間話 ドゥシャの一日.6
捕まえた男を影に預け、商業区側の門の前で、ドゥシャは、商人達の出入りを観察しながら、配置している馬人に話を聞いていた。
「怪しいやつらねぇ……。ここは見ての通り、往来は商人だけだし、入る際はあそこの──、真心の水晶だっけ、あれで見てるから、怪しい奴等何て通さないよ」
ふん……。確かに、あの真心の水晶であれば、直ぐさま、その者の罪が色で現れ、取り押さえる事が出来ますからね。
「因みに、他の門も、馬人達が門番をしているのでしょうか」
配置の采配は、ヘラクレス様がされておりますが、どうでしょうか。
「いや、貴族門と商業門はウチらだけどさ、冒険者側だっけ──、一般の門は、猫人が見ている筈さね」
馬人達は元傭兵で、その仕事振りは素晴らしく、出入りの商人だけで無く、住民達からの評判も良い。
「お忙しい中、有難う御座います。次回は何か、差入れを持って来ますので」
「良いさそんなの! ウチらはこれで金を貰ってるんだから、気にしなさんなっ!」
是非、旦那様にも見習って頂きたい心構えですね……、無理でしょうか。
「一般門ですか……、影達に見張らせましょう」
今日は時間も遅いですし、もしまた、影達の見落としが有れば、再教育の口実にもなりますし、良い実地訓練ですね。
「帰って、ミルン御嬢様との御約束した、お肉の準備に御座いますね」
万が一、ミルン御嬢様の御機嫌を、損なう様な事になれば……、考えただけでも、ぞっと致しますね。
※
「只今戻りました……。まだ誰も、お帰りになられておりませんね」
それでしたら──、先に料理を済ませて、お帰りをお待ち致しましょう。
「朝はコカ肉でしたから、お夕飯は──、ミノ肉でステーキに致しましょう」
ミルン御嬢様の分は、極厚に致しましょう。
御約束で御座いますからね。
先ずは──、ミノ肉の肩ロースに、軽く切れ込みを入れて、塩少々、胡椒少々と、臭み消しにレモモの汁を軽く振り、浅い鍋に油をひいて──、熱くなったら肉を入れ、先に側面を軽く焼いてから、両面にも火を通す。
「ただいま──!」
「のぢゃぁ……、疲れたのぢゃ……」
帰られた様ですね。
「ドゥシャお肉──?」
「左様で御座います、ミルン御嬢様。出来上がるまで、今暫くお待ち下さいませ」
スンスンと匂いを嗅ぐ、ミルン御嬢様のお姿は……、やはり愛らしい。
「のぢゃぁ……、お腹が空いたのぢゃ!!」
次に摘み食いをしましたら、すぐさま影達の所へ送りましょう……ふふっ。
「────っ、一瞬寒気がしたのぢゃ……」
「黒姫お風邪?」
さて……、お肉の焼き加減を見て──、火を消し蓋をして、少し待つ間に、食用キノコを細切りにして、別の鍋で軽く火を通し、先程のお肉と混ぜて、皿へと移して、完成ですね。
旦那様いわく、もっと調味料が有れば、より一層料理の幅が広がるとの事でしたが、中々難しい様で御座います。
「帰ったぞぉ──、疲れたぁあああっ」
おや、噂をすれば帰って来られましたか。
「お帰りなさいませ旦那様」
最近は本当に、毎日働いておりますので、そのまま真面目にして頂きたいものです。
「後はシャルネだけですね」
少し待っていたら──「只今戻りましたわ」とシャルネも帰って来たので、御夕飯を食べ、洗い物をした後で、朝と同じ運動をしてから、湯浴みを行い、ベッドへ入る。
ベッドの中で、ドゥシャの日課である日記を書いて、それを──、誰にも、見つける事が出来ない場所へ隠す。
数少ない趣味の一つなので、ミルン御嬢様にも、秘密で御座いますね。
今回はドゥシャ回でしたね……最後は巻きですが。
暗部達のポンコツっぷりときたら、マジやばい。
『再教育を致しましょう』……やめてあげて……。
ポンコツのミルン御嬢様親衛隊はまた出るのか!?
それは再教育次第ですね……。