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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
三章 異世界とは妖精さんが居る世界
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間話 小々波流の一人旅.5



 なんか砦内が騒がしいな。

 さっきからガチャガチャとフルプレートの鎧が煩く走り回り、誰かを探している様だ。


「ここのムグムグ飯うめぇムグムグ」


 食堂を見つけたのでしれっと列に入りトレイを持って進んでいたら、厨房のおばちゃんが勝手に料理を盛り付けた皿を置いてくれるので、なんかそのままご飯を食べてます。

 耳を澄ますと、『侵入者』だの『砦の危機』だのと聞こえるが物騒な話だ。


「一体誰を追ってるのやらムグムグ」


「──待機している者全員に通達! 閣下より、この砦に侵入した者を見つけ出しお連れしろとの命令だ! 捜索に加わるように!」


 急に食堂に偉そうな兵が来たと思ったら、どうやら閣下から俺を捕まえろと指示が出た様だな。


「まぁ捕まらないけどねムグ『おいお前も行くぞ!』ムグ……はっ! 了解したしました!」


 兵士が『あんな奴いたかなぁ』って言ってるけど、俺の敬礼を見て何も言わなくなった。

 お前等の敬礼は完コピしてますからね。


「お前は裏門周辺を捜索しろ! 怪しい奴が居たらこの笛を鳴らせ! 良いな!」


「畏まりました! 裏門周辺を捜索致します!」


 と返答したのは良いんだけど、俺が俺を探すって何のゲームだよ物理的に不可能だわ。

 さてさて砦内には何が有るかなぁ。

 出来れば宝物庫とか資材置き場とかがあると有難いんだけど、こそこそと扉を開けて確認しても目ぼしい物は何も無い。


「マジでただの砦だな、必要な物しか置いてないじゃん」


 少し前のアルテラ教豚野郎なんて、世界樹の枝とか金の裸婦像とか持ってたのに、ここの砦はそういったお宝が一切無い。


「これが正常だけどさ……、なんか今までの奴等とのギャップが凄すぎて気持ち悪い」


 きっとここの砦を治める奴は真人間だな。あとはケモ耳に偏見が無ければ最高なんだけど、どうだろうかね。

 歩いていたらT字路にさしかかり、右は上階段で左は下階段となっているが、どっちに行くべきだろうか。


「上には良い思い出無いから下りるか」


 螺旋階段を下り下りと──何が有るかなほい来た通路っと……さっきの牢屋じゃん。

 成程なー。ぐるっと回って戻って来たという事で現場には兵士さん達がみっちり居ますよね全く『いたぞアイツだ!!』困ったモノですよね。


「──結局上に逃げるのかよ!」


 全力で階段を駆け上がり駆け上がり駆け上がりって長い階段だなおい!

 やべっ、扉一つしかないじゃんか──っと蹴破って中へ突撃じゃ──っ!!


   ────バギィッ────


「──何事ぐへぇっ!?」


 あっ、なんかおっさんの腹に扉の破片打ち当たってゲロっぱしちゃった……まぁ良いか。


「逃げ道は──無いな。行き止まりかぁ……」


 これは、魔法ぶっ放して逃げ道確保するしか無いよな。


「砦壊さないで……」


 えっ、なんでこんな場所に幼女が居るの?

 と言うか気持ち悪いな。

 左目には見えないけど、右目にはバッチリ見える幼女の周りにうじゃうじゃと居る奴等。セーフアースに居た奴よりも目付きが悪い妖精達が、幼女にべったりへばり付いているぞ……。


「えーと、砦壊さないと俺逃げれないからね」


「砦壊さないで……」


 シャルネとはまた違った無表情だな。

 その、何もかもを諦めた様な眼差し……子供がして良い顔じゃ無いぞ。


「悪いのは門兵……砦壊さないで……」


 まるで俺のされた事を見たかの様な言い草だな。小人が幼女に耳打ちしてるし……この幼女、妖精の声が聞こえるのか。

 

「無事ですか閣下!」

「御嬢様お逃げ下さい! えぇい!御嬢様から離れろ犯罪者!」

「逃げられぬぞ! これ以上罪を重ねるな!!」


 あ──兵士達来ちゃったよ。しかも血走った目で剣抜いてるし、ジアストールだと貴族に剣を向けた奴は──どうなるんだ?


