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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
三章 異世界とは妖精さんが居る世界
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間話 小々波流の一人旅.4



 ハーピィにさよならしてから二日間、俺はひたすらに歩いているんだけど、一向に人里が見えないと言うか魔物すら居ない。


「ダンジョンとか在ったら寄り道するのに、本当に何も無い道だよ……」


 まさか道を間違えたとか?

 一本道だし、間違え様が無いから大丈夫……だよね。延々と一本道だからね……暇だ。

 会談が行われていた場所が国境の境目だとしたら、今居るこの場所はどこぞの辺境伯の領地であり、砦か町がある筈なんだけどな。


「いつもマッスルホースかステに頼った全力疾走してたから、実際に歩くと時間かかるもんなんだなぁ」


 何か歌いながら歩こうかな──でも俺音痴だし、一瞬『魔王』って曲が頭をよぎったからやめとこう。魔王が魔王歌うってなかなかに洒落が効いてるけど、確かあの曲ってバットエンドまっしぐらだったよな。不吉過ぎる……。


「おっ──あれは砦か?」


 結構遠くに石壁が見える。

 流石に王都やファンガーデンと違いそこまで大きくなさそうだけど、この地の特産品とか気になるし、この地の貴族に挨拶ぐらいはしておくかな。


「そんじゃ、砦まで走るか!」


 今の俺の全力疾走なら、新幹線よりも速く走れる筈だからね。なぜ筈かと言うと、横に並んで勝負した事が無いから。

 この異世界の乗り物と言ったら、スポーツカーよりも速いキングマッスルホースや、普通自動車並みのマッスルホース、軽自動車並みのレッサーマッスルホースであり、ぶっちゃけ車を作っても意味が無い。


「エンジンは──船なら需要はあるかな」


 船だけは漕ぐか帆を張るといった昔ながらのやり方で動いており、エンジンを搭載する事が出来れば、セーフアース以外の場所も見つけ易くなるかも知れない。


「魔物達が居るから難しいか……」

 

 人魚達は俺の言う事しか聞かないし、人間からしたら地味に強い魔物らしいからなぁ。そういえば人魚の雄を見たことが無い。今度遊びに行った時にでも聞いてみるか。


「そこの男止まれ! ここは貴族様の門であるぞ! あそこの通常門に並んで入れ!」


 ぼーっと走ってたら着いたんだけど、貴族門で楽しようとしたら怒られた……俺辺境伯よ? 後でここの貴族に文句言ってやる。


「へーい分かりましたよ。一応ここの領主が居るなら伝えて欲しいんだけど、ファンガーデンの辺境伯、流が遊びに来たってさ」


「お供も居らず馬車にも乗らぬ貴族様等居るものか! ここは通さぬぞ大馬鹿者が!」


 槍向けて来やがったし……なんかぞろぞろと門兵集まって来たぞ。これってアレだ。

 三、二、一、────『牢屋』ですよね分かりますはい。


「さっきまで草原だったのが、小汚い石造りと鉄格子に囲まれた牢屋って──慣れたなぁ俺」


 前と違うのは、俺に手枷をして牢屋に入れようとも、空間収納内に手枷を収納してから、鉄格子も収納といった応用が効く事だな。

 驚いた門兵達を威圧で黙らせてっと──、お偉いさんは何処にいるかなぁ。

 今日は俺一人だけだし、気兼ね無くやらせて貰おうかと思うのだけど……迷った……。


「なんで牢屋がある場所はいつも迷路なんだ!」


           ◇ ◇ ◇


 ジアストール王都から東に位置し、三国からの侵攻を押し留める役目を担うトライアド砦の執務室にて、アズヴォルド辺境伯と、その娘であるノイズ嬢は優雅なひと時を楽しんでいた。


「ノイズ、お前ももう直ぐ王都の学院に入学の時期か。勉学の方は順調かね」


 アズヴォルドは紅茶を少し飲み、娘とコミュニケーションを取ろうとする。


「……少しだけ。あの家庭教師嫌い……」


 アズヴォルドは溜息を吐く。

 ノイズは赤子の時に母を亡くし、その為乳母に育てさせていたのだが、それが間違いであったと今も後悔している。

 産まれてから六年間毎日毎日乳母にオモチャの様に弄ばれ、私が気付いた時には既に──娘の体には消えぬ傷痕が残ってしまった。

 乳母とその家族全員を処刑した後、娘を他人に預ける事が不安になり、こうして砦で一緒に暮らしているが、七歳になれば王都の学院へ送り出さねばならない。


「あの様な魔窟に……お前を送りたく無いのだがな」


 母に似ているのだろう。

 黒目黒髪に端正な顔立ちをしており、笑顔を作れればさぞモテるに違いない。

 絶対に嫁にはやらぬがな……。


「砦……外騒がしい」


「んっ? 私には何も聞こえぬが……」


 この部屋は砦の最上部に位置しており、外の音なぞ──それこそ大筒の音でも無い限り聞こえる事は無い。だが、娘は時折まるで外を見て来たかの様に話す事が有り、他国の間者がこの砦に侵入した時などは、その間者が隠れた場所を言い当てたり、他国の情勢を言って来たりとその言葉は無視出来ない。


 コンコンッ────「失礼致します閣下!」


 部下の一人が断りも無く入室して来た。

 これは一大事か……。


「どうした、何か騒がしい様だが」


「はっ! 先程門兵から連絡がありまして、辺境伯を騙り砦に侵入しようとした者を捕らえ、牢屋に入れたのですが──牢屋から逃げ出したとの事! その者は自らを流と名乗っていたとの事です!」


 何をふざけた事を。

 捕らえたにも関わらず逃げ出しただと。

 まて、今こやつ流と言ったか……。

 確か数日前、陛下と他の国々とで会談が行われていたと記憶している。その会談の中心人物が────城塞都市ファンガーデン代表の相談役、流と言う者だった筈。

 あのアルカディアスとファンガーデンの交易路開通式にて、私自らが挨拶したと言うのに不遜な態度をとり、あの陛下ですらも軽々しく話をしていた者。

 そして──あの場で何故か規格外の魔法を放った頭の可笑しい危険人物。

 

「父……下手したらこの砦壊滅する」


 急に娘が不吉な事を言い出した。

 この砦が壊滅する?

 なぜ?


「門兵の態度ダメ……魔王の機嫌悪い」


「ノイズよ……今何と申した?」


 門兵の態度? 魔王の機嫌が悪い?

 魔王とは東の地の魔王か?


「陛下が言ってた……魔王流って……」


「──っそやつを牢に入れた者達を捕らえよ! 大至急逃げ出した者を探し出し丁重にもてなすのだ!! 急げぇえええ────!!」


 各国の国境に位置する砦に居るからこそ分かる。魔王とは理不尽なまでに自己中心的であり、気に入らなければ物理で解決するという蛮族であるということを!!

 まさかこのジアストールに魔王が誕生していたとは。このままでは娘の言う通り、この砦が壊滅してしまうでは無いか!


「陛下から……書簡が来ていた。見てない父が悪い」


 娘よ……そういう大事な事は、是非この駄目な父に教えておいて欲しいぞ……。



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