表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
三章 異世界とは妖精さんが居る世界
183/315

働きたくない症候群.3



 ミルンと黒姫が、ミユンなる幼児をあやしながらも──、まだか、まだなのかと涎を垂らしながら、燻製肉が出来上がるのをまっている。


 ただし、目線がミユンの方を向いているので、側から見たら、ミルンと黒姫がミユンを見て、涎を垂らしている様にも見え……、何と言うか、非常に怖い……。


「お肉まだかなぁ……、じゅるりっ」

「たえやえゆのっ──!」

「まだなのぢゃぁぁぁじゅるっ」


 うん……。二人に挟まれてるから、ミユンも、自分が食べられるのでは? と心配している様で、俺に小さい手を向けて、助けを求めているが……、すまん。

 

 今のミルンと黒姫を、下手に刺激したら、コッチに矛先が向くので、そのまま二人に挟まれていて欲しい。


 それにしても、このミユンなる幼児……。観察していると、色々と不思議に思う。

 肩まである髪は、まるで太陽から、陽の光を取り込んでいるかの様な、淡い緑色。

 こっちを見てくるその瞳にも、同じ色を宿し、背中には四枚の小さな羽根。


「こんな種族……、ここに居たかなぁ……」


 大きくなったら、さぞ美女に成るであろうその可愛いお顔が、ミルンと黒姫にぷにぷにされて、若干の赤みを帯びている。


「黒姫と違うの! ぷにぷに」

「やぁう!」

「もちもちなのぢゃぁ……、ぷにぷに」


 おっと──、獣耳角っ子羽根っ子の、ほっこりする姿に気を取られていた────出来たかなぁっと……、良い感じだ!!


「お肉なの!!」

「おにゅきゅ!」

「お肉なのぢゃ!!」


 一斉に肉を見るなよ怖いから……。

 流石に幼児には──、塩分濃すぎないかな。

 試しに……、切り分けて、端っこを味見味見……、むぐむぐ……、視線が凄いっ。


「酒のお供には最高だな。まぁ、これぐらいなら大丈夫だろ」


 皿に盛り付け、お野菜も添えて────ミルン、黒姫、ミユン? の目の前にそっ……と置いてから、様子を見る。


 皿に盛り付けられた、香ばしい匂いに、ミルンは涎が滝となり、黒姫の瞳孔が縦に割れ、ミユンはまだなのかと、小さな手を忙しなく動かしている────『どうぞ────』

 

 召し上がれ──と言う前に、三人が肉を凄い勢いで食べ始めた。


「いつもと違う旨さなのっムグムグッ」

「おにゅきゅムチュムチュうみゃ!」

「酒をよこすのじゃ魔王っ! 早よ早よ!」


 ミルンとミユンは肉に夢中になってるが、黒姫さんや……、デカくなって迄呑みたいのか。


「一杯だけなら呑んで良しっ、ほらよ──」


 大事な酒樽から、コップに酒を注いで黒姫に渡すと直ぐ────『んぐっんぐっんぐっ──ぷっはぁあああ────っもう一杯じゃ!!』


「一杯だけって言っただろ、やらんぞ」


 繁華街で大量買いした安酒だけど、俺の楽しみでもあるし、何樽かは寝かせて熟成させてみたいから、あまり消費出来ない。


「そんな事言うで無いぞ魔王よ! あと一杯! あと一杯だけで良いからの! 今度はちびちびと呑むからお願いなのじゃぁあああ──!!」


 くっ……!? 胸が近いっ、顔が近いっ、大人バージョンの黒姫の破壊力がヤバ過ぎて────!? ……ミルンがこっちを凝視している……、これは非常に不味いぞクソっ!!


「分かったから離れろ黒姫──!! ほれっ、今度は大事に呑めよ!」


 黒姫を引き剥がし、酒を渡して……、ミルンを見てみると、普通にムグムグと肉を食べていたよセ────フっ!!


「ケチな魔王なのじゃ。んくっ……、うむ。この肉には酒が一番じゃのぅ」


「おちゃけ──、のゆの!!」


 いやいや、ミユンは幼児だから、くれくれポーズしても絶対あげないからね!!


