ、なんでここに居るかって知らんがな。いつの間にかミルンとミユン二人に追いかけられてたんだから。と言うか此処どこ、アンタ俺の事知ってるのか?
「流……そうか、コレは世界樹の記憶共有か」
やっぱり俺の事知ってるじゃん。
でも俺はアンタの事を知らないんだけど、いや、何処かで見た事ある様な感じなんだけどもさ、何処で会ったっけ?
「少し老けたな……見た目だけなら俺より歳上になったか……」
誰が老け顔だこのガキ! いや、その言い方だとその見た目で俺より歳上なのか!?
「流がいつの時代にこの世界に来たのかは知らんが、どうやら世界樹が渡りを担ってくれたらしいな。保険が効いた様だ……」
なんで保険なんて言葉、アンタ異世界人か!
「流、俺は死ね無い身体になっているから、お前の時代にも何処かに居るだろう。いつか会いに来い」
人の話聞けよガキ!? 死ねない身体ってなんだ龍にでも成ってるって言う気か!
「今から俺の記憶をお前に埋め込む。大量の情報がお前の頭の中を掻き乱すだろうが、妖精を助けたければコレに耐えろ」
はっ? 何言ってるんだこのガキ……俺にアンタの記憶を埋め込むってどゆこと?
「いつか、また会おうな……最愛の息子よ……」
あれ、そうだよこの顔……父さんの若い時の写真にそっく────「父さんっ」────ぐぅうううううううううう頭がっ、割れるっ、何だよコレっ、マジかっ掻き乱すってレベルじゃねぇええええええええ!?
この記憶量っ、激やばじゃねぇえええのぉおおおおお!!
俺より冒険してんじゃねぇえええ────!?