間話 ドゥシャの一日.5
店の中へと入ると、外とは全くの真逆。
薄暗いが、見えない訳では無く、夕日の色とでも言うのだろうか。落ち着いた雰囲気の店内では、静かに話をしながら、冒険者と羽人が、酒を交わしている。
テーブル席が八つに、カウンターには十席。
この時間でも、大半の席が埋まっており、この店が良心的である事が、見てとれる。
「いらっしゃいませ、お客様。紹介状を、拝見させて頂きたく存じます」
成程。基本は紹介制で、外の客引きの子が同伴で有れば、そのまま席に着ける訳ですか。
「失礼致しました。私、監査役のドゥシャと申します。こちらの代表の方に、取り次いで頂けますか」
おっと、顔色が変わりましたね。
この男性は、監査役とはどう言う者か、良くご存知の様で、安心しました。
「こちらこそ大変失礼を。宜しければ、こちらの席でお待ち下さい。直ぐに代表を連れて参りますので────っ。そこの君、こちらの方に飲み物をっ」
そこまで気を遣って頂かなくても。
話を聞きたいだけですのに……。
「お隣、失礼致します。どうぞ、コチラをお飲み下さい。この店オリジナルのお酒ですの」
そう言って、良く冷えたグラスに、ゆっくりとお酒が注がれていき、目の前に出される。
氷を入れないのは、お酒の味が薄くなるからだろうか……。
「それでは、お言葉に甘えて────んくっ」
一気飲みである。
この風味……王城の中にあるお食事処の、米、なる穀物の香りが、より深く、より透き通る様に洗練され、酒精は濃いが、飲み易い。
「あら、お酒にお強いのね」
暗部が、酒如きに潰れる訳もないですね。
ついでに、この女性にも聞いておきましょう。
「一つお尋ねしたい事が。本日、黒姫様が来店され、お酒を樽呑みした際に、一緒に居たミルン御嬢様に、他国の通貨を渡された方を、ご存知でしょうか」
少し上を向いて考えているが、何を思ったのか、一つの席に指を向けて────
「あそこでずっと、呑んでいる人よ」
────と言い放った。
この様な高級店では、客の情報を一従業員が、語る事は無い。その常識を打ち壊し、指の先にフッ──っと、息を吹きかけ、ウインクして来る従業員は、間違い無く只者では無いだろう。だが、今はそれよりもです。
黙々と呑み続けている男に近づき、横に座り、それと無く顔を見と────目が合った。
「なんだぁ、この店はメイドもいるのかぁ」
この姿…傭兵風ですが、違いますね。
傭兵よりも、兵士に近い雰囲気。
酔っている様に見せて、私の目を見るその眼差しには、全くのブレが無い。
間者か、逃亡兵か、どちらにせよ、放置するのは危険でしょう。
一体どうやって、入り込んだのでしょうね。
「東の国から、どの様な御用件でしょう」
私の言葉に男はピタリッ──と酔ったフリをやめて直ぐ、懐に手を入れて武器を取り出そうと────する前に、ドゥシャが動き、目、喉、胸と一瞬で殴打し、男は気絶した。
「尋問は、影に任せましょう」
男の首根っこを掴み、ずるずると引き摺りながら、店を出て行こうとするが、ふと、思い出したかの様に後ろを向いて、先程の羽人に御辞儀をする。
「御協力、感謝致します。それと、お騒がせして、申し訳御座いませんでした。役場に言って頂ければ、金一封が出ますので、それでは」
そう言い残し、店を後にした。