「お前等、俺がどういう立場の人間か分かった上で剣向けてるのか?」


「貴様はただの犯罪者だ!」

「閣下からも捕縛せよと命が下っておる!」

「貴様の立場なぞ知るか!」


 今回俺が牢屋にぶち込まれた理由って、貴族門通ろうとしただけだよなぁ。抵抗せずに捕まったけど、俺の権限のもと牢屋を出たら追いかけられて、剣を向けられたと。


「砦……壊さないで。兵達下がりなさい」


「何を言いますか御嬢様!」

「閣下が倒れているぞ! そいつがやったに違いない!」

「閣下を助けろ! 増援を呼べ!」


 なら──俺今回悪く無いじゃん。

 ちゃんと名乗ったのにこの仕打ち、さてさてどうしてくれようか。


「取り敢えずお前等、一度黙れ」


 ちょい切れ気味威圧です。

 だって何もしてないのに捕まえられて牢屋行きだもの、怒るでしょ。


「ばっ、化物!?」

「この威圧っ、こいつ魔王だぞ!」

「東の魔王とは別種か!」


 この兵士達、威圧に堪えてるよすげぇ。流石にシャルネ程じゃ無いけど、下手な兵士より強いって事だよな。


「しゃーない、魔法で消炭だな」


 剣で刺されたら俺死んじゃうし、殺しにかかって来るなら──殺るしかないよね。


「砦……壊さないで。あと兵士も殺さないで」


「じゃあお嬢ちゃんが何とかしてくれるのか? 兵士達は俺を殺る気満々だけど」


「それはっ、げふっ、私が止めよう──下がれ馬鹿者が!!」


 何!? びっくりするなマジで! 急に背後から声をあげるなよ心臓に悪いわ!! 

 ゲロッぱしてたおっさんが復活した様だな。


「閣下ご無事で御座いましたか! 直ぐにお助け致しますので暫しお待ちを!」

「増援も間も無く来ます故!」

「その愚か者を退治いたしましょう!」


「お前等良いかげ『私の命令を聞けぬと申すか貴様等!!』声デカいなおっさん……」


 俺よりもおっさんがキレてるじゃん。

 確かルシィから相談役に就任した際に貰った印があった様な──空間収納内には入れてないからポケットの中だったか。

 ゴソゴソとポケットの中を確認してっと、あったあった。ジアストール国の刻印が彫られた印鑑。


「なぁ兵士さん達、これ何か分かるか?」


 その印鑑を一人の兵士に近付いて手にポンっと押して見ます。


「何をするこの痴れ……えっ」


 自分に押された印を見て固まったな。

 確か王族が認めた者に下賜される印鑑で、身分を証明する物ってコレしか無いんだよなぁ。


「どうしたアズ……えっ」

「「……えっ」」


 他の兵達もその印見て固まったぞ……。


「小々波相談役殿……その印をどこで?」


 あれっ、俺おっさんに自己紹介して無いよな、何で名前知ってるんだ?


「ルシィ、いや女王か。女王が俺にこれ使えって渡して来たから、ファンガーデンで使っている印鑑だな。これで俺の身分を証明できないもんかねおっさん」


「それ……この国に三個しかない。もと王太子の印だって言ってる……」


 妖精に囲まれてる不思議っ子がまた変な事を言ってるな。元王太子ってミルンの実父で、既に亡くなってるんだったか。


「「「申し訳ございません閣下──!!」」」


 何だ急に!?

 兵士達が俺に向かって跪いたぞ怖えぇ!?


「小々波相談役殿。その印はこの国の印であり、それを持つ者はこの国で女王陛下お一人なのだ。それを下賜されている時点で小々波相談役殿は陛下の側近であり、その側近に対して此奴等は剣を向けおった。良くて絞首刑、悪ければ此奴等の一族共々打首だ」


「はぁ──すげぇのなこの印鑑。なくしたら不味いから空間収納に入れとくか。あとおっさん、俺、特権付きの辺境伯になってるから、この場合の責任はどうなるんだ?」


 おっさんの顔色が青から紫になったぞ!?


「印を持つ者に剣を向けて先程の罰となるのだ。それに加え、貴族──しかも高位貴族に剣を向けたとなると、それは一兵士の責任では無く、その上役──この場合だと私の責任となる。陛下にこの事を知られれば、降爵のみならず何某らの罰が下されるであろう」


 へぇ……じゃぁ俺がルシィに伝えたらこのおっさん終わるのか……。


「俺……何もして無いのに牢屋に放り込まれたんだけどぉ、どうしよっかなぁ……ルシィに報告するか、砦を的にして魔法の練習をするかぁ、貴重な貴金属や宝飾品を貰って済ますかぁ……どれが良い?」


「ならこれあげる……私の宝物」


 幼女が何か渡して来たけど──宝石の付いたブローチだな。


「ノイズ! それはお前の大切な物だろう! 小々波相談役殿! 我が屋敷の宝物庫に有る物全てを差し出しても良い! だがそのブローチだけは娘に返してはくれまいか!」


 コレってそんなに値打ち物なのか? 見た感じ普通のブローチに見えるんだけど。


「それ……母の形見」


「──っ、要らんわそんな重たい物!?」


 直ぐに幼女の手に返して頭を撫で撫でって俺は何をしてるんだ……。ミルンやミユンをいつも撫でてるから、反射的に撫でてしまった。


「取り敢えずおっさんよ、お茶くれ」


「……分かった、直ぐ用意させよう」


 ブローチが娘に返されてホッとしている様だけど、さっきの言葉俺は忘れて無いからね。しっかりと、慰謝料と迷惑料をぶんどりましょう貴族からってな。



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