間話 ドゥシャの一日.4
どこのお店でしょうか……。
ミルン御嬢様の情報を元に、歓楽街へ来たものの、お店の名前を聞いておりませんでした。
いや、何でも頼りにしていては、ミルン御嬢様付きのメイドとして、恥ずべき事。ここは自分の目と耳で調べなければ。
昼過ぎだと言うのに、歓楽街は人通りが多く、冒険者や商人達が、下卑た眼をしながらお店へと吸い込まれて行く。
客引きは主に、見目麗しい獣族の女性達。
艶やかな耳と尻尾を動かして、男性の目を引き、その母性の塊でもって、男性の足を進ませ、手をそっと握り、暖簾なる布地の幕まで誘導して、そのまま中へと、連れて入る。
旦那様の指示の下、ぼったくりや、無理な客引きは御法度。と通達されているので、普通の冒険者等が足繁く通い、繁盛している。
「余り、来たくは無いですが……」
なぜなら、この場所に私が居ると────
「おぉ、耳の無い姐さんもいるじゃん」
「ねえお姉さんグヒッ。お店教えてよぉブヒッ」
「メイド姿……そそられるぅ」
────などと言った馬鹿共達が、私を客引きだと思い込み、下卑た眼を向けて来るから。
仕方ないですね。
これは不可抗力と言うモノで、この馬鹿共達から、情報を頂くと致しましょう。
「どうぞ。此方に御様います」
笑顔で三人を────裏路地にご案内。
さて、殺さぬ様、情報を聴き取りませんと、余り手間はかけたく無いですからね。
何度も、同じ要領で裏路地へと誘い込み、その都度拷……聴き取りをして、ようやく六組目で、当たりを引いた。
お店の名前は『羽に包まれて』と言い、羽人達のみで構成された、高級店と位置付けられる立派なお店。
旦那様いわく────
『御胸様と、ふわふわな羽に包まれて呑むお酒は、例えそれが安酒だろうと、高級酒の味わいとなる至極の一時』
────と言われていたので、間違い無く行かれたであろう事を、ミルン御嬢様にご報告して、涙を流して逃げ惑っておられた。
「あそこですか……」
客引きの羽人達も他の店と違い、無駄な誘導はせず、綺麗なドレスを着て、笑顔で手を振るのみと、悪く無い勧誘である。
それでは、身分を使い中へと入りましょう。
私のファンガーデン内の身分は、商会長及び、繁華街全般の監査役であり、歓楽街もそれに漏れず、私の匙加減で、潰れたり、営業不可となる事もしばしば。
「失礼致します。ドゥシャと申しますが、お店の責任者の方へ、取り次ぎをお願い致します」
入口に立っていた、客引きの羽人達に声をかけたが、私の上から下を一瞥した後、溜息を吐いて、告げてくる。
「申し訳ないですが、人種の女性は雇えませんの。ここで働けるのは羽人だけ。職探しなら、役場に行くといいですわ。メイドさん」
ん────っ、働きに来たのでは無いですが。横柄な態度ですが、役場をすすめて来るあたり、根は良い子なのでしょう。
「私は、監査役のドゥシャと申します。再度、お店の責任者の方へ、取り次ぎをお願い致します。出来ましたら早急に」
先程は、監査役と名乗りませんでしたので、コレなら大丈夫でしょう。
「……監査役って何よ。あまりしつこいと、役場に訴えるわよ。仕事の邪魔をしないで下さるかしら」
これは……予想外ですね。
監査役を知らないと言う事は、この場所に来て日が浅いと言う事。店を運営するにあたり、監査役の存在を、従業員へ周知する様、厳命されておりますのに。
「仕方ないですね。勝手に入らせて頂きます」
入口に立っていた羽人達が、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立て、邪魔をして来ますが、無駄で御座いますので。
中はどの様に、なっているのでしょうか。
店に入れさせまいと、壁になる羽人達を、ゆっくりとした動きで落とし、中へと進む。