神域での一幕
真っ白い空間でその鍛えあげられた胸板を晒しつつ、白いゲーミングチェアに深く腰掛けモニターを眺めている存在──『転生神』は、そのモニターに映っているモノを観て、眉間を指で揉んでいた。
少し前に神域へと放たれた『神殺し』の影響で、他の神々が武器を取り、危うく古き戦が再開されるところだったからだ。
「まだ神殺しが残っておったとはな」
迷宮をわざと暴走させて地上へ魔物を誘導した後殲滅し、その核を燃料にして撃ち出される、神を殺す為に創られた神器。
「奴め……余計なモノを残しおって」
モニターにはリシュエルが担当した小々波流なる男が、魔石の粉に埋め尽くされた大地で魔法を行使し、『神殺し』を発動している映像が流れているが、本来ならばあの様な手順で発動する筈が無い。
「守護者となりおったか」
古の時代、我らと地に住まう者達が争った際に人種によって作られた存在、魔王。その魔王の因子が地に根付き、我等が創った領域まで侵食して称号として現れ、その者を人種の枠から外させる我等ですら解明できぬ現象。
「誰かが意図的に誘導しておるのか……」
さて……誰であろうな。
むっ、面倒臭い奴が来おったわ。
「君は相変わらず、気持ち悪い姿をしているね」
「この様な場所まで来るとは、余程お主は暇なのじゃろうな」
黒いモヤに包まれた顔に、筋肉のきの字も無い細過ぎる手足を軽やかに動かして近づいて来る存在──「死の神が何の様じゃ」
此奴はいつも顔を隠しとるから表情が読めぬし、黒い衣装から生えるように伸びている手足が気持ち悪い。
「いやぁ、チキュウって言う星のニホンってとこから、コッチに転移させられた人間が居るって話を聞いたからさ──ちょっと聞きたい事があってね」
「それはリシュエルがやらかしたと報告した筈じゃがの、何を聞きたいのじゃ」
リシュエルの頭を握り潰さない様にギリギリで手加減をして痛めつけ、解放して直ぐに地球を管理する神と此奴に報告したのじゃが、今更何を聞きたいと言うのじゃ。
「ぶっちゃけ転移した人間はどうでも良いんだけど、その転移した人間の両親がね。一人はちゃんと死んでくれたから良いんだけど──もう一人、男の方は何故まだ生きてるんだい? 確かリシュエルの報告では、両親は死んでいると書いていた気がするのだが。しかもわざわざ転移では無く肉体を再構成させて、しかも時空の波に放り込んでさ」
話が長いっ、まて──肉体を再構成させて時空の波に放り込んだじゃと!?
「なんじゃそれは!? 時空の波に放り込まれれば永遠に時を彷徨うか、別の時間軸に飛ばされて我々が観測出来ないでは無いか!!」
「おやおや、どうやら転生神は知らなかった様だね。件のリシュエルという者はどこに行ったんだい。確かこの地で、古き龍と戦っていたってアルテラに聞いたんだけど」
古き龍と彼奴が戦っていたじゃと──その様な報告は一切来てないし、余波も無かったぞ。
リシュエルは儂が創った存在であるが故神には敵わぬが、それでも古き龍と戦えばその地が崩壊する程の惨事となる筈じゃ。
「アルテラが力を貸したみたいだね。アルテラのお陰で地上は崩壊せずに済んだけど、ぶっちゃけアルテラが地上に居る所為で観測しにくいから、ある意味で僕等の邪魔になってるよね」
「死の神よ、今はそんな話をしておる場合じゃ無かろうて。リシュエルが儂の目を欺き、報告に無い事をしておると言う事で間違い無いのじゃな」
どうやって儂の目を欺いた。儂が創った存在であるから、隠し事や嘘なぞは吐けない様になっておるのに。
「間違い無いよ。報告に有った彼は見逃すけど、もう片方は見つけ次第ちゃんと死んで貰わないと困るからね。転生神はリシュエルを探しておいてくれ、何やら変な事をしている様だから逃しちゃ駄目だよ」
そう言って死の神は自らの領域へと帰った。
「リシュエルっ、一体何をしておるのじゃ」
右手を上に掲げて指を鳴らす。すると、真っ白い空間に現れたリシュエルと同質の者達、総勢十万。
「リシュエルを探せ! 見つけ次第拘束せよ!」