知らない場所で遊ぶとこうなる.5
「のじゃっぷ──っ、もう食えんのじゃ」
「まだまだイケるの食べれるの!」
「もちゅもちゅ……」
大人バージョンの姿でも中身は同じかよ!
丸くなったお腹をさすりながら、大の字で砂浜に横たわる黒姫に、未だひたすら食べ続けるミルンと、ゆっくり貝を──殻ごと食ってないか……ミユン?
「お──いミユンさんや、殻は食えないぞ──」
「もちゅもちゅ……」
何か集中しながらもちゅもちゅ食ってるよ。
ちょっと怖いけど、嬉しそうに食べてるから邪魔しちゃ悪いかな……怖いけど。
「お待たせ致しました旦那様。海鳥を捕獲致しましたので──絞めて丸焼きに致しましょう」
くぁ──っ! くぁ──っ!
本当に捕まえたのかよ……。
海鳥の奴、助けを求める様に俺の顔を見て鳴いてるけど、ミルンが涎垂らしてこっち見てるから諦めてくれ……。
「しめに鶏肉なの……じゅるり……」
ぐぁ!? ぐぁ────っ!!
ミルンの視線に気付きやがったな海鳥。
暴れ方が尋常じゃないけど、ドゥシャさんに首掴まれてるから逃げれないな。
「とゆしゃん! たえゆ?」
おっ……ミユンが近づいて来て海鳥を珍しそうに見てるな……「ミユンは海鳥食べるか?」
ミルンは食べる気満々だけど、ミユンはどうだろうか……。
「たえやいの、さやりやい!」
ドゥシャさんが持っている海鳥に、手を向けているって事は、触りたいのか? ドゥシャさん触らせてあげてくれ。
ぐぁ……、ぐぁ……「よちよちやよ──」
海鳥を手懐けた!?
いや──唯一助けてくれそうなミユンに海鳥の奴が擦り寄って、何とか助かろうと必死なのか!!
海鳥の奴、目線をチラチラと俺やドゥシャさんに向けて、逃げる隙をうかがってやがる。
「にやさやいにょ──あむっ」──ぐあっ!?
ミユンも分かってたんだな。
うん……海鳥の頭に噛みついて──もちゅもちゅしそうな感じだけど、逃がさないようにしてるだけっぽい。
しかもしっかり羽根を握ってるから、海鳥の奴も何も出来ずにされるがままだな。
「今更だけど……、海鳥って食えるのか?」
「先程、漁師の方にお聞きしましたが、好んで食べたいと思う味では無いそうです」
マジかドゥシャさん。
それは──、食べたく無いなぁ。
ミルンには悪いけど、シメの鶏肉はいつものコカ肉で我慢してもらおうか。とミルンに説明したら『不味いお肉はお肉じゃ無いの!!』と良く分からない名言が飛び出して来たから、了解と言う事なんだろう。
「ミユン、その海鳥さん離してあげなさいな」
「ふちゃふちゃなの! にやさやい!」
何て言った?
ふかふかなの肉野菜?
だから、その海鳥さんは不味いんだって。
「その海鳥食べれな──まぁ、良いか……」
ミユンが海鳥をガッチリホールドしてるけど、別に害がある訳じゃ無いし、後でしっかり体を洗えば菌も落ちるだろ。
野生の鳥は、マジで危ないからなぁ。
人に感染する奴とかを普通に持ってて、特に糞尿が危ないって聞いた事がある。
「たえやえきゅて、よやっやにぇ!」
くるぅるぅ──っ! くるぅるぅ──っ!
意思疎通してるな……、海鳥と。
何か、前に出会ったコカトリスを思い出すなぁ──、一瞬でミルンに食べられたけど。
ペットかぁ……欲しいなぁ。
犬とか猫とか、この世界に居るんだろうか。
ケモ耳っ子達とケモ耳動物が織り成す、モフモフパラダイスデラックス……『良い!!』
「何がですか旦那様。お願いですから何かをなさる前には一度、必ず、絶対に、このドゥシャめに相談して下さい」
ははは──、信用ゼロだよまったくっ!!