「お酒は二十歳になってからなの! ムグムグ。だから駄目だよミユン! めっ、なの!!」


 ミルンが────マトモな事を言っている。

 以前俺が教えた事を、しっかりと周りの子供にも、教えてくれているんだなぁ……。

 

 あれ……、涙が出てくるよ……。

 嬉し涙で……、あって欲しいなぁ……。


「おれも食べよう……」

 

 俺の分を切り分けて、お酒も一杯だけなら良いよねっ、とコップに注いで、さあ、いただきま────『発見したぞぉおおお────!!』


           ◇ ◇ ◇


 これは……、ムグムグ……、非常に……、ムグムグ……、旨いな──とっ、ムグムグ。


「流君っ……、大人しく同行したまえ!!」


 どうやって……、ムグムグ……、ここが分かったんだ……、ムグムグ……ぷは──っ。


「何でここが──、分かったんだ村長」


 ミルンや黒姫がこの場所を喋る訳も無し。

 ドゥシャに内緒で、こっそりとお肉を食べれる秘密基地だからな。

 

「遠くから煙が見えたものでな! まさかと思い、来てみたのだ!!」


 あっ……。


「お父さんお馬鹿なのムグムグ」

「馬鹿なのじゃムグムグ」

「およかもよムチュムチュ」


 三人共肉を口に入れたまま、のんびりしているんじゃありません!!

 まぁ……、セーフハウスはまだ有るから良いけど、村長一人だけで来る訳が無いよな……、どこだ……。


「諦めたまえ流君! 流石の君でも、この包囲からは逃れられんぞ!!」

 

 その言葉に俺は周囲を確認するが────誰も居ないし、足音も無い。


「さすが影達……全然居場所が分からないけど────っ、『威圧っ!!』これならどうよ!」 


 頭に角が生えるよ──、魔王モード全!開!

 お──、お──、聞こえる聞こえる。

 威圧の効果で、ミルン、黒姫、ミユンを除くここに居る全ての者へ、殺意では無いが、確固たる意志を放ち────それに反応して、身体が草木に擦れる音や、足音が良く聞こえる。


「ぬうっ!? 実際に受けてみるとっ、中々キツイではないか!!」


 村長は何とか威圧を凌ぎ、だが、脚が震えて、顔には汗が滲み出ている。


 逃げる────チャンスだよね!!


 そう思い、全力ダッシュの予備動作に入ったその時────

「ミルン御嬢様! 旦那様を捕獲して頂きましたら! 一週間お肉食べ放題に御座います!!」

────その言葉を俺が理解する前に、ミルンが俺に飛びかかって来て、なぜか黒姫(大人バージョン)とミユンも加わり、俺は走る出鼻を挫かれ……予備動作の姿のまま固まった。


 クラウチングスタートの姿勢ですね!


「クソっ、黒姫離れろ! お前がデカいから走れ無いんだよ!! せめて小さくなってから俺にしがみ付けよ────!!」


「お肉の為なのじゃぁ」

「お父さん……逃がさないの……お肉の為です」 

「まよう! にやさやい!!」


 くっ────さっきの声っ! ドゥシャさんかよっ……駄目だ。黒姫が邪魔なのと、ミルンの眼がヤバいし、ミユンに至っては、迷う肉野菜って何言ってるのか分からんっ。


 ゆっくりと草村から歩いて来る人影……。

 黒目黒髪に、森の中を進んで来たハズなのに、埃一つ無い、メイド服を着た、ジアストール国暗部のリーダー? ドゥシャさんが現れた。


「旦那様、諦めて下さいませ。開通式を延長しておりますので、参りましょう」


 嫌だぁあああ──っ!! もう働きたく無いんだよぉおおお────!!


 叫び声をあげようとしたが、何処から音も無く現れた影さん達によって、一瞬で簀巻きにされた俺は……、『む────っ!!』必死の抵抗も虚しく、開通式の場へと、担がれて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