語りべの精霊.1
お父さんがドゥシャに連れ去られて一ヶ月と少し、私はミユンと黒姫と一緒に、御留守番をしてます。いつもならついて行くんだけど、今回はドゥシャとシャルネが凄い殺気を放っていたので諦めたの。
「きっとまた変な事して楽しんでる気がするの」
「魔王だから仕方無いの」
「大体何を想像しとるのか分かるのぢゃが、全く信用されとらぬのぢゃ魔王の奴……」
今日はミルンと黒姫と一緒に世界樹の湖で水遊びです。あまり深い所に行くと、またあの場所へ引き摺り込まれるから浅瀬で泳いでいるの。
「ここも賑やかになったのぢゃ。冒険者が我等を見て不思議そうにしておるわ」
黒姫の言う通り、獣族だけで無く人種の移住希望者も増えていて、時折り近くを歩いている冒険者から嫌な視線を感じる。
こういった冒険者は、アルカディアス交易路から商人の護衛で入って来た者が多く、犯罪者ではない為見逃されているけど、もし獣族に意味も無く暴行したら直ぐ様捕まり玉潰しの刑なの。
「刑の執行はミルンのお仕事!」
「ミルンお姉ちゃんは魔王に似てるの!」
「いや我思うに二人共魔王ににてるのぢゃ」
浅瀬でぷかぷか浮きながらそんな話ばかりしています。
そう言えば最近、黒姫が全く世界樹とお話をしなくなったの。以前は『のぢゃぁ……』みたいな感じでお話をしていたのに。
「黒姫は何で世界樹とお話ししないの?」
「なんぢゃミルン、我は別に世界樹と話なぞしとらぬのぢゃ。世界樹に住みついておった妖精がいたのぢゃが……最近姿を見ぬのぢゃ。少し残念なのぢゃぁ」
黒姫が寂しそうなの……お友達だったのかなぁ。
「黒姫お姉ちゃん酷いの! 私はここに居るの!」
ミユンが怒ったの……何で?
「ミユンは精霊さんってリティナが言ってたから、妖精さんじゃ無いの」
あと私の大事な妹なの! お父さんも認めているから間違いの!
「本当なの! さっき思い出したの! ミユンは元々妖精で、世界樹にお願いして精霊になった……筈なの!」
「──それは本当なのかやミユン?」
黒姫のお顔が急にキリッとなったの。物凄く似合わないからやめて欲しいです。
「本当な『記憶よとぶのぢゃぁあああ──!』のっぷ──ぷぷぷ……」
「黒姫なにしてるの!? ミユンが沈んだの!」
黒姫がミユンの脳天に拳を振り下ろしてミユンが沈んだ!? あっ──浮いてきたの。
「ミユン大丈夫!?」
ゆするけど白目をむいて浮いたままなの!?
「ミルン! 今ミユンを起こすでないのぢゃ! 一度世界樹から離れるのぢゃ!!」
黒姫がぷんぷんしてるの!?
「どう言う事なのか説明を求めます!」
「家で話すのぢゃ。まったく……魔王が居ったら危ない所ぢゃったわ……」
お父さんが居たら不味い? なんで?
◇ ◇ ◇
ミユンをおぶって家に帰り、ベッドに寝かせてから──黒姫の拷……尋問のお時間なの!
「待つのぢゃミルン!? その手に持っておるナイフとフォークを離すのぢゃ!! 流石の我でもそれは刺さるから嫌なのぢゃ!!」
お父さんから貰ったナイフとフォークです。
あの遺跡に有った物の様で、何故か物理特化の効果が付いていて、一度ふざけてフォークを黒姫のお尻に刺そうとしたら──『ブスッ』と本当に刺さって黒姫がのたうちまわり、お父さんに怒られたの。
「なら何でミユンを叩いたのか吐くの! 吐かないとお尻から血が出るの!」
「お主魔王に感化されすぎぢゃ! いや──魔王より凶悪になってるのぢゃ!! ちゃんと話すから武器をしまうのぢゃぁあああ──!!」
逃げようとしても刺すの。
大人の姿になろうとしても刺すの。
火を吐こうとしても刺すの。
「魔王より魔王の雰囲気なのぢゃ!?」
「ちゃっちゃと話すの!」
ミユンが寝ている部屋から出て、厨房のお座りミルン像に座って……ミルンの上にミルンが座ると変な感じなの……。
「ミルンや、今から話す内容は絶対にミユンに知られてはいけないのぢゃ。何がきっかけで記憶が戻るか分からぬからのぅ」
「……分かったの」
ミユンに内緒のお話なんて嫌だけど、黒姫の目が本気なの。余程知られちゃ不味い事なのかなぁ。
「もしミユンの言った通り、我が話していた妖精が世界樹の力で精霊と成ったのなら、それはミルンにとって最悪の精霊なのぢゃ」
ミユンは最悪なんかじゃ無いの! 黒姫は頭がどうかしてるの!
「ミユンは恐らく、『語りべの精霊』となっておる」
「語りべの精霊? 聞いた事無いの」
お話好きな精霊なの?
ミユンは私とお話しするのが好きな妹なの。
「ミルンや、語りべの精霊が語る事を終えた時、その存在が消えるのぢゃ」
「えっ──黒姫何言ってるの?」
お話ししたらミユンが消える?
捕まえてからずっとお話ししてるけど、ミユンは元気にしているの。
「今迄のミユンの言動から察するに、魔王に何かを伝えようとしておるのぢゃ。ぢゃからミルンがミユンとずっと居たいのなら──ミユンに記憶を戻させてはならぬのぢゃ」