知らない場所で遊ぶとこうなる.3
風が──、気持ちいいな。
絶好の旅行日和じゃないか。
キングマッスルホースに引かれている荷台の上部を開放して、のんびりと外を眺めながら、移動している。
「大きいお岩が続いてるの!」
「ほぉ──すごいのぢゃ」
「なやいの!」
ミルン達は、俺が切り拓いた道の両端、横幅百メートル程で高さは九百メートル以上。長さ数十キロメートルに渡る岩壁を見て、驚きの声をあげている。
「凄いだろ! こんなんを三十日で掘れとか、最初本当に──女王頭おかしいんじゃ無いか? って本気で思ったな」
結果として出来た訳だけど、こんなん普通にやろうと思ったら、十年以上かかるぞ。
俺の空間収納って……、土木採掘チートだよなぁ。
山の所有権を、二国の王の名の下に俺に預けて、俺の山だから気兼ね無く空間収納でくり抜ける。一瞬で十メートル四方、いわゆる正方形の穴が掘れるんだぜ……意味わからん。
「旦那様のスキルが、陛下にバレたのが不味う御座いましたね」
本当にそう思うよドゥシャさん。
あの時、仕方無いとはいえ、空間収納使ったのが不味かったよなぁ……。
「私は──、あの空に飛んで行ったミルンさんが、気になりますわ」
ミルン砲だな。
正直言って、俺にもよく分からんぞシャルネ御嬢様。
「お空をミルンが飛んでたの! ……なんで?」
何でだろうなぁ、不思議だねミルン。
でも────あんな意味不明な魔法をくらっても、リシュエルは何処かで生きてるもんなぁ……。最近は変な音鳴らないから、忘れそうだけど。
「リシュエルの奴……、今何処に居るんだ……」
「彼奴がこの大地に降り立つには、相応の依代が必要なのぢゃ。先の戦いでは──、御使の剣に仕掛けをしておったから、来れたのぢゃろうて──気をつけるのぢゃ!!」
へいへい。
何かあったら即──っ、黒姫を武器にするから大丈夫だぞ。
その御立派な角で、リシュエルの尻を刺してから──、装備を剥ぎ取ってやる!
「一瞬、我の角を見ておったが、我は武器でも防具でも──、無いのぢゃ!」
「くゆひめ、ぷゆぷゆよやんよ!」
ミユンや……。
黒姫は『ぷよぷよのお団子』って言ってる様に聞こえるよ? その通りだけどね。
そんな事を話ながら、休憩を挟んで五日間。
アルカディアス領に入る為の検問所へ、ようやく到着した。
道中は穏やかなモノで、魔物が出たと思った瞬間────ミルンが魔法で突進、黒姫が火を吹き殲滅。
ドゥシャさんとシャルネの出番無く、何事もなく進む事が出来た。
ミルンの魔法……尻尾がブワァってなるから、ちょっと面白いな。
「検問所なぁ……嫌な予感しかしないぞ」
「お父さん前に捕まったの! 今日は大丈夫?」
ミルンさん……疑問系はやめて!?
あの真心の水晶みたいな奴が有ったら、非常に不味いぞぉ……また捕まる。
「御安心下さい魔王様。私が居るので、検閲はパス出来ますわ」
そうだった……シャルネはこの国の爆弾お姫様だったわ……『次の者! 馬車を進めて少し待て!』っともう直ぐだな。
パッカラパカラと進ませて、ほいっと──、どうどう良々。
因みに御者は俺がしている。
ドゥシャさんから、『試しにどうですか?』と言われて、やってみたら結構楽しい。
キングマッスルホース達は、俺の事を直ぐに主として認め、なんだったらドゥシャさんよりも上手くなり、若干ドゥシャさんが不機嫌になったりもした。
おっ、若い兵士が来たな……やっぱり水晶持ってるよ……。
「待たせたな。身分を示す物の提示と、この水晶に────っ!? 殺りっげふん! シャルネ御嬢様ではありませぬか! おっお帰りなさいませ!!」
こいつ今、殺戮人形って言おうとしたな。
めっちゃビビってるし、これならすんなり通れそうか────
『では! 御嬢様以外の者達の確認をっ、させて頂く!』
────おいシャルネ……話が違うぞ!?
「私が招待した方々ですのよ? 必要なのかしら……、あぁ、お母様の指示ですわね」
若い兵士の顔が青ざめたぞ?
震えて今にも吐きそうな……吐くなよ。
「左様で御座います! 王妃様より、王族以外で有れば、全ての者を確認せよとの事! 何卒ご理解下さいませ!!」
マジかぁ……下手したら入国出来ないじゃん。どうしたものか……。
ドゥシャさん、ミルン、黒姫が触って、何も問題無し。
「わたちゅわ?」
「おい兵士さん。この子もすんのか?」
ミユンは、黒姫より小さい幼児なんだけど……やるんだな。
「お願い致します。幼児といえども決まり事ですので」
「あい!」っとミユンが水晶に触った瞬間……輝かないし光らないぞ?
「その水晶壊れてないか?」
兵士が『あれぇ?』と水晶を確認してるが、壊れているなら丁度いい!!
「俺が触ってみようか?」と水晶に触ると、うんちゃんと正常に真っ赤に輝いて──、ピシッとビビが入って割れたね!!
兵士さんがにっこりと笑顔になり、俺もにっこりと笑顔で返し、兵士さんが俺の手首を掴み、俺はその手首を掴んでいる手を掴み、兵士さんが俺を馬車から引き摺り落とそうとして来たので、俺は自慢の脚力で落ちない様に踏ん張り、お互いに息を吸って────
「犯罪者だぁあああ────────!!」
「全力威圧だゴラァアアアア────!!」
────王都の時と違うのは、捕まる前に制圧出来るスキルが有ると言う事だな!!
兵士達が一瞬で俺の威圧に巻き込まれ、誰一人として動く事が出来ずにいた。
ついでとばかりに、他の商人達や、冒険者も巻き込んでしまったが……知らないフリだ。
「お父さんは魔王なの!」
「えげつないのぢゃ……」
「まよう、つやい!」
「今のうちに殺りましょうか旦那様」
「情け無い兵士達ですわ」
何か女性陣全員言いたい事言ってるね。
さて──、ここからどうしようかな。
角を生やして手をワキワキ……。
「あっ、貴方っ様はっ、魔王様っでででっ、ありあっり、ますかかっ!?」
噛みまくってるな……俺の事知ってるの?
「ジアストール国、城塞都市ファンガーデン代表の一人、小々波流だ。魔王と勝手に言われてるだけだからな!」
おぉ? 兵士全員急に……何故土下座……。
「「「どうぞお通り下さい!! 首都にて王妃様がお待ちです!!」」」
全員声を合わせて怖いわ!!
レイズ国王の嫁さん、シャルネの母親が俺を待っているって何でだよ!
「すんなり通れたの!」
ミルンさんや……、全く嬉しく無い。
とりあえず……、行くか。
ずっと兵士さん達土下座してるし、他の人達も──、俺の威圧に巻き込まれて泡吹いてるし、旅行って……大変だなぁ。