表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
三章 異世界とは妖精さんが居る世界
199/315

ヘラクレス・ヴァントの災難



 流君がアルカディアスへと旅立ってから一月程……未だ音沙汰が無く、正直帰って来るのかと疑問に思う程遅い。


 役場に籠ってひたすら書類作業に追われる日々とは、村であった頃が懐かしく感じるのであるな……。


「一体何をしておるのだ流君は……ふぅ」


 溜息が出てしまう程に疲れており、筋肉運動をする時間も削られてしまい何気にストレスが溜まっている。


「ヘラクレス様、こちらの書類に確認印を」


 そう言って書類の山を目の前に置いたのは、王都孤児院の院長であった影だ。噂では、ジアストール国の元暗部のリーダーであり、あのドゥシャ殿が敬意を払う程の存在であるとの事。


「うむ……何故影殿が私の補佐を買って出たのだ。孤児院に居た子供達は良いのか?」


 本当に勘弁して欲しいモノである。

 元暗部だけあって……細かい書類に目を通し、重要な案件や早期に解決すべき問題の洗い出しをする術を心得ておるのだが、いかんせん仕事のスピードが早過ぎて此方の手がまわらぬのだ。


「御安心下さいヘラクレス様。年長組がしっかりと面倒を見ておりますので問題御座いません。なによりこの都市は、王都のスラムより遥かに安全で御座いますので」


 確かに……。流君が考えた城塞都市ファンガーデンの法の一つに、理由なく獣族を虐げ、暴力を振るった者は厳罰に処すと云うものがあるが、本来ならこの様な法案は通らぬ。

 自治は任されておるが、それはあくまで王国の法に従ってなされるモノであり、一個人の、しかも相談役と云う立場の者が決めて良いモノでは無い筈なのだがな。


「ミルン嬢の存在が大きのか……」


 今は亡き元王太子殿下の御息女。

 それが分かった時点で、本来ならば私の首は飛ぶ筈なのだが、何故か無事であり、貴族位まで与えられてここに居る。

 そのミルン嬢を陛下はいたく気にしておられる様で、交易路の開通式の際も、チラチラとミルン嬢の尻尾を目で追っていた。


「ヘラクレス様、手が止まっております」


 影殿はドゥシャ殿より厳しいのでは無いか。

 私だって偶には森へと入り、心の赴くままに魔物と戦って、思う存分身体を動かしたいのである。


「分かっておる影殿……ふむ」


 農作物の栽培は順調であるか。

 アルカディアスの交易品の中に貝が有り、それを流君が歓喜しながら奪い去って粉々に砕き、畑に撒くよう指示をしていた。

 撒く量は畑の状態を見ながらする様にとの事であったが……、問題はない様だ。


「養鶏場も順調に稼働しておるな……」


 これも流君の思いつきである。

 野良コカトリスを捕まえて一定数まで繁殖させ、個々に区分けした小さい檻の中へと入れてから一日待つと、コカトリスが産んだ卵がコロコロと転がり端っこで止まる仕組みとなっている。その卵を軽く茹で、柔らかい布で優しく拭いてから売りに出すが、流君曰く『消毒液なんぞ作れるかボケェ!!』と意味も無く騒いで皆を困らせていた。


「消毒液とは一体何なのだ……分からぬ」


 卵は腹を壊す者が多い為、今迄あまり流通していなかったが、しっかりと熱すれば大丈夫と流君が言ったのならば大丈夫なのであろう。良く分からない知識を持っており、時折気付かされる事もあるからな。


「次の書類は──またコレか……」


 要望書と言う名の脅迫文。

 流君が桃色お化けと呼んでいるアルテラ神から、毎日の様に来る書類。

 その中身が『私の像を造り直せ』などと良く分からない内容が書いてあるのだが、間違い無く流君案件であろう。

 彼は現在居ないと返事をしても、毎日毎日毎日毎日毎日毎日嫌がらせの如く書類が届き、役場の者も呆れ顔である。

 この書類は流君が帰ってからであるな。

 執務机の引き出しに入れておく。


「出入りの者達は、む……東の国か……」


 最近は南の連邦国と東の国々が怪しい動きをしている。北の帝国は、継承権をめぐって未だ混乱の最中であるからして、こちらとしては有難い事なのだがな。

 東の国からの親書……本来ならばこう言ったモノは、王城へ届けられるべきであるのだが、この親書はジアストール国宛では無く、魔王としての異名を持つ流君宛に送られて来たモノ。


「送り主は……和土国。聞いた事が無い国だな」


「和土国とは、精霊信仰の強い小国ですね。少し前に間者が紛れ込んで居ましたので、ドゥシャが捕まえた後に影達が拷……尋問しているのを確認しております」


 今拷問と言おうとしたのかね……。まあ他国の間者であれば表に出る事は無いが、あの影殿達の尋問か……「それは災難であるな……」


「何がで御座いますかヘラクレス様」


「いやっ、何でも無いのである」


 下手に薮を突けば蛇どころか────伝説の大蛇が出て来てしまうやもしれぬ。

 影殿達は何人か知っておるが、この孤児院の影殿と数人以外は頭が少しどうかしておるからな……、本音で言えば恐ろしい。


「後の書類は────『ヘラクレス様!!』っ、なんだ騒々しいぞ」


 部屋に駆け込んできたのは役場の──テアル君か。いつもは冷静な彼が、この様に息を切らすとは……嫌な予感がするではないか。


「ヘラクレス様ご報告致します! 先程アルカディアスに居るドゥシャ様より急ぎの手紙が届きっ、中を確認しましたところ────流代表が行方不明との記載有り!! 至急ヘラクレス代表へ伝えよとの事で御座います!!」


 はぁ……流君が行方不明……?

 流君が行方不明になるなど、さして珍しい事でもあるまいに……その手紙か。


「ふむ……海で遭難……遭難!?」


 どうりでドゥシャ殿が側に居ながら帰りが遅いと思ったら遭難だと!? ちょっと待つのだ、と言うことはいつ帰って来るのかが分からぬと言う事では無いか!!


「私の休みはいつなのだっ!?」


「仕方ありませんヘラクレス様。あの流さんが易々と死ぬとは思えませんし、帰って来られる迄は頑張るしか無いかと」


 影殿の言う通りであるが……親書の有るし、早く見つけて連れ帰ってくれ……ドゥシャ殿。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