◇ ◇ ◇
それからミルンやミユンと砂浜で全力ダッシュしたり、砂の城を建てたり──ドゥシャさんがマジで砂の城を建てたんだって……、ミルンを模った砂人形と一緒に──、などしながら楽しく遊んでいた。
海も綺麗なマリンブルーで、砂浜の砂もさらさらしてて、ミルンやミユンが裸足で走っても超安全。
「地球の海とは大違いだなぁ……」
地元の海なんか、虫の死骸や魚の死骸がぷかぷかと浮いて、ヤバかったからなぁ。
あの国とかこの国とかあそこの国とかがヤバげなモンを海に垂れ流して、『安全です!』ってやってたけど、『どの国も一緒』だ。
「駄目だ駄目だっ、折角の良い気分が台無しになるわ! ちょっと沖に出てみようかな」
海釣りがしたいんだよ!
海ならやっぱり、自分で釣った魚を食べたいじゃないか!
「旦那様……死ぬ気ですか?」
ドゥシャさんが呆れ顔で言って来たな。
何でそんな顔するんだよ?
「別に死ぬ気は無いぞ? 沖に出て釣りを楽しみたいだけなんだけど……どうした?」
「ご存知無いのですね。何故かと申しますと──海の魔物は縄張り意識が強く、慣れた船乗り達でなければ襲われてしまうからで御座います」
へ──、やっぱり海にも魔物は居るんだな。
でも折角だし……海釣りがしたい!
「少しだけ! 少しだけなら良いでしょ! ここから見える位置で釣りするからさ!!」
俺は釣りをするまで帰らないぞ!
ドゥシャさんが溜息を吐いたな……良し、諦めてくれた様だ!
「けして、遠くまで行きませぬ様お願い致します旦那様……」
よっしゃ!! 海釣りだぁ!!
颯爽と船を漁師達から借り受け、船へと乗り込んで──「手漕ぎかよ!?」
そうだった……ここは異世界だ。
エンジンなんて便利なモノ、搭載してる訳無いよね──っ俺は力が弱いんだよ!!
「お父さんどこ行くの! ミルンも一緒に連れて行って!!」
「まよう! わたちゅも!」
くっ──ミルンが居ると、釣り無双されるから心が折れるのに────まてよ……、ミルンのパワーなら、簡単にこの小船を動かせれるのではなかろうか……。
「良し! ミルンとミユンも一緒にだな。お──い、黒姫はどうするんだ──」
手をヒラヒラと、腹がいっぱいで動けないようだなあの乳でかドラゴン……。
大人バージョンになっても変わらない、お前の事を尊敬するよ。
「それじゃあドゥシャさんと黒姫は留守番で、海鳥は──勝手に残り物食ってるな……まあ構わんけどさ」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ。ここから見ておりますので」
はいよっと。
オールはコレだな……デカいな。
「ミルン! コレを持って、こう──っして、船を進めるんだ! ミルンの力が頼りだから、お願いしますミルン船長!!」
「ミルンが船長? 頑張って漕ぐの!!」
「はっちゃじゅんびゅよしゅ!」
ミユンもノリノリじゃん。
さて、あとはのんびり待つだ────
「全力前進マックスで行くの────!!」
────けぇえええええええええええええええええええええええええええ!?
俺は失念していた。
ミルンは腕力だけでは無い。
魔法を使える事を、すっかり忘れていたんだよ。
ミルンの魔法は風なので、普通に帆を立てれば、簡単に船は進むんだ。
それを全力で、しかもミルンパワー全開でやったらどうなるか……。
「止まれぇええええええええ──────!?」
「漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ漕ぎ全開なの────!!」
「はゆいのや────!?」
ミユンは俺にしがみ付き、俺は小船にしがみ付き、ミルンは目がもうゾーンに入ってます状態で、俺の言葉は──っ、届かない。
遠くでドゥシャさんの声が──聴こえた様な気がした。