働きたくない症候群.2
ふう──っ。
一人湯さいこ──う!!
のんびりと──、時間を忘れてぇ──、ゆっくりと浸かる湯は……、至福の時間だぁ……。
釣りをのんびりと楽しんだ後は、設置してある何ちゃってドラム缶風呂で、ゆったりと身体を温める。
因みにこのセーフハウスには、他にも色々と機能が備わっており、簡易小屋や、水洗トイレ、ハンモックに折り畳みベッド等、もうここに住めるよねってくらい充実した内容。
食材は、空間収納に山程有るし、今後、家に居るのが辛くなったら、ここに住んでもいいかなぁ……と、も思わなくも無い。
「冷蔵庫が有ればなぁ……、キンキンッに冷えたお酒に、ミノ肉のジャーキーを食べてっ、くぅ────っ、夢が広がるぞっ」
そう言えば……、燻製肉ならここで作れるんじゃ無いかな……。野外だし、人目も付かない。何より、外での調理はキャンプみたいで楽しいんじゃないか!!
「確か──っ、燻製肉の作り方は……、思い出せ、思い出せ俺……昔色々な本見ただろっ」
コカ肉と、豚野郎と、ミノ肉の三種類しか肉は無いから──、そのブロック肉に塩を塗り込み、余分な水分を取りつつ、特製ソースを塗り塗り、塗り塗りした後に──、ちょっとそのまま置いといてっと。
「煙で燻すんだよなぁ……、作るか!!」
雑草を、空間収納で根こそぎ取り込み、近場へ捨てて、山を削る際に、大量に手に入れた石ころを、縦横一メートル、高さ三十センチまで積み上げる。
「火の粉が、飛ばない様にする為だな。後は、それを高さ二メートルの木板で囲って、天井から、肉をぶら下げれる様に細工をすれば……っ」
あとは、火が食材に当たらない様、調整して……、これで良いよな?
「完成したぁあああ────っ、とっまだだ!」
いやいやっ、まだ早いぞ俺っ!!
燻製肉を作ってからでないと、完成とは言えないし、これで出来るか分からんからな。
食材を吊るして、燃やす燃料は……、勿体無いけど、香草を入れるか。
石の囲いの中にそれを入れ、木の枝等も一緒にっと──、あとは火を着けて、じっくりと待つだけだぁ……、楽しみだなぁ。
煙は──、良しっ。良い感じに上から出てるし、木枠からは少ししか漏れて無い。
「大体の目安は、一時間から六時間……、時計が無いから──、日時計だな」
木の棒を、ブスっと地面に差し込んで──、この影を目安にすれば問題無し。
こんな……、まったり時間が……、毎日続けば良いのになぁ──。
もう……、働きたくない。
◇ ◇ ◇
肉を燻す為の火が消えない様に、ぼ──っとその火を眺めていたら、背後から物凄い殺気と物音が────『お肉の匂いっ……じゅるっ』
草むらから眼が見えてて超怖えぇ──よ!!
ミルンさんの嗅覚だったら、気付くと思ってたけど、早過ぎるわ!
「香ばしい匂いなのぢゃぁ──!」
ミルンと黒姫は、基本セットで行動してるからな。ミルンが居るなら、黒姫も居るよね。
「もうちょっとだけ、待ってなよ。燻製肉を作っているから、時間がかかるんだ」
「わたちゅも、たべゆ!」
はいはい、分かってますよ。大人しく待って…なさい……な…………?
「ん────っ?」
ミルンが、知らない幼児を抱っこしている。
凄い笑顔で、尻尾を振り振りしながら、全裸の幼児を抱っこしている。
新しいお友達か……、なぜ全裸。
「この子、ミユンって言うの!」
ミユン? なんかミルンと似た名前だな。
いや、それよりも……、何か俺、ミユンと言う幼児に、ガン見されてるんですけど。
「まようっ! みちゅめた!」
迷う? 見つめた? 迷子なのか?
「迷子さんかなぁ……。ミユンちゃん、お家はどこか──、わかるかな?」
幼児とは言えここは異世界、もしかしたら話が通じるかも知れない。
「むうぅぅ──、ちやう!」
迷子では無いと……、余計分からんぞ。
「のぢゃぁ……。見た事ある様な…、無い様な……、よう思い出せぬのぢゃ」
黒姫もよく分からない様だ。
幼児はぷんぷん怒っているけど、ミルンがそれを見て、嬉しそうに抱っこしてるんだよ。
意味が分からない。
「まようっ! おやなしっ!」
迷う……、親無し……っ、捨て子か!?
だから、こんな姿なのか……。
いやいや、よく考えろ。このファンガーデンに居る獣耳達が、大事な子供をこんな姿で放り出すか? 否!! 断じて否だ!! そんな獣耳なら間違い無く、俺の獣耳センサーに引っ掛かるからな。
「駄目だ…、分からん……、後回しにしよう」
後で役場に行って、この子の確認をすれば良いから、今は────『肉だ!!』
「まようっ! おやなしやの!」
まだ言ってるな……。