間話 小々波流の一人旅.2
じっくりコトコト豚野郎の角煮を煮込み始めて時間が分かりません。なので時折りフォークでつついて、火の通りを確認しないといけないこの不便さだけは慣れないなぁ。
「体感的には地球と変わんないんだけど、時計ってどう作るんだか分からん」
試しに振り子時計でも作ろうかな。そしたら、いつかどこかの誰かが腕時計にまで進化させてくれそうだけど、その時には流石に俺は墓の下だろうな。
「歯車とゼンマイ、切れにくい糸に色々と準備しないと出来ないぞ……」
確か歯車も何か変わった形のやつで、動物のツメ見たいにギザギザしてた筈。後で木板にでも描いてみるか。
「さてさて、豚野郎の煮込みの付け合わせは何にしようかねぇ……。魚食いたくなって来た」
いかん。豚野郎を煮込んでるのに、付け合わせが焼魚になりそうだ……まぁ良いか。秋刀魚っぽい魚を出して、内臓を取り出し水で洗って串に刺したら、直火で焼くと。
「異世界一人キャンプさいこーう!」
幸い森の中には魔物の気配も無く、なんだったらここで一泊するのも有りかも知れない。だってセーフハウスセット一式有るし、見知らぬ土地でのキャンプは楽しいから!
「唯一足りない物は……酒だよなぁ。帰りの町や村で売ってたら買うか」
んで、ゆっくりとその近くでキャンプをしながら帰ると──最高じゃん。
「さてそろそろ──良い感じに焼けてる焼けてる熱っ、煮込みはもう少しだな。じゃあ先に魚を頂きま……」
さて問題です。
焼魚を食べようとしたのですが、何かちょと先の木の上から、涎を垂らしてコチラを見てくる魔物が居ます。次の中からお選び下さい。
一、露出狂。
二、猛禽類。
三、美人な女性。
四、腹ペコハーピィ。
五、俺の幻覚。
さあどれが正解でしょうか! 答えはCMの後で! ちゃらちゃちゃちゃー!
「はい正解は五以外全てでした──っ、俺の幻覚じゃ無いっぽい」
俺の手の中にある焼魚に目線が行ってる。
焼魚を右に振ると──ハーピィの目がそれを追いかけ、左に振ると──また追いかけ、俺が焼魚を食べると──項垂れたな。
「ムグムグ……もう一尾魚を出して、焼き焼きしましょうこんがりと」
ハーピィは、俺が魚を何処から出したのか分からず首を傾げている。そして直ぐに俺が焼き焼きしている魚に目が釘付けと言うか、涎がミルン並みに出てるぞあのハーピィ。
「ちゃんと焼かないと、寄生虫が怖いからムグムグ……魚うめぇ……」
焼き焼きしながらムグムグ食べて、豚野郎の煮込みを見つつハーピィをうかがう。俺地味に忙しく無いか? マルチタスク全開じゃん。
「焼けたな……ムグムグんぐ……」
俺は新しい焼魚を手に持ち、食べようと──したらハーピィが泣きそうになってるな。ちょっと面白い。
「言葉は通じるのか……おーい来い来い」
試しに呼んでみたけど──来ないな。
ハーピィは首を傾げて警戒しているし、どうしたもんか。手招きしたら来るかなぁ──来い来いっと手をヒラヒラさせてみる。
ゆっくり地面に降りて歩いてくるぞってそこで止まるのかよ……。
およそ五メートル先。
中途半端に離れてるから、焼魚をあげたくてもあげれ無い距離じゃん。
「ピュイッ、ピュア!」
何か言ってる……けど分からん! 俺に魔物の言葉が分かるとでも思って────何か右目に映ってる……文字か?
えっと、『お腹減ったから頂戴』って映ってるけど……何なのこの右目。妖精見えたり翻訳機能付いてたり、大砲の説明書じゃないのかよ。
いや……、ただの間違いって事も有るし確認しておくか。
「この焼魚食いたいか?」
「ピュアッ!『頂戴!』」
間違い無い様だ。
俺、間違いなく一歩ずつ人から離れて行ってるよね! 本格的な魔王ルートは嫌だ!!
「ピュアッ!ピュアッ!『頂戴!頂戴!』」
「分かった分かった! ほれ──」
軽く投げて渡したら、見事に空中キャッチからのモソモソと食べ始めた。
見た目は大人なのに映る文字は子供というか幼く感じる。中身は子供? 魔物は成長が早いとかかな。
「ピュピュピュピュピュ『うままままま』」
翻訳がバグったぞおい。
確かミユンも前にこんな感じになってたな。と言うことはこのハーピィ、間違い無く中身は幼児と同じと言うことになるのだが、それで良いのかお前は。
「豚野郎の煮込みも出来たな……」
焼魚を食いながらコッチを見るな!
「ピュアッ!『頂戴!』」
なんかこのハーピィなら、翻訳無しでも何言ってるか分かる気がしてきた。
◇ ◇ ◇
エトワルの帰りが遅い。
煙が見えた場所へと向かってから陽が傾き始めているが、まさか人種に殺られたのか!?
「お母様、エトワルの様子を見に行かないんですか? 何なら私が行きますけど」
アナワルが心配そうにソワソワしている。
だが、エトワルが帰ってこない以上アナワルだけに向かわせる訳にはいかない。
「全員で向かいます。何が有るか分かりませんし、強者が居れば私が囮になりましょう」
エトワルだけで行かせなければ良かった。せめて他の娘達と向かわせていれば、何か状況が分かったモノを……失策だ。
「ジノワル! 万が一私に何かあれば、次の長はお前がしなさい! 良いですね!」
ジノワルは私の一番最初の娘だ。
他の娘達に比べて一回り身体が大きい為に小回りはきかないが、力だけなら今の私を遥かに凌ぎ、他の娘達からの信頼も厚い。
「良いのかいお母様……アタシが長なんかになったら、この群が崩壊しないかい」
欠点を挙げるとしたら、デカい図体の割に自信が無くて優しすぎるところだろう。ジノワルが、交尾した後に雄を喰わず、こっそり逃している事を私は知っている。勿論私が逃がす訳も無く、その時は他の娘達がその男を襲い、再度交尾の後でしっかりと喰っている。
「大丈夫だ、ジノワルならば群を率いても問題ないだろう。あくまでも私に何かあればだからな。行くぞ娘達よ!」