間話 小々波流の一人旅.6
ズズッ──「このお茶美味だなぁ……」
「それは良かった、我が領地で栽培しておるのだよ。帰りにでも少し渡そう」
それは良いな、ドゥシャさんやシャルネへの土産物に最適だ。
「それでは改めて、私は『アズヴォルド・ラダン・ジルディス』と言う。陛下よりこの地を任されておる辺境伯だな。まぁ一度貴殿とはあの開通式で会ってるのだが」
「へ──覚えて無いすまん。俺は『小々波・流』だ。ついこの間特権付きの辺境伯になったから御同輩だな。宜しくアズヴォルド卿」
確か同じ爵位なら卿で合ってるよな?
ぶっちゃけ呼び方なんぞ知らないし、呼び捨てにするのは駄目だもんな。
「そうか──西の国境は、今やアルカディアスとの物流拠点であるからな。あの地は元々王直轄地であるのだが、貴っ失礼、小々波卿を辺境伯として据える事で他国への牽制をしているのか……」
「いや、何か俺をジアストールに縛りつけようとしてたから上手い感じに特権勝ち取って、俺この国のどこでもフリーパスになった。なんなら東と南の国にも自由に遊びに行けるぞ」
何だその惚けた顔は、嘘吐いて無いからな。
「俺は自由裁量権を持ってるからね。だから今回、俺の権利を侵害されたから──どんな罰が良いか考えなきゃな」
「破格の権利だな……それで、小々波卿は一体何を求めるのかね」
金銀財宝は頂くとして、領地の割譲か作物を根こそぎ貰うか……どれにしよう。
「領民……飢えるの駄目」
せっかく無視してたのに、話に入って来やがったなこのお嬢ちゃん。と言うか──何でこのお嬢ちゃんは俺の膝の上で茶をしばいてるの?
「おいアズヴォルド卿、アンタの娘が俺の膝から離れないんだけど──どうにかしろよ」
俺別に気に入られる事してないぞ。あとこのお嬢ちゃんが俺の膝の上に居るから、妖精共が俺の肩や頭の上に乗って来てちょっとだけうざいんだよ。
「ノイズ……小々波卿から離れなさい。あと、挨拶をちゃんとしないと駄目だろう」
「『アズヴォルド・ラダン・ノイズ』……です」
えっそれだけ、カーテシーしないんだ。
「すまぬ小々波卿、娘はあまり人と話が出来んのだ。許してやって欲しい」
「別に大丈夫だぞ。ウチの娘達は元気っ子ばかりだから、ちょっと新鮮な気分になるだけだ」
ミルンやミユン、黒姫と真逆だもんな。
にしても、この娘の体を妖精が撫でているんだけど、チラチラとその妖精がこっちを見て来る……俺にどうしろと? 撫でている箇所? 背中とお尻、太ももに何かあるのか。
「アズヴォルド卿……ノイズ嬢の体、どこか悪い所でも有るのか?」
「……どうしてそう思ったのかね」
おぉ怖えぇ……「何と無く……だ」
だってこんなに小さい幼女がだ、笑顔も無く絶望した眼をしてたら────大体想像出来るだろ。
「何と無くか……初対面にも関わらず、娘が小々波卿を気に入っている理由と、関係があるのだろうか」
「父……小々波卿も見える人。しかも世界樹の守護者って言ってる」
ノイズ嬢さんや、人の情報をペラペラ喋るんじゃありませんよ。いや、この場合俺の情報伝えてるのは妖精達か……後で折檻だな。
俺の目を見て妖精達が逃げやがった……。
「ノイズと似た力を持っているか……」
「父違う。私は聴こえるだけで見えない。けど、小々波卿は見えてる」
マジであいつ等何喋ったんだ。
「──まじで変な事漏らすなよ、俺の情報漏れてたらこの砦消炭にするからな」
前に消炭にした大聖堂みたいにな!
しかもどれくらいの威力出るか分からんから、後始末も大変だぞ。
「娘の事もあるのだから漏らさぬ。小々波卿の先程の質問だがな──ノイズ、小々波卿に見せる事は可能か?」
「……大丈夫」────とスルっと服を脱ぎ始めたんだけど、娘に脱げって鬼畜な父親──っ、なるほどなぁ。
「結構古い傷痕だな……」
戦争映画で観た傷よりも、今目の前に在る傷痕の方が結構ヤバい。
背中一面に火傷や切傷の痕が残り、太ももに打撲痕だろうか──黒く変色した皮膚が痛々しい。しかも顔や手には痕が無いので、外から見えない様にされている。
「もう良い……すまなかった」
「構わない……」
駄目だ──傷痕見たら苛々してきたぞ。
「娘の為に怒ってくれるとはな……。安心した前、娘にこの様な仕打ちをした愚か者共は処刑済だ」
「──ふぅ、さいですか。にしても、何で傷痕治療しないんだ? 聖女なら一発だろ」
世界樹の落ち葉も有るし、リティナならノリノリで治療しそうなものだけどな。
「開通式の際に頼もうとしたのだがね、『予約が十年先迄埋まっとんねんボケェ!!』と機嫌を悪くしてしまい無理だったのだ」
あいつ何やってんの……。治療院って予約制導入してないから、絶対個人で動いてる分だよなそれ。ファンガーデン内で個人に許可は出してないんだけど、帰ったら拳骨確定だな。
ノイズ嬢の影から妖精がこっちを見て口を動かしている。ぶっちゃけ妖精が何を言ってるのか聞こえないが、言ってる内容は理解できる。
「『この子を助けて』──か。ノイズ嬢は妖精達に好かれてるな。良し、リティナには俺から伝えるから、一緒にファンガーデン行って治療するか」
膝の上に座り直したノイズ嬢が振り返り、アズヴォルド卿は目を見開いて口をパクパクしてるんだけど、やっぱり親子だなこの二人。表情が同じで笑えるわ。
「私は他領の人間なのだぞ……しかも知らなかったとはいえ、小々波卿を牢に入れた者達の長でもある……。小々波卿はそれで良いのか?」
こいつ何言ってるんだ?
「ノイズ嬢の傷痕治したいんじゃないのかよ。他領だろうが何処だろうが俺には関係無いし、何だったら俺の裁量権行使するぞ。他の貴族が文句言って来るのなら俺に言え。そしたらその貴族の家に行って、ちゃんと生殺しにするから」
貴族の面子って奴か。
面子守って娘の傷治るんだったら良いんだけど、そうじゃ無いなら面子なんて捨てろ。邪魔になるだけだからな。
「小々波卿……良いの?」
ノイズ嬢まで──子供は子供らしく我儘言ってりゃ良いのに、なんだこの家族わ!!
「二人共これ以上ぐだぐだ言うのなら──この砦を消炭にするけど、どうする?」
「──ふふっ、ふははははっ! 砦を壊されては堪らぬな。小々波卿の御厚意、有難く頂戴しようではないか!」
そうそう、人の善意は受け取れよマジで。
「感謝……ありがと……」
ノイズ嬢が少し笑顔になったな。
一緒にファンガーデンに行ってミルンやミユン達に会えば、きっと笑顔になるに違いない。
「それは治ってからだな」
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レベルが1上がりました(変態幼女キラーだぁ!!)
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