異世界サバイバルではありません.2
さて、先ずは状況を確認しよう。
この場所が何処なのかは分からないが、海を漂ってストレスフルのミルンに襲われずに済んだと言う事は、大変喜ばしい事である。
セーフハウスを拠点にして、ミルンやミユンと軽く砂浜を散歩してみたが、感覚時間で三十分程歩いたら砂浜が途切れ、高い崖が行く手を遮った。
左を向くと森で、右を向くと海が広がり、一旦セーフハウスへと戻り、ベッドの上でミルンの尻尾をブラッシングしながら考える。
ミルンとミユンを連れて、森の中を散策すべきだろうか。それとも、ここで助けが来るのを待つか……『わたちみょっ、なでゆの!!』
ミルンの尻尾を撫で撫でとするミユンの姿に俺の心は癒されるよ──っと、ここに居てもつまらないし、明日から探検するかな。
「ミルン、ミユン。明日は、山の中を少し冒険してみようかと思うんだが、行くか?」
二人に聞いてみたが『いくの!』とミルンは尻尾をパタパタと、ミユンは『あぃ!』と元気良く手を上げて、行く気満々だな。
なら今日は────心配事と言うか、ずっとストーキングしてる奴を捕まえて、まな板の上の鯉ならぬ、まな板の上の魔物にしてくれるわ! ふははは!!
「お父さんが楽しそうなの……なんで?」
「わゆいかよ!」
「さあ二人共──、釣りの時間だ!」
先ずは、あの沖でジッとしている魔物の好物が何なのかを調べる為に、空間収納からミノ肉、コカ肉、豚肉を出して小さく丸め、それを大量に作った後、幾つかに釣り針を仕掛けて外へと出る。
釣竿の糸の先端に、先程の小さく丸めた肉を包んだ紙を付けて、勿論釣り針付きも一緒に包んで、『お魚さん獲るの──っ』とミルンに全力で竿を振ってもらい、なるべくヒレの近くまで肉を落としてもらったら、後は待つだけ。
船を出してその上でと考えたが、やっぱり海の魔物だから無理と諦めて、仕方なく陸地で釣りをするしか無い。
「腹減ってるだろうし、かかってくれよ……」
ずっと後をつけて来てたから飯も食べてないだろうし……、簡単に釣れてくれ────と思ってたらミルンが竿を引っ張りだした!?
「お父さん! 食いついたの!」
早いな!? 「離すなよミルン!」
俺は直ぐにミルンの後ろへ回り、ミルンと一緒に竿を引っ張る。
流石海の魔物だなっ、弱っている筈なのに必死になって逃げようとしてやがる!!
だがな──、俺がそう易々と逃すと思うなよストーカー野郎がっ、『威圧追加だゴラァッ!』っとコレならどうよ!!
「あ──やり過ぎたか?」
俺が威圧を放った瞬間、視界いっぱいに魚達がぷかぷかと海面まで浮かんできて……、失神してるのか全く動かない……。
「おしゃかや!」
「取り放題なの! お父さん凄い!」
おぉう……ワザとじゃ無いんだけど。
とりあえずは、目的の奴を引っ張り上げようかな────何コレ?
抵抗が無くなったから、簡単に引っ張り上げる事が出来たんだけど……魚?
「お父さんこれ……」
分かってるミルン……、分かってるよ。
これどうみてもアレだよな。
「たべゆよ! おしゃかや!」
ミユンが今にももちゅもちゅしそうな勢いで触っているソレは、背中に立派なヒレを付け、下半身が鱗で覆われており、上半身には立派な二つのお山が聳え立つ『人魚』が……、白目を剥きながら……俺達の目の前で泡を吹いていた。
◇ ◇ ◇
遥か上空────大地を一望出来る程の空で、ドゥシャが黒姫に乗りながら広大な海原に目を凝らしていた。
「旦那様の乗る船は──見当たりませんか」
普通、魔法を使い熟すとしたら、覚えてから一年程は練習をしなければならず、ミルン御嬢様があの魔法と、地力の御力を併せて爆走するとは……、予想外でしたね。
「恐らくは──もっと遠くへ行っとるのじゃ。我の目にも見えぬからのぅ。まぁ、あの魔王が物資を色々持っとるし、心配はせなんじゃが」
黒姫様が居てくれて助かりました。
私一人では、船で沖へ出ても遭難するだけでしょうし、この様に空から探せるのは有難い事ですね。
「黒姫様。黒姫様は、この海の向こうに、何があるのかをご存知なのでしょうか」
海洋国家アルカディアスでも、未だこの海の先を見た事は無く、一説には、違う大陸が存在し、そこには──遥か昔に絶滅したであろう希少種の魔物や、幾人もの魔王が存在しているのでは無いかと言われている。
「知っておるのじゃ。我は外の大陸から、魔王を乗せて来たからのぅ。懐かしいのじゃ」
やはり──、我等が住むエイドノアの他にも、大陸は有るのですね。
では、旦那様やミルン御嬢様、ミユン様等は、他の大陸まで渡られた……いや、他の大陸に七日程で行けるモノなのでしょうか。
アルカディアスが装備を整え航海に出ても、直ぐに魔物に襲われて引き返しておりますのに……。
「ドゥシャよ。何を考えておるのか察しはつくが、彼奴は魔王なのじゃ。呼んで字の如く魔の王なのじゃ。海に住まう海竜や、キングクラーケン等は敵では無いし、彼奴等も魔王を恐れ手を出さぬ。他の大陸へ渡る可能性も、十分に考えられるのじゃ」
魔王はそれ程に、恐れられているのですね。
いつも仕事を放り出し、涙を浮かべて逃げ惑い、ミルン御嬢様に叱られている姿からは、とても想像出来ないです。
「旦那様が、そのような存在とは思えませんが……。恐れられると言うより、むしろ逆で、私やシャルネを恐れている、と感じる時が御座いますし」
「まぁ彼奴は魔王らしからぬ魔王なのじゃ。力は弱いし魔法も碌に撃てぬが……、ああ言う奴程何をしでかすか分からぬからのぅ。早よ見つけねば、他の大陸の魔王に見つかってしまうのじゃ。戦争になるのじゃ」
勿論旦那様がしでかして……と言う事でしょう間違い無く。
これは結構、不味い状況なのかもしれませんね。