異世界サバイバルではありません.4
人魚さん曰く────ここ最近になって、海の魔物達が騒ぎ出し、種族間での縄張り争いが勃発。多数の同族が襲われて、少なく無い被害がでているとの事。
「俺が助ける義理は──、無いよな?」
そう言った争いは地球でも山程有るし、下手に関わると碌でも無い事になる。
「それが……、その争いの発端が、魔王様のお放ちになった……あの魔法なのです」
うぇっ? なんでミルン砲が種族間での争いに関係するんだよ。全く関係が無いし、こじつけにも程があるぞ?
「いやいや、そんな馬鹿な事が有るかよ。なんで俺の魔法で争いが起きるんだ?」
「それは────」
人魚さんの話を聞くと、馬鹿らしくなる。
俺の放ったミルン砲を遠くの海から見て恐怖を覚え、傘下に加わりたい者と、逆に力を見せつけたい者が争いを始め、力を見せつけたい者が勝てば、エイドノア大陸へ攻め込むと言う何とも馬鹿な話だ。
「黒姫が居るから絶対勝てないよ?」
「わたちもいゆのよ!」
ミルンの言う通り。
下手にエイドノア大陸に攻め入れば、あのリシュエルと、タイマンで互角だった黒姫に消炭にされるだろうし、桃色お化けも未だにファンガーデンで暮らしているから……無理じゃね。
ミユンは何を言ってるのか分からん。
「え──っと、人魚さんや。魔龍って知ってるか?」
確か黒姫は──五百年程眠ってたって言ってたから、人魚さんが知ってるかどうかなんだが、『はい、魔龍様の事は存じております』問題無い様だな。
「その魔龍……復活してて、エイドノア大陸でのんびりしてるから、攻め込んだら全員消炭になるけど──、大丈夫か?」
「えっ…………」
人魚さんが固まった……。
ミルンが、人魚さんの魚部分を涎を垂らしながらペロペロしてるけど、一切動かない。
コレは──桃色お化けの事は黙っておいた方が良いな。
「お腹空いたの! お魚食べたい!」
「わたちゅみょ!」
人魚さんの目の前で……ミルンさん、ミユンさん、パネェっす。
そういやミルンがデカい魚抱えてたな……それなら、丸々一尾の焼き魚にしよう。
部屋の中にある調理場じゃあ無理だから、一旦外へ出て、調理場を設置。と言っても魚の丸焼きだからさして手間も無く、デカい魚の鱗や内臓を取って、太めの木の杭をぐりぐりと差し込み、石で囲いを作った砂場へ刺して、枯れ枝を敷き詰め火をつける。
軽くレモモを振りかけて、じっくりと、だが強火でしっかり炙っていくと──良い匂いが辺りに広がっていくなぁ。
「まっ魔王様!! 魔龍様が御復活なされたと言うお話は真実で御座いますか!?」
人魚さんようやく動いたな。
「本当も何も一緒に暮らしてるからな。のぢゃのぢゃ煩いけど──と、良い感じに焼けたな。ミルン、ミユンお魚焼けたぞ──」
「お魚──!!」
「おちゃかにゃ──!!」
ミルンは耳をピコピコ尻尾を振り振り可愛いし、ミユンは背中の小さな羽がパタパタしているなぁ。
「人魚さんも食うか? あっ……」
しまった……ついその場の勢いで失礼な事を言っちゃったぁ。
「頂きます魔王様……本当に魔龍様と一緒に暮らしているのですか……あら美味しい」
人魚さんがお魚を普通に食べている……。
ミルンとミユンも若干衝撃だった様で、魚を手に取ると人魚から離れて食べ始めたし。
「人魚は怖いお肉……ムグムグ」
「はやえてたべゆよ……もちゅもちゅ」
ミルンはまだ人魚を食おうとしてるな。
襲って来るならまだしも、無抵抗の、しかも上半身は美人な人魚さんを食うのは──、流石の俺でも心が痛む様な気がする。
「まぁそんな訳で、俺がわざわざ人魚達を助けてもしんどいだけ。どうぞお互い好きに争って、エイドノアへ攻め込んでも良いぞ。さっきも言ったが、攻め込んだ奴等は消炭だろうけどね」
もしかしたら黒姫が食べるかも知れないけど、ぶっちゃけどうでも良い。俺が守りたい者達の中に、お前らは居ないからなぁ。
「そんなっ……助けて頂けないのですか!? 出来る事は何でもします! この身体を食したいのであればっ、好きにして下さっても結構です! ですからどうか! どうか我が子達をお助け下さい!!」
人魚さん子持ちだったのかよ。
どうりで大人の色気と言うか、俺の食指が動かなかった訳だよ……。
えっ動いてた? 気の所為です。
むぅ……子持ちかぁ……イクラ……はっ!? いかんいかん人魚さんの子供をイクラと一緒にしたら……でも、イクラは食いたいなぁ。
「報酬は? 動くからには──そうだな、食べ物なら赤い粒々の卵みたいな奴が有れば良いし、貴金属や宝石でも良い」
「さすがお父さん、無料では働かないの!」
「むよう?」
ふははは誰だってそうさミルン。
もし人魚さんに『タダで助けて』と言われたら、一生水槽にいれて、泣かして真珠を取り放題にするだろう。
「ひっ──っ、お支払いします! 赤い卵は私のお腹から出せますし、貴金属も沢山御座います! それでどうかお願い致します!」
人魚さん卵だせるの!?
うん! 凄く気になるけど──『いらんわ!』
普通のお魚からならまだしも、人魚さんの卵は食いたく無い!!
「人魚の卵……じゅるりっ」
「たえれゆの……じゅるっ」
ほら……そんな事言うから、ミルンとミユンの人魚さんを見る目が──お肉を見る様な目になっちゃったよ。
「どうなっても知らんぞ俺は……。それで、争っている奴等はどんな魔物だ?」
海の魔物なんて知らないぞ俺は。
「争っているのは……オクトパスマンティス族と、パラダイスクラーケン族です。巨大な者達なので、暴れられると私達ではどうにもならず、食べられてしまいます」
あ──うん。
タコなの? カマキリなの? どっちなの?
楽園のイカって何?
頭がハッピーなのか?
「良しっ、イカ焼きとタコ焼きにしよう。そいつらをこの浜辺まで呼んでくれ。速攻で豪炎ぶっ放して焼くからさ!」
「それは出来ますが……何卒、他の海に住まう者達の事をお考え頂きます様、お願い申し上げます魔王様……」
大丈夫だ、安心してくれ! 海が干上がる程の威力は出ない筈だからな!
「ミユン。一緒に森へ逃げる準備をするの。お父さんがまたやりそう……」
「まようこやいっ!」