帰ってお茶を濁しましょう.3
どうも、流です。
遺跡に逃げ込んで出入口に蓋をしたものの、ドゥシャさんと影さん達と黒姫だもの……。一瞬で突破され、おっさんの貞操の危機です。
「ほほぅ……懐かしいのぢゃ、神と殴り合っていた時の壁画なのぢゃ」
のんびり幼女になってないで俺を助けろよ黒姫……。お前が魔法で土壁掘り返したから、こんなに早く捕まってるんだぞ……。
「むむむ──っ、むもむむむ」
「お父さん、何言ってるか分かんないの……」
「魔王が特殊プレイなの……」
それはねミルン、こんな立派な猿轡をされたらね、まともに喋る事が出来ないからさ。ドゥシャさんが珍しく鼻息を荒くしながら、寝床の準備をしてるんだけど、『旦那様との初夜で御座いますので、しっかりと準備致します』と意味不明な事を言ってるんです。
「流にーちゃんも年貢の納め時やな。ウチ等は外に出とるさかい、まあ頑張りや」
「リティナ様。海岸に居る人魚達に、何かお魚を分けて貰いましょう」
リティナとニアノールさんも助けてくれないし、何なの……俺何か悪い事したかなぁ。
逃げようと踠くけど、どうやら俺を縛っている紐は──以前、シャルネを捕獲した時に使っていた物と同じらしく、俺の力じゃあ引き千切るどころか抜け出す事も出来ません。
如何にかして逃げるか……。
俺はまだ結婚なんてしたく無いし、自由気ままなケモっ子モフモフライフを満喫したい。このまま、ドゥシャさんと夜を過ごしてしまったら、俺の今後の人生が確定してしまう。それだけは絶対に阻止しなければ!!
見張りは二人の影さんのみで、他の影さん達はこの地の調査をしに行っている。抜け出すとしたら今がチャンスなんだけど、誰かこの紐解いてくれないかなぁ──「むもっ?」
小人がコッチに来て、何か『ぴー!』って俺の紐を解こうとしてくれている!? マジか小人さん……、さっきはミユンに引き渡して御免なさい! だから頑張ってくれっ!!
影さん達にも小人と言うか妖精は見えない様で、油断している今なら抜け出せる。きっと、院長の影さんだったらバレるだろうけどね。
「お父さんが何か変なの……」
「魔王の後に何か居るの……」
ミルンとミユンが近付いて来るんだけど、頼むから余計な事を言うなよマジで──『ふむ……妖精を従わせて居るとは、流石魔王なのぢゃ』っ、黒姫の奴余計な事言いやがって『ぴー!』ナイスタイミングで紐が解けた!!
「──っ、有難う妖精さん!!」
二人の影さんが俺の行動に気付き、再度拘束しようとするが────「遅いっ!!」
全力全開の威圧を放ち、一瞬行動出来なくなった影さん達をすり抜けて外へと走る。その際──ミルンが俺の腕にしがみつき、ミユンが俺の腰に飛び付き、黒姫が俺の太ももに取付くと言ったアクシデントはあったが、黒姫が幼女バージョンと言う事もあり、何とか遺跡からの脱出に成功。そのまま世界樹方面へと走り、デカい根っこの影に身を隠して一息吐く……。
「なんとか抜け出せたけど……どうするかなぁ」
「お父さん諦めるの! ドゥシャと結婚なの!」
「魔王に子供が出来るの! 御赤飯なの!」
「置いてけぼりは嫌なのぢゃ! 我もついて行くのぢゃ!」
「ぴぴーぴっ!」
ミルンは何故に俺とドゥシャさんを結婚させたがるのか。それに、なんでミユンは御赤飯を知ってるんだ……。この異世界にも有るのか御赤飯。あと、妖精さんもついて来ちゃってるし、黒姫は我儘だし。
「帰ろうにも──ドゥシャさんや影さん達を、置き去りには出来ないしなぁ……詰んでね?」
「お父さんは詰んでるの。早くミルンにお母さんを下さいな! 次は弟がいいの!」
「ミルンお姉ちゃんに賛成なの! ミユンにも弟が欲しいの!」
ヤバいな……ミルンとミユンが二人がかりで俺を結婚させようとしてくる……。と言うか、いつの間にかミユンのポジションがミルンの妹になってるし、俺独身ですからね!!
「魔王よ。ドゥシャに謝って、ファンガーデンに帰れば良いのぢゃ。そうすれば猶予期間が作れるであろうし、あの地の者を放り出す訳では無いという証明になろうて」
別に放り出そうとしてる訳じゃ無いんだけど……、俺は普通の暮らしをしたいんだ。
「働かずにのんびり暮らしたい……」
「では私とこの地で暮らしますか旦那様」
あっ……ドゥシャさん気配無く近づくの止めて貰えますでしょうかぁああああ────
「ここで脱がすのはらめぇええええっ!?」
────おっさんの叫びが、未だ太陽が空高く照らす大地に、こだました──。
「ミルンは目を閉じておきます」
「ミユンも目を閉じておきます」
「我はガン見するのぢゃぁ」
半裸にされたので再度土下座で謝り倒し、取り敢えずは帰るからと泣きながら懇願し、何とか貞操は守ったけども……、その際に『早く正式な貴族位を頂ける様、陛下にお伝え致します』とドゥシャさんから不穏な言葉が飛び出して、逃げ道を塞がれそうですね……。
「帰ろう……」
こうして俺の旅行は終了した。
この地に影さん達が残る様なので、食料品や簡易小屋セットはそのままにして、人魚達に挨拶をした後に黒姫の背に乗り、一度アルカディアス首都近くの村に寄ってシャルネを回収し、そのままファンガーデンへと帰ったが、その空の旅を含め、俺が居なかった期間は──およそ一カ月と少し。
村長に『殴って良いかね!!』と拳骨された後に言われ、引き摺られながら執務室へと連行されて、溜まりに溜まった書類の山を見せつけられ、俺は────執務室を抜け出して爆速で世界樹のある湖へと向かい、そのまま華麗に飛び込んで────「お願いします!!」と目を閉じて世界樹に頼み、目を開けるとそこは──花畑広がるセーフアースが広がっていた。
「あと一ヶ月はこの場所に居よう……」
「流さん。帰られたのでは……なぜここに」
「逃げて来たのでしょう影」
「直ぐに追っ手が来る筈ですね影」
そういえば、影さん達残ってるんだったな。
俺……逃げれないじゃん。